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滅茶苦茶クオリティーの高い番組を作れるのは最大の強み 「テレビはウソ」のイメージを払拭して若い世代も取り込む滅茶苦茶クオリティーの高い番組を作れるのは最大の強み 「テレビはウソ」のイメージを払拭して若い世代も取り込む

テレビの強みは、高い能力を持つクリエイターが、長年積み上げてきたノウハウや知見を駆使してクオリティーの極めて高い番組を制作できること。
ただ、その強みも狙った人々に届かなければ宝の持ち腐れとなる。特にSNSやネットゲームなど他人とのコミュニケーションに楽しさを感じている若い世代には、リビングで決められた時間に見るというテレビ中心の生活様式は、まったく相容れなくなってしまっているのが現実だ。
そのような層にも面白くて高品質のものを届けるには、ネットによる同時配信やアーカイブを充実することが大前提となる。さらには「テレビはウソをついている」という印象を払拭するために、正直にプロセスをすべて見せることも必要になる。
10年や20年でテレビが無くなることはないのだから、様々に手を変えて勝負はたくさん仕掛けるべきだ。
数々の人気番組を手掛けるプロデューサーであり、作家、演出家、ラジオパーソナリティーと様々な顔を持つ佐久間宣行氏に、テレビ局がこれから進むべき道について聞いた。

佐久間 宣行さんの写真

佐久間宣行事務所 プロデューサー/ディレクター

佐久間 宣行(さくま のぶゆき)

1975年、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティー。元テレビ東京社員で「ゴッドタン」「あちこちオードリー」などの人気番組を手がける。2019年4月からラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティを担当し、YouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」も人気を博すなど、20代を中心とするネットに親しんでいる人たちに喜ばれる番組を作っている。著書に『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティーになる』(扶桑社)、『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社、2022年4月発売予定)がある。

テレビが若い世代に敬遠される一番の理由

――佐久間さんは、もともとはテレビ局の社員であり、その後独立されて、今ではテレビをはじめラジオやYouTube、最近ではNetflixの番組制作にも携わっています。様々なメディアと触れ合う中で、改めてテレビの課題はどのような点にあると思われますか。

佐久間 宣行さんインタビュー中の写真

 課題として明確にあるのは、テレビのコンテンツというよりもテレビのフォーマットが、見る上で若い世代には不便だということです。コンテンツの中には若者を熱狂させたり、面白かったりするものがたくさんある。ただ、リビングなどで決まった時間に拘束されなきゃ見られないというのは、20代以下にとっては圧倒的に不便ですよね。

 昔はテレビしかなかったから、リアルタイム、しかも無料で見ることにすごく意味があったと思うんです。今でもテレビにしか起こせない祭はもちろんたくさんある。いまだにスポーツの実況などで一番盛り上がるのはテレビのその瞬間だったりするし、「M-1グランプリ」や長尺の音楽番組などのイベントがあるときはトレンドに絶対上がってきます。ということは、「一斉に見ることによる喜び」というものは絶対にある。けれども、「日常の中でそんなに祭が必要か」というと、そうでもない。日常のコンテンツはもっと身近なものの方が楽しまれています。

 それと、隙間時間に見るものをどうするか、でしょうか。ネットゲームもそうだし、SNSも全部そうだけど、コンテンツを通じたコミュニケーションの方にみんな興味がある。他人とコミュニケーションするのが圧倒的に楽しいということです。コミュニケーションが娯楽になった結果、すごく強いコンテンツとか、生でしっかり見る理由があるもの以外は、テレビは相対的にコミュニケーションの側面で負けています。だから隙間時間を埋めるためのコンテンツって、テレビでは今、あまり見られてないのかなと思います。

――ネットが利用者ファーストに進化していく中で、テレビはどのように変わっていくべきでしょうか。

 やはりネットを使った番組の同時配信を行って、それによってコンテンツのアーカイブ性を高める。広告に関してはそれを同時に売り込んでいく、というのが一つの手だとは思います。

