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三菱電機が進めるオープンイノベーションの本気度

海外の有望スタートアップとの協業を目指す 三菱電機が進めるオープンイノベーションの本気度 秋元 信行 氏 AT PARTNERS株式会社 代表取締役 Co-Founder & General Partner 境 勝哉 氏 三菱電機株式会社 ビジネスイノベーション本部 ビジネスイノベーション戦略室長

社外の知識や技術を取り込み新しい価値を生み出す「オープンイノベーション」が注目されるようになって久しい。日本企業も生き残りを賭け、強い危機感のもとでオープンイノベーションに取り組むようになった。三菱電機も「自前主義」を乗り越え、海外を含め有望スタートアップとの協業を模索している。三菱電機でオープンイノベーションを主導する境勝哉氏と、同社の戦略パートナーであるAT PARTNERSの秋元信行氏に聞いた。

スタートアップとの連携に
注力する三菱電機

松原公実 氏の写真
境 勝哉 氏
三菱電機株式会社
ビジネスイノベーション本部
ビジネスイノベーション戦略室長

――三菱電機がオープンイノベーション、中でもスタートアップとの連携に取り組むようになった背景を聞かせてください。

境 三菱電機は100年以上の歴史がある企業ですが、事業ポートフォリオが変わっていないのが課題です。強い事業がずっと強いままなのは良いことですが、技術も世の中も変わる中で、ポートフォリオを変え、ビジネスモデルも変革し続けなければ生き残ることはできないという強い危機感があります。

三菱電機はいわゆる「自前主義」が強く、約2000人の研究者が日夜社会課題解決に向け、自社の技術力を磨き、新しい製品を提供しています。しかし、ポートフォリオやビジネスモデルの変革を、自社の延長線上だけでやっていては、結局は連続的な改善にしかなりません。非連続な変化を起こすためには、オープンイノベーションが不可欠です。中でもスタートアップは、先進的な技術を持って変革を起こそうとしています。スタートアップと組むことで三菱電機の事業変革を起こし、最終的に社会課題の解決や、新しい価値の提供につなげたいと考えています。

――具体的には、いつごろからどんなことに取り組んできたのですか。

境 2020年にビジネスイノベーション本部を立ち上げ、新事業立ち上げとともにオープンイノベーション活動に取り組んでいます。22年には「MEイノベーションファンド」という50億円規模のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンドを立ち上げ、現在までに12社(25年7月18日時点)に出資し、協業関係の構築や実証実験を行っています。

自社が求めるスタートアップを
探し出す難しさ

松原勉 氏の写真
秋元 信行 氏
AT PARTNERS株式会社
代表取締役
Co-Founder & General Partner

――今回、AT PARTNERSと戦略的なパートナーシップを組んだのは、どのような理由からですか。これまでの取り組みとの違いはどこにありますか。

境 これまでの活動だけでは、有望なスタートアップを探し出すのに限界がありました。また、競合他社と比較しても外部との連携が遅れているのが現状です。世界に約300万社のスタートアップがあるといわれる中で、文化も含めて三菱電機に合う企業を探すことの難しさを痛感しました。

AT PARTNERSとの連携により、自社だけでなく幅広いネットワークを活用したスタートアップ探しが可能になります。また、新規事業創出に向けて、AT PARTNERSの包括的支援も期待しています。

――有望なスタートアップ探しのために、AT PARTNERSではどのようなことをやっているのですか。

秋元 日本の事業会社が海外の有望スタートアップに早い段階でアクセスしたり、出資したり、また著名なトップティアVCにLP(リミテッドパートナー)出資するのは、非常に難しいのが現状です。なぜなら、有望スタートアップはトップティアVCから出資を受けることが多く、またトップティアVCは機関投資家から十分な資金を調達できており、事業会社からの出資を必ずしも必要としていないからです。よって日本の事業会社による接触の機会はどうしても限られてきてしまいます。

そこで我々が取り組んでいるのが「ファンド・オブ・ファンズ」という方式です。これは、日本の事業会社から出資を受けて、海外のトップティアVCファンドに投資します。実際に米国のNEA、General Catalyst、Spark Capitalなどに出資してきています(その他開示不可の複数トップティアVCへの出資もあり)。

