その前身がエレクトロニクスショーである「CEATEC」は、50年以上開催されている日本においても歴史ある展示会の一つだ。近年では「Society 5.0」を大々的に掲げ、社会課題の解決を目指す各種のソリューションの展示が主流となっている。2023年10月17日~20日に開催された「CEATEC 2023」において、特徴ある展示で多くの来場者の耳目を集めたのが三菱電機だ。来場者の動線を考え、3つのゾーンに分けて展示した個々の技術は、今後の「サステナブルな社会の実現」を見据えて実用化を急ぐもの。
環境ジャーナリストとして活躍しながら、二児の母としても常に社会課題と対峙している竹田有里氏が三菱電機のブースを尋ね、CEATECの各種の展示から感じ取られたこれからのビジネスの方向性や同社への期待などについてレポートする。
※展示会終了後の時間を利用して、三菱電機ブースを見学・体験しました。

竹田 有里 氏 / 環境ジャーナリスト
1987年岡山県生まれ。上智大学地球環境学研究科修了。TOKYO MXでニュースキャスター、社会部・政治部記者を歴任。災害報道や環境番組を制作した後、フジテレビの環境ドキュメンタリー番組「環境クライシス」の記者として企画制作・出演。文化放送「斉藤一美ニュースワイドSAKIDORI!」でサブキャスター・報道記者。その他、雑誌・ウェブページで執筆。2018年7月豪雨(西日本豪雨)の取材で、森林管理の一環である間伐材の問題に直面し、被災地をはじめとする全国の間伐材や倒木材を活用した「木材ストロー」を発案した。
目指すは「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革
初めてCEATECを訪れたのは2000年代後半の学生時代。情報科学を専攻し、アプリケーションデザインを研究していた当時、CEATECで最新の情報や技術を収集し、研究や卒業論文に生かしていた。当時は「総合家電の見本市」という位置付けが全面的に強く、いわゆる「ガラケー」の進化やデータ放送の新技術などに触れ、驚愕を覚えると共に、日本の競争力の強さを感じ取っていた。そういった表の顔を残しつつも、近年のCEATECは「Society 5.0の総合展」に変化している。すなわち経済発展と社会課題の解決を両立するための新技術やソリューションが展示の中心となると共に、来場者の目を引くようになっている。
今回訪れた三菱電機のブースは「創意あふれる技術で、共に拓く。笑顔あふれるサステナブルな社会へ。」を出展テーマとして掲げている。Society 5.0の大きな流れの中で、皆が幸せになれることを前提とした「サステナブルな社会の実現」をコンセプトに、各種の展示を行っていた。

同社は現在、グループ会社を含め「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」へと大きく変革することを目指している。循環型 デジタル・エンジニアリング企業とは、「お客様から得た様々なデータを活用して価値のあるソリューションを開発し、社会課題の解決に貢献。これを付加価値のあるサイクルとして回し続けることでお客様と共に成長していく」企業を意味するという。
顧客のデータを元に社会課題の解決に貢献することは、本来の産業界のあるべき姿ともいえるだろう。一方で、近年は各種の情報技術が発展することで価値あるデータをより入手しやすくなっている。膨大な顧客データを獲得することは、古くから様々な顧客とのつながりを持ち、さらには最先端のテクノロジーを持つ企業だからこそできること。そしてデータを分析するだけでなくいかに活用し、そしていかに新たな価値の創出に結びつけられるかがカギとなる。これができれば近江商人の“三方良し”、いわゆる売り手と買い手が満足するだけでなく社会にも貢献できることになるだろう。循環型 デジタル・エンジニアリング企業への変革の思いは、原点回帰といえば原点回帰だが、これを実現できている企業は現実には少ないだけに、変革の先には人々に、そして社会に寄り添う三菱電機の姿が想像できる。
自然災害の影響を抑えることで「安心・安全な社会」を実現
サステナブルな社会を実現するため、三菱電機では注力すべき五つの課題領域を定めている。「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「安心・安全」「インクルージョン」「ウェルビーイング」がその五つだ。そして、今回のCEATECではこの五つの課題領域を三つのゾーンに分けて展示を行っていた。具体的には、①地球環境保全への取り組み②安心・安全な社会の実現③あらゆる人がいきいきと過ごせる社会の実現――の三つのゾーンである。