 今、YouTuberはYouTubeの広告収入で稼いでいるように見えて、実は第2段階に入ってきています。YouTubeを自らの広告をする場として捉えていて、そこから自分のオウンドメディアに流入させて、有料課金で収益を得る、という流れです。テレビが変わらないでいる間に、ネットは第2段階、第3段階へとマーケットが変わっているのが実情です。その変化に対応できるフットワークの軽さをテレビは持っておかないと、せっかくのコンテンツを腐らせていく感じになっちゃいそうだなと思います。

 だから、同時配信は当たり前にしたうえでアーカイブ性を高めていかないと、面白さが人まで届かないって感じですよね。どんなに面白くてもリビングや自分の部屋で決められた時間で見るっていう生活様式は、もう通用しないですから。

 難しいのかもしれませんが、民放が連合してサブスクリプションのチャンネルを作れば、すごくメリットは感じられるだろうなと思います。今は各局それぞれが作っているので、全部合わせるとかなり高額になってしまいます。それだと入りにくい。全局の番組を過去のものを含めて見ることができて、例えば2000円だったら入る気になるかな。NHKよりも安ければいいですよね。

テレビの制作力の高さはダントツ、そこは生かすべき

――コンテンツという観点から見ると、テレビ局にはどのような強みがあると思われますか?

 強みということでいうと、やっぱりテレビ局の制作力はダントツに高いと思います。それはいまだにそう感じます。長年制作してきたノウハウや知見もものすごく多くたまっています。映像コンテンツを作るクリエイターの能力は、各局はすごく高いので、そういった意味ではテレビの制作力は高いと思います。

 一方で、制作費がかけられなくなっているのは事実です。広告システムは便利な方へと流れていきますから。オールドメディアはみな、広告費は下がっていくでしょう。ネット広告は、本当に正しいかどうかは分からないですけどターゲティングはできているし、ちゃんと効果があるようには見えるので。テレビは、番組を測る指標が今までは視聴率しかなかったし、広告効果を測る指標もGRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)くらいしかなかった。それだとマーケティング的にも負けてきます。

 だから本当はもうちょっとその商品を広告に絡めて売ることも進化させていかなければいけなかったんだとは思います。でも圧倒的にテレビは強すぎたから変えなくても済んできちゃった、ということじゃないですかね。

――予算が限られる中で、テレビの強みを生かしたコンテンツはどのように作るべきでしょうか。

 今、YouTubeの番組を作っていますが、100万回再生を実現するには、ある程度の過激さが必要だなというのは思っています。ギャルとの口喧嘩が100万回再生いったりするので。あとは数字を取るには「YouTubeでしか見られない」というのがかなり大事。宮迫(博之)さんにしても、江頭(2:50)さんにしても地上波に出てないじゃないですか。YouTuberが地上波でタレント化してくと、途端にYouTubeでの再生数が下がってくるんです。だから、どのメディアにしても「このメディアでしか見られない」というのが大事だなというのを、肌を通してすごく感じます。

佐久間宣行氏のYouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」
佐久間宣行氏のYouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」。2021年7月より配信を開始し、登録者数は39万人(3月15日時点)と人気を博している(出所:YouTube)

 そうなるとテレビはどうなってくるのか。これまでテレビは、いろいろなもののおいしいところを取って、一番トップの人たちがずっと映っていてとても華やかだった。だからメジャー性があったのですが、徐々に本当のメジャー性っていうのがネットに移ってきちゃっている。

 こうなると、するべきことは「制作力の高さを生かしてクオリティーが高いものをしっかりと作っていく」ということになる。滅茶苦茶クオリティーが高くて、ネットメディアでは簡単には作れないというようなもの。それがテレビの強みを生かす一つの方法ではないかと思います。例えばNHKの大河ドラマ。実際に多くの人がNHKの日曜の夜8時を楽しみにしていますから。