ファンド・オブ・ファンズ

三菱電機の場合、CVCファンドで12社に投資していますが、同社の規模を考えると真のベストパートナーを選定するには足りていないかもしれません。我々の仕組みでは間接的に約5000社のスタートアップにリーチでき、ポートフォリオが大幅に拡大します。今回三菱電機が投資したAT PARTNERSの3号ファンドは、米国のトップティアVCをはじめ、欧州、イスラエルのVCへの出資を考えています。また、当社の独自データベースで効率的にパートナー候補を検索できることや、スタートアップの紹介にとどまらない戦略策定から実際の新規事業創出支援などまでカバーするアドバイザリーサービスもお役に立つと考えています。

我々には、日本の国際競争力を再び世界一にしたいという思いがあります。そのためには、日本の大手事業会社が、オープンイノベーションでもっと元気になってほしいのです。

オープンイノベーションは
目的ではなく手段

――秋元さんから見て、三菱電機のオープンイノベーションへの取り組みは、どのように映りますか。

秋元 三菱電機は、日本を代表するグローバル企業で事業領域も幅広い。ただ、ビジネスイノベーション本部の設立が2020年と、オープンイノベーションへの取り組み開始は決して早くありません。別の言い方をすれば、まだまだこれからということです。だからこそ、AT PARTNERSが力になれる可能性が高いと感じています。

また、三菱電機は「聞く耳」を持ってくれています。歴史も長く、実績のある大手事業会社の場合、外の声に柔軟に耳を傾けてくれないケースもあるかと思いますが、その点、三菱電機は経営層から実務レベルの方々まで聞く耳を持ってくれて、議論を深めることができます。

境 オープンイノベーションの最終ゴールは、次の柱となるような事業をつくることです。まずは、土台をAT PARTNERSと一緒に整備していきます。実践的なレクチャーを受け、それを新規事業に携わる担当者に広め、みんなのベースを上げ、そこからステップ・バイ・ステップで最終ゴールを目指します。長い道のりですが、AT PARTNERSに丸投げするのではなく、三菱電機が主体となって自走できるようにしていきたいです。

秋元 CVC、スタートアップ投資、VCファンドへのLP投資、オープンイノベーションなど、これらは全て手段にすぎず、目的ではありません。境さんの言うように、新たな事業の創出や既存事業の強化拡張、それによって三菱電機の企業価値を高めることが究極の目的です。これを実現するためには、三菱電機自身のイノベーションマインドの磨き上げと地力を高めることが求められます。AT PARTNERSとしてはスタートアップ紹介にとどまらず、こういった点にも貢献できるよう包括的に支援させていただくつもりです。

秋元氏と境氏の写真

新規事業創出のワクワク感を全社に伝え、
オープンイノベーション成功例となる

――今後の展望をお聞かせください。

秋元 オープンイノベーションに取り組む企業は多いですが、手段の目的化が進んでいるケースが少なくないという印象で、究極の目的である自社、自グループの企業価値を高めたような骨太な事業創出を達成できた事例はあまり見かけません。だからこそ三菱電機との取り組みをオープンイノベーションの真の成功モデルとして、他企業に評価されるレベルまで押し上げたいという思いがあります。

スタートアップへの投資によるキャピタルゲイン、当該スタートアップのプロダクト、サービス利活用というリターンも重要ですが、自社、自グループの企業価値向上につながるような骨太な戦略リターン、すなわち将来の事業の柱になるような新規事業・新サービスを一緒に創出できればと思います。

境 ゴールを目指す過程で大切にしたいのが、組織文化の醸成です。我々オープンイノベーション担当者が楽しんで取り組める風土・環境づくりを大切にし、新規事業創出のメリットやワクワク感を、全社に伝えていきたいです。そして最終目標は、三菱電機の次の主力事業となる新たな事業の柱を創出し、それが社会課題解決や新しい価値の提供につなげていきます。

――本日はありがとうございました。

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