三つのゾーンの中でも「地球環境保全への取り組み」に関しては、循環型 デジタル・エンジニアリング企業の貢献を特に期待したいと感じる内容であった。再生エネルギーの導入などでカーボンニュートラルの実現に向けた動きが加速し、サーキュラーエコノミーが大きな社会変革をもたらしつつある。その一方で、サーキュラーエコノミーといっても課題は山積みであるのが実態だ。これまで取材した多くの企業からは「環境負荷低減と経済価値創出の両立は極めて困難である」「完全なサーキュラーエコノミーの実現には限界がある」といった切実な声が聞かれた。
このような課題は、単に製品やサービスを提供するだけでは、その解決策を見つけ出すのは難しい。それらに加えてコンサルティングやアフターサービスなどの一連の流れが提供でき、その流れの中から得られる顧客からのフィードバックを分析することでより価値の高い製品やサービス、そしてソリューションが提供できる。その結果、買い手や売り手も含む関連する人々すべてが笑顔あふれる姿が描けてくる。例えば、今回展示されていたプラスチックを高度に選別する技術は、三菱電機が保有していた選別技術をデジタルを利用して変革、すなわちDX化によりサービス化したことで、より顧客が導入しやすくなったソリューション。プラスチックのリサイクル導入はより拡大する。このようなエンジニアリングサービスは、地球環境保全について大きな解決策の糸口になるものと期待できる。

「安心・安全な社会の実現」に関しては、近年、多くの方々が深刻に願っていることだ。2011年の東日本大震災以降も、2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨など、数えきれない「未曾有」の自然災害が日本で発生している。取材をした被災地からは、その度に悲痛な叫びが聞かれた。その多くが過疎化や少子高齢化などの社会問題が深刻な地域から発せられるもの。「具体的な発災場所の様子がニュース報道では追いきれておらず、どう避難したら良いかわからなかった」「高齢者も多いので、発災時に少ない近隣住民で助け合うことは難しい」「中心地と村が寸断されて、助けられる命も助けられなかった」――。大型化する自然災害を鑑みれば、都市部に住む人でも他人事ではなくなる可能性が高い。
もちろん政府も国土強靭化を推進しているが、行政任せでは限界があるのも明らかだ。「安心・安全な社会の実現」のゾーンにおいては、宇宙からより高精細な災害状況をリアルタイムで把握可能となる大容量宇宙光通信システムに向けた光源モジュールや、スマホを利用して被害状況を誰でも測定でき迅速な被害支援に貢献できるシステムなどが展示されていた。自然災害による被害を最小化するためには、必要な情報を必要な人に共有することが必須であり、それが二次災害のリスクを軽減し、速やかな復興につながっていく。インフラ整備に多額な予算が費やされてきた一方で、スマートなソリューションを駆使することが、レジリエントな社会構築には一層求められる。それを気づかせてくれる展示であったと共に、今後も迅速なソリューション開発が待ち望まれる。

アバターが貧困地域の子どもたちを救う可能性を提示
「あらゆる人がいきいきと過ごせる社会の実現」のゾーンには、特に共感できた技術が二つあった。一つは自動走行ロボットによる配送サービス「Cartken(カートケン)」だ。今ではファミリーレストランなどで厨房から料理を運ぶ配膳ロボットを見ることも珍しくなくなったが、Cartkenはそれを遥かに進化させたもの。ロボットは決められたルートだけを通るのではなく、施設内のあらゆる場所に移動が可能。多少の段差も乗り越えられるし、エレベーターに乗って移動もできる。例えば、ショッピングセンターなどでベンチに座ってアプリで買い物を指示すれば、Cartkenが届けてくれるといった利用が想定できる。
買物弱者を救ってくれるCartkenは、お年寄りだけでなく母親目線で見てもとてもありがたいサービスだ。幼児を連れての買物は大仕事。インバウンド需要増も相まって商業施設などが人手で賑わう中、ベビーカーに子どもを乗せていると満員のエレベーターを見送るということを何度も経験した。実は先月第二子が生まれたばかりで、子ども二人を連れての買物は、我が家で最大の課題として浮かび上がっている。Cartkenが多くの施設で実用化されれば、子どもをどこかで遊ばせながら待つだけで良いだろう。法規制などが改正されれば、自宅にまでCartkenが届けてくれる可能性もある。何と素晴らしい世界だろう。社会実装が待ち遠しい技術の一つだ。

もう一つは、「シンプル操作で誰もが手を取り合える未来を拓くAVATARソリューション」だ。このソリューションは、遠隔地にある機器の操作を、スマホのシンプルな直観的な操作で行えるというもの。遠隔地にあるハンドリングロボットの操作、例えばモノを掴んで運んで降ろすといった操作を、スマホのピンチやフリックなどの遠隔操作で可能とする。
会場で実際に操作してみて、真っ先に思い出したのが貧困地域で懸命に生き延びようとしている子どもたちのことだ。環境ジャーナリストという立場で、こうした子どもたちに焦点を当てた番組制作に現在携わっている。例えばインドでは、ごくわずかな対価のために有害物質を吸い込みながら電子ゴミの山からレアメタルなどを取り出す仕事に追われている子どもを目の当たりにした。またモンゴルでは昨今、異常気象により家畜を失い遊牧生活を捨て都市に移り住む遊牧民たちが増加しているが、身軽で手先が器用な子どもたちが劣悪な環境下でレンガを積んだり危険な建設現場で働いたりすることなどを余儀なくされていた。
当然のことながら子どもたちの労働は無くすべきではあるが、家族が生き延びるためにそうせざるを得なかった面もある。AVATARソリューションがあれば、体力に自信のない高齢者をはじめ誰もが命の危険に晒されることなく作業が可能となる。どの場所においても稼げる機会を創出することで、子どもたちを労働から解放できると共に必要となる教育機会が提供できるようになるはずだ。