 クオリティーが高い番組に関しては、そのクオリティーを保つこと自体が最終的にはマネタイズになるし、実予算になっていくと思います。小さい予算で作る番組は、同時にマネタイズも考えていかないと続けていけないかもしれませんが、局を代表するようなクオリティーの高い番組に関しては、細かいマネタイズを考えずに面白いことを優先させるべきでしょう。

――一方で、すべての番組のクオリティーを高めるわけにもいかないと思います。

 一つの方向性としては、クオリティーの高い番組。そしてもう一つの方向性は、テレビの「今しか見られない」というメリットを生かすとしたら、「ナマ感」を見せていくことではないかと思います。作りはちょっと雑でも構わないから、リアルタイム性があってナマ感を感じられるもの。メインで作っていくのは二極化していくんじゃないかと思います。

 では、それ以外の番組はというと、ここはちょっと難しいのですけれども、視聴者のマインドは「もっと人間を見たい」となっているように思うのです。これまでの、テレビしかなかった時代は、テレビを「ながら見」しながらもスイッチをつけていたことも多かったのかもしれませんが、今では「ながら見」も減っている。であれば、中途半端な情報を流してスイッチを消されてしまうよりは、より人間の本質を見せるような番組を作って視聴者の共感を得ることが必要になると思います。

「テレビはウソ」と思われている厳しい実態

――フォーマットの不便さはあるものの、若い世代にもテレビの魅力を伝える努力は必要だと思います。どのような工夫が必要でしょうか。

佐久間 宣行さんインタビュー中の写真

 テレビに対して若い世代が特に強く感じているのは、とにかく「テレビはウソをついている」という感覚です。今までのテレビ番組の作り方って、どうしても派手にしたり、1を10にしたりするところがあったじゃないですか。そういった部分が全部ウソとして嫌われつつあるのは確かなことです。これはテレビだけの問題ではなく、オールドメディア全体の問題かもしれませんが、ここまで個人メディアとかSNSが広まってくると、今までは聞こえなかった声も可視化されてくる。そうすると「オールドメディアはウソ」と言われたりする。

 テレビを見ている人も見ていない人も、オールドメディアにはすごく厳しくなっているなと思います。特にネットメディアの人たちはお金をもらって何かをPRしたりすることをとことん嫌うじゃないですか、ステマとかって言って。その点で言えばテレビであったペイドパブリシティとかプロダクトプレイスメントなどは、今の若い子たちの感覚からすれば全部ステマと思われてしまう。

――「オールドメディアはウソ」は、非常に厳しい見方です。対応策はあるのでしょうか。

 仕掛けているのであれば仕掛けているというのをきちんと言う。仕掛けているものも含めて全部一緒に共有していく。そういったプロセスを見せることを、プロセスエコノミーというのかもしれないですけれど、はっきり、正直に、すべてを見せる方が若い世代には支持される気がします。

 アニメの世界はかなりそうなっています。この原作があって、このチーム編成で、1シーズン目をこう作って、最終的にはこのようなゴールを目指します、というのを最初にちゃんと発表する。このようにアニメがやっているような仕掛けは、若い世代を引き付けるためにはテレビでももっと増えてもいいかなと思います。

 またアニメから見習うべきだと感じるのはシーズン制。昔はアニメって1年間ずっと放送していましたが、今はシーズン制で短くして、その分クオリティーを高くする。クオリティーの高いものを作って、世界にも見てもらう。テレビで作るものも、そんな風になってもいいのかなという気はします。日々の隙間を埋めていくものと、集中してクオリティーを上げて世界で勝負するんだというものとを分けていくことが必要ではと思います。

コンテンツを面白くするのはクリエイターの頑張り

――佐久間さんは、テレビ局の社員から独立されました。外から見てテレビ局の強みは改めてどの点にあると感じましたか。

 テレビからは多くの方も去っていきましたが、テレビのクリエイターはすごく優れていると思います。人を楽しませたり、人を傷つけなかったり、そういうものを考えて作る能力もそうだし、トーンとマナーもやっぱり優れている。それはすごく感じています。

