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少子化対策に外国人材 韓国の取り組み

高度外国人材が技術発展を左右しかねない韓国 深刻化する少子化を救うカギは博士課程の留学生高度外国人材が技術発展を左右しかねない韓国 深刻化する少子化を救うカギは博士課程の留学生

 日本より少子化が進んでいるのが、お隣の韓国だ。合計特殊出生率は1を遥かに下回り、このままでは「2750年に韓国は消滅する」(韓国の国会立法調査処)という推計も発表されている。このような少子化に伴う労働力不足を懸念して、韓国においても古くから外国人材の受け入れ対策を実施してきた。その対策は、単純労働を担う非熟練の労働者に対するものから、高度な業務に従事してもらう高度外国人材に対するものまで幅広い。
 これらの対策によって、単純労働に従事する外国人材は増えた。一方で、高度外国人材の獲得はままならない。このため、その対策はさらに強化している。韓国はどのようにして高度外国人材を獲得し、彼らをどのように生かそうとしているのか。韓国の労働事情に詳しいニッセイ基礎研究所上席研究員/亜細亜大学都市創造学部特任准教授の金明中氏に聞いた。

金明中さんの写真

ニッセイ基礎研究所上席研究員/亜細亜大学都市創造学部特任准教授

金 明中(きむ みょんじゅん)

独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。亜細亜大学都市創造学部特任准教授。博士(慶應義塾大学、商学)。日本と韓国における社会保障制度や雇用政策、経済政策を研究。最近の関心事は新型コロナウイルス、働き方改革、テレワーク、ギグワーカー(クラウドワーカー)、外国人労働者、育児政策、日韓関係等。2015年10月から執筆を担当する東洋経済日報のコラム「曲がり角の韓国経済」では韓国の経済・社会・社会保障等の現状や課題を紹介している。また、2019年7月からはニューズウィーク日本版でコラム「日韓を読み解く」担当。

日本よりも深刻な
少子化が進む韓国

――韓国が高度外国人材を積極的に受け入れ始めた背景を教えてください。

金明中さんインタビュー中の写真

 韓国は経済協力開発機構(OECD)に加盟している国の中で最も少子化が進んでいる国です。合計特殊出生率でいえば2000年代に入った段階で既に1.5を下回っていましたが、2018年には初めて1を切りました。昨年は0.78と7年連続で過去最低を更新しています。日本の少子化も深刻ですが、それでも出生率は1.26ですから、韓国の方が遥かに問題なわけです。

 こうした状況の中、将来的に労働力が不足することは明白であり、この問題をいかに解決するかについて市民も高い関心を持っています。女性や高齢者など、これまで働く意思がなかった人口が働ける環境を整備して、労働力人口にする試みもなされていますが、それだけでは足りません。

 その対策として、韓国では外国人労働者を積極的に受け入れてきました。その一つが2004年に導入した「雇用許可制」です。雇用許可制は、「外国人産業技術研修生制度」(日本でいう「技能実習制度」)に代わるもので、政府から雇用許可証を受け取ることで、外国人労働者を合法的に雇用できるようにするものです。雇用許可制が対象としたのは製造業、農畜産業、漁業、建設業、サービス業の5業種でした。単純労働を担う非熟練の労働者に対しては、日本に先んじて外国人労働者に対して門戸を開いていたのです。

 雇用許可制は一定の成果を上げました。一方、韓国が強みとする半導体やディスプレイなどの産業で働く従業員も韓国人だけでは足りなくなってきています。このため、単純労働だけではなく、高度な業務に従事してもらうための優秀な外国人(高度外国人材)の受け入れ対策も、以前から積極的に実施しています。

――具体的な策とはどのようなものですか。

 1つ目は、高度外国人材が韓国に入りやすい仕組みとして、2013年3月に導入した電子ビザ制度です。教授や先端科学技術分野雇用推薦書をもらった専門人材、認定大学の修士・博士課程の留学生などの優秀な外国人を対象にした制度で、申請から審査、電子ビザの発給までがオンラインで完結できます。また使用する言語が韓国語だけでなく英語でもOKという、外国人にとっては簡単でシンプルな仕組みになっています。

 2つ目は2010年2月に始めた「観光・休養施設投資移民制度」です。これは、政府が指定した地域の休養目的の滞在施設に投資した外国人に、居住資格を付与するものです。さらに、この制度をより拡大し、2013年5月には「公益事業投資移民制度」をはじめました。休養目的などに限らず国内に一定資本を投資した外国人には経済活動が自由な居住資格を付与し、さらに5年間投資を維持すると、永住資格への変更を許可するものです。投資が可能な外国人という意味では、優秀な外国人に的を絞った対策ともいえます。