技術者の“強い思い”が社会課題解決の原動力となる
今回のCEATECは、昨年より約2割多い684社/団体の出展があったが、中でも三菱電機のブースは最大級の規模を誇り、訪問した際にも賑わいを見せていた。特にメインの通路に向けて設置された大スクリーンを利用してのメインステージには、多くの来場者が足を留め、長時間プレゼンテーションに聞き入る姿が印象的だった。
プレゼンテーションの内容も趣向を凝らしたものだと感じた。メインステージを利用してのプレゼンテーションではタイムスケジュールを作り、スケジュール通りに新技術を次々と紹介していくのはよくあることだが、今回は個々の技術の担当者が説明に加わっていた。もちろん、話をするプロではないので、担当者ごとに個性は出る。流暢な人もいればたどたどしい人もいる。ただし、担当者から共通して得られるのは、自分が開発した技術に対する“強い思い”だ。例えば、先に述べたAVATARソリューションの開発者は、発展途上国の人々が家族を置いて出稼ぎに行かざるを得ない現状を変えたくて、何とか実用化を目指したかったという。その姿からは、真剣味がひしひしと感じられた。
メインステージで担当者が説明に加わったのはほんの数分。それでも、強い思いを受け取るのには十分な時間であった。「創意あふれる技術で、共に拓く。笑顔あふれるサステナブルな社会へ。」――まさに今回の展示のテーマを、メインステージから強く感じ取れた。
三菱電機のプライド、「私が解決する」という気概

CEATECの三菱電機ブースでは、開発に携わった担当者から直接話を伺い、デモ操作も体験した。前述したAVATARソリューションでは、自宅に居ながらマングローブ林に植樹をするというミッションに挑戦、簡単にカーボンオフセットに成功した。コロナ前にインドネシアで植林活動を取材したが、団体と定期的に連絡を取るとコロナ禍の数年は活動自体中断せざるをえずサステナブルではないという。人間とロボットが適切に共存することで、持続可能な社会の実現はうんと早まることは想像に難くない。
皆さんがロボットに抱くイメージとはどんなものだろうか。AVATARソリューションで操作するロボットの前面には、スマホのインカメラで捉えた操作主の顔が映し出されており、またアーム部分を上にしてバンザイするなど動きも愛嬌があり、「ロボット」というより自分の分身のようで、愛くるしい。担当者の方も「可愛いでしょう? 実際に対面では会えない分、個々のロボットに個性を出しました」と顔を綻ばせ嬉々として説明してくれた。
このようにCEATECで出会った三菱電機の技術者は自慢の製品を目の前に、プライドと自信で満ち溢れていた。「他に質問は?なんでも聞いてください!」と。暮らしのニーズから社会インフラまで、多種多様な社会課題に物怖じせず「私が解決する!」という気概を感じた。これが100年以上わたり受け継がれてきた三菱電機のプライドであり、サステナビリティなのだと実感した。
サステナビリティという概念は以前から存在していたものの、現在ほど危機迫るものではなかった。今は、サステナビリティという言葉が、日常でも飛び交うほどになってきている。一方で、それを達成するための取り組みにどれだけの人が真剣になっているかというとそこには疑問が残る。多くの人は「誰かがやってくれる」と、どこか遠目に見ている感も否めない。多くの人に動いてもらうためには、やはり牽引する先導者が必要だと常に感じている。私は、5年前の西日本豪雨をきっかけに、森林保全と廃プラスチックの問題の両方を解決できる「木のストロー」を思いついた。いろいろ苦労はしたものの、実用化できたのは、やはり「私が解決する!」という気概だった。そこに多くの人が共感してくれて実現できたと思っている。
環境ジャーナリストとして様々な人に話を聞いてきたが、強い思いを持っている人の周りには、その人に牽引された多くの協力者がいる。そしてサステナブルな社会をいち早くもたらすためには、影響力が大きい大手企業に先導者としての役割が求められるだろう。今回の一連のソリューションを見て、そういった役割を三菱電機には期待できると感じた。