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三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