 さらに、貯めたポイントに応じてビザを発給する「外国人熟練技能人材点数制ビザ」制度の導入も2018年から本格的に実施しています。これは深刻な人手不足を抱えている鋳造・金型・溶接といった根幹産業の中でも、特に中小製造業が熟練技能人材を確保することを目的にしたものです。非専門就業などの資格で5年以上、韓国に正常に勤務した外国人が、熟練度や韓国語能力などの項目で一定の点数要件を満たした場合は、長期滞在可能な特定活動資格に変更できる制度です。

 ポイントを活用した制度といえば、「優秀人材点数(ポイント)制居住ビザ」制度も該当します。年齢、学歴、韓国語能力などをポイントに換算し、一定点数を満たした外国人に発給するビザです。すなわち、高度な能力を生かせる外国人であればこの制度を利用することができ、滞在期間は5年、その間は転職が自由にできるのが特徴です。

博士課程まで
進んだ留学生は留まる確率が高い

――単純労働に関しても日本より先に外国人に門戸を開き、さらには高度外国人材の獲得に対しても様々な制度を韓国では導入しています。全体的に外国人材の受け入れで韓国は先を進んでいるように感じます。

金明中さんインタビュー中の写真

 一見、そう思われるかもしれません。ただし、高度外国人材の獲得は、必ずしもうまくいってはいません。統計庁・法務部のデータによれば、2022年の韓国における外国人就業者の数は84万3000人。そのうち、専門人材といわれる人たちは5万1000人に過ぎません。割合にして6%です。5万1000人の中には、先ほども説明しましたが鋳造・金型・溶接といった産業において5年の実務経験を持ち、専門人材と認められた方が多くを占めますが、それでもその割合は多くはないのです。

 このことから分かるのは、韓国の外国人労働者の受け入れ対策が、非熟練労働者、すなわち労働集約型で活躍する労働者の獲得に功を奏していたということです。策はいろいろ儲けていたものの、あまり高度外国人材の獲得には結びついていないことが、データで分かったのです。このままでは高度人材の受け入れで他国との競争に負けてしまうと反省したのでしょう。新たな対策を韓国政府は講じることになります。その大きな柱は、韓国に留学に来ている留学生に的を絞って、彼らにそのまま韓国で働いてもらうという方策です。

 その1つとして2023年1月に「優秀人材ファーストトラック制度」を導入しました。この制度は、理工系の韓国最高峰の国立大学KAIST(韓国科学技術院)をはじめ、DGIST(大邱慶北科学技術院)、GIST(光州科学技術院)など、理工系に特化した大学及び研究機関で修士・博士を取得した外国人留学生が、そのまま韓国で働けるように環境を整えたものです。

 具体的には、留学生ビザの所持者が韓国の永住権や国籍を取得するまでにかかる期間が6年から3年に短縮されました。手続きも5段階から3段階に減りました。留学生は、これまで韓国内での就職を行うために専門職ビザに変更してから3年が過ぎないと、居住ビザを取得できませんでした。それが、就職しなくても学位を取り研究を続けてさえいれば、居住ビザを取ることができるようになったのです。

――将来的に彼らが韓国の企業で働くことを見越しているのでしょうか。

 韓国での就職を希望する留学生は、韓国統計庁法務部の2020年調査で32.7%、韓国保健社会研究院2021年調査で30.7%となっています。ただこれが、韓国で博士を取得した留学生になると比率が上がり、統計庁の数値によれば2017~19年に取得した2767人のうち42%が実際に韓国で就職しています。韓国職業能力開発院の調査ではさらにこの数値が大きくなり、韓国で博士を取得した留学生の56.3%が韓国で就職しているという結果が出ています。

――博士課程まで進めば、韓国で働く確率が高くなるということですね。

 やはり博士課程まで韓国で学ぶということは、それだけ韓国に愛着を感じてくれていることだと思います。そこで博士課程に進む学生の裾野を広げるためにも、韓国政府は学部生と大学院の修士も含め、支給する奨学金を拡大しています。2018年には奨学金を付与していた外国人留学生は763人でしたが、年々この数を増やし、2022年には1360人と約80%増です。奨学金を支給して韓国に入る外国人を増やせば将来的に高度人材が確保できるという考えです。

 韓国の大学には2022年、修士課程、博士課程合わせて約4万4000人の外国人留学生が勉強しています。このうちの約4割が博士課程です。さらにこの中で理工系が8500人いて、その中の56%が博士課程です。理工系を中心として、これらの人材を最大限確保したいというのが韓国の狙いです。