 かといって、こういう時代ですから、クリエイターは必ずしもテレビのためだけでなく、個人で判断して番組制作をやるべきでしょう。クリエイター1人1人が考えていくべきことで、テレビみたいなオールドメディアの中でもやれることを探すべきだし、ネットでも自分の表現を磨くべきだし。いろいろな場でやれる人にみんながなるべきで、それがメディアの魅力を高めることにつながるはずです。

 テレビの強さは無料で届くこと、メジャー感のある制作者がたくさんいること、そしてナマで届けることができること。そういったメリットを研ぎ澄ませていって、テレビにしか作れないコンテンツをどれだけ作れるかというのが、クリエイターにとっては大事になってくると思います。

――そのようなクリエイターを長い目で育てるということをテレビ局ではできているのでしょうか。

 できていると思います。テレビの場合は社員であれば、失敗できるわけですから。ネットメディアとかの場合はYouTubeであっても、結構早い段階でみんないなくなっちゃうんです。勝ち残った人しか残ってないっていう感じになるから。テレビの場合は会社員だから20代の間は失敗できたりするっていうのは大きいと思います。そこは恵まれているところですね。

テレビは絶対なくならない、もっとギャンブルできる

――クリエイターが成長するためには、テレビ局での経験が生きそうです。

 ただ、テレビの場合は昔の寛容な時代は終わって、表現に対して多様性を確保することがとても重要になっている。その表現によって傷つく人がいないかとか、不快に思う人がいないかっていうことは、最大限に考慮に入れなくてはならない。地上波で無料で届くからこそ、時代によって表現できなくなったりすることが増えているのは確かで、そこは注意しなくてはなりません。

 その一方で、そんなの誰が興味あるんだろうと言われていたものも、テレビの中ではやれていたりする。例えばNHKでいえば「アセクシャル」(他者に性的欲求や恋愛感情を抱かないセクシャリティ)をテーマにしたドラマも放映されていて、それって昔だったら全然できなかったこと。だからテレビで表現の幅が狭くなったかというと、別に狭くはなってないと思います。

佐久間 宣行さんインタビュー中の写真

 クリエイターを育てるという点では、韓国は国が指導して、留学費も出して、そうやって積み重ねていってやっと『シュリ』(韓国エンタメの実力を世界に示す先駆けとなった1999年のスパイアクション映画)が生まれました。そこからさらに10何年経ってようやくいまの隆盛になっています。日本だって、明確な戦略がばっちりあって、各局が連合できて「絶対に韓国に負けないコンテンツを作ろうよ」「ここは各局が2億かけようぜ」みたいなことを、絶対にやった方がいいとは思います。ただ、仮に今から同じことを日本が始めても2030年とか40年になっちゃうから、そんなには待っていられません。

 じゃあどうするか。今はテレビの企画決定が、編成枠、営業枠、配信枠などそれぞれの事情が入り乱れながら、グジャグジャのカオスの状態で進んでいるのですが、その中から成功例がいくつか出てきてもいる。だったら、1つの部門が企画の決定権を握って終わりになるよりも、カオスを広げていった方が、効率は悪いけど今のテレビの状況よりはずっといいのかなとは思います。新しいヒットは多様性の中からしか生まれないと思うし。

 結局、なんだかんだ言ってもテレビは絶対になくならないし、衰退するって言ったって多分ほんとに緩やかにしか衰退しない。10年や20年でなくなるメディアじゃないんだから、もっとギャンブルしていいはず。テレビの広告だってバーンと急に減ったりはしないし。

 ネットメディアは、まだどうなるか分からないところがあります。一方で、資金もあるのだから1番勝負できるのは実はテレビなんじゃないかと。もっとわけの分からない勝負をたくさん仕掛けていいのかなって、今のテレビには思います。

(写真:吉成大輔)

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