韓国における修士課程、博士課程で学ぶ外国人留学生の数。左が全体、右がその中から理工系に絞った数(韓国教育開発院「2022年教育統計」より)

韓国の未来は
高度外国人材に委ねられている

――そもそも韓国では、外国人留学生の獲得にも力を入れてきたのでしょうか。

 留学生を増やす政策は古くから行われています。その先駆けは2005年から2012年に開始した「Study Korea Project」です。当初は留学生を5万人に増やすことを目標に掲げていましたが、5万人を早期に達成したため10万人に上方修正。最終的にはこの目標には届きませんでしたが、2012年の外国人留学生は約8万7000人にまで増やすことに成功しました。これを受けて、2013年から「Study Korea 2020 Project」を実施しています。これは2023年までに外国人留学生を20万人に増やすことを目標としたものでした。

 そして最近になってより高度外国人材の重要性が議論されることになり、誘致政策はさらに強化されることになりました。2023年8月に教育部は「Study Korea 300k Project」を発表したのです。これは2023年~2027年にかけてのプロジェクトですが、2027年までに留学生の数を30万人にまで増やすことを目的としています。

 この目標を達成することはもちろん簡単ではありません。2022年4月時点で、留学生の数は約17万人。今後5年間で13万人の上積みが必要ということになります。2012年から2022年の10年間で増えた留学生の数は約8万人。これを踏まえると、この目標を達成するためには抜本的な制度改革が必要となります。このため、人口が少ない地域で留学し、その後に就業した外国人材に対しては長期滞在ビザを発行したり、大学だけでなく地域企業や地方自治体が協力して、技術教育を行ったりすることが決められています。

 こういった政策の強化は、最近の政府関係者の発言にも裏打ちされます。11月21日には、韓東勲(ハンドンフン)法務部長官が、「KAISTの約1万1000人の在籍学生のうち外国人研究者が1500人程度いる。そしてこの外国人研究者が韓国を去れば、韓国の技術発展はありえない」と発言しました。そのうえで、「ビザ政策を抜本的に改善し、皆さんを韓国に定着させる。韓国で研究、勉強、仕事をしたい人がビザの心配をしないようにする」と強調したのです。さらにこう続けたのです。「これは皆さんのためだけでなく、韓国、私たち皆のためだ」。すなわち外国人研究者が韓国の今後の競争力を左右する存在であることを、はっきりと意思表明したのです。

好待遇で外国人研究者を
誘致する政策も

――国全体として留学生にはかなり期待されているということですね。

 留学生だけでなく、海外の優秀な研究者を誘致するプログラムもあります。「BRAIN POOL(BP)プログラム」といわれるものですが、これは海外の優秀な研究者を国内の研究開発の現場に誘致することを目的とするものです。海外に居住中で博士号を取得しているもの、あるいは海外の企業などで5年以上の研究開発経歴を持つ技術者を対象としています。元の所属先の年俸を保障しながら月額500万~2,500万ウォンの間で給与は調整。さらに別途、研究材料費として年1,000万ウォン、経費として最大800万ウォンを支給するというのですから、かなりの好待遇です。2023年には120人以上を新たに誘致すると発表しました。

 さらにその発展系として「BRAIN POOL PLUS (BP+)プログラム」があります。これは世界トップレベルの人材を正規職員として韓国に誘致する仕組み。期間は最大10年で、正規職として韓国の研究機関で勤務、人件費と研究活動費として年額最大6億ウォンを支給します。ただ募集の規模は小さく、2023年の場合で最大5人となっています。

 このような好待遇で外国人研究者を誘致したいのも、先ほどの韓東勲氏の発言と目的は一緒です。韓国の国としての競争力を高めていくには、技術開発が欠かせない。一方で、深刻となる少子化によって韓国国民だけでは満足な技術開発が行えない。そして、このギャップを埋めるための有効策が、優秀な外国人材を確保すべきことであり、そのために様々な策を講じていることになります。

外国人の受け入れと徴兵制の影響

 一方で、高度外国人材を増やしたいという背景には、韓国独特の徴兵制度の影響が見逃せません。毎年韓国では20万人くらいの学生が海外に行って勉強しています。こういった優秀な学生が海外で学位を取って韓国に戻ってくれればいいのですが、韓国の雇用環境があまり良いわけではない。さらに韓国に戻ったら軍隊に行かなければならない。これを避けるために特に男性の若者が国籍を捨てるケースが多いのです。韓国法務部によれば2022年に韓国に帰化する人は1万人ちょっと。それに対して、国籍を喪失する人は2万5000人を超えています。その多くが優秀な頭脳を持っているとしたら、この問題は実に深刻です。

――優秀な外国人材を受け入れるのと同じぐらいに自国の優秀な人材を留めさせることも重要です。何か対策はされているのですか。

 軍隊に行く期間は徐々に短くなっています。昔は36カ月でしたが、服務形態で違いはあるものの最短では18カ月と今では半分になっています。また軍隊に所属するときの給与も高くなっています。私が服務していた30年前の給与は、月に1万ウォンももらえませんでしたが、今では80万ウォン程度だと聞いています。

 また、防衛関連の企業で働くことで、徴兵制を免除するという方法もあります。軍に何かを納品しているなど関連企業で働けば軍隊に行くことは避けられる。ただし、働く期間が36カ月と長いのが、ネックとなっている面もあります。

 プロスポーツ分野に限っては、国に貢献するような活躍をした選手は徴兵制が免除されるというシステムがあります。ただ、免除されるのは、本当に一握りの人間です。昨年、経済効果を加味すれば、アイドルグループであるBTSのメンバーに対しても徴兵制を免除すべきではという議論も起きましたが、結局見送られました。本来であれば、優秀な知能を持った人も徴兵制を免除されてもいいのかもしれませんが、それが実現するのはまだ先のことかもしれません。

高度外国人材をどこで生かすのか

――そういった優秀な外国人材は、どのような産業、どのような職種で生かすべきでしょうか。

金明中さんインタビュー中の写真

 産業でいえば、やはり韓国の主力産業、そしてこれから成長が見込める産業でしょう。韓国政府は、半導体・ディスプレイや先端モビリティなど12大主力産業を定めています。そしてそれらの産業において、人材が不足していることも明確にしています。12大主力産業が必要とする人材の規模は2020年の109万8,921人から2021年には111万5,526人と1.5%増加しています。その一方で不足している人材は2万8,050人から2万8,709人へと2.3%増加しています。このギャップを埋めるのに有効であるのが外国人材の受け入れであることは間違いありません。

 職種でいえば、やはり技術開発を行う人材でしょうか。韓国の悩みというのは、産業が大企業を中心にしているという点。その中でも、半導体・ディスプレイに集中している。半導体・ディスプレイ頼りではとても危うく、そのためには新しい産業を成長させなくてはなりません。

 かといって、半導体・ディスプレイの産業においても、これまで通りの競争力を保持しなくてはならない。ただし、既存産業においては韓国人中心の技術開発でも太刀打ちできる可能性は高い。外国人材に活躍してもらいたいのは、どちらかというと新しい産業の創出の分野です。例えば、知能型ロボットやXR(クロスリアリティ)の分野は、まだ覇権争いをしている領域です。こういった領域において優位性を持つためにも、外国人材の活躍は欠かせないでしょう。

――高度外国人材をうまく活用している企業にはどこがあるでしょうか?

 いずれも大手になりますが、サムスン電子、そしてLGエレクトロニクスなどはかなり積極的に外国人材を受け入れ、そして彼らが活躍していると思います。

 このような大手企業は、取締役や理事に名を連ねているのがかつては韓国人のみでした。外国人材の割合を大きく増やし、大きな構造改革を実施した結果、経営陣にも外国人材の割合をかなり増やしています。優秀な人であれば、国籍関係なく出世ができる。そういった土台を見せることも、優秀な外国人材に振り向いてもらうためには重要ははずです。また、優秀な人であれば、ヘッドハンティングで重要なポジションを与えることも最近では珍しくはなくなってきています。

――韓国の若者も就職難だと聞いています。国内の若者に仕事がない中で、外国人材を声高に採用しようというのは、一見矛盾しているようにも思います。

 現在、韓国では4年制大卒者の就職率は2021年時点で64.1%といった状況です。ただ、これは構造的なミスマッチが起因するものです。大企業と中小企業の処遇水準を見た場合、日本と比較すると韓国はかなり大きい。すると大学を卒業した人は中小企業に入ろうとしない。しかも、韓国では大学への進学率が7割を超えている。こういった人々みんなが大企業を目指すという点が韓国としてはまずは大きな問題です。

金明中さんインタビュー中の写真

 もちろん、自分たちが就けない職に高度外国人材が就くのは面白くないかもしれません。ただ、そこは能力の話ですから、それを問題として考える若者は少ないと思います。そういった点では、韓国は競争社会なので、納得がいっているはずです。競争で勝った者だけが、希望する企業で働くことができる。その相手が韓国人でも外国人でもあまりその差は意識していないのではないでしょうか。

(写真:吉成大輔)
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2023年12月)時点のものです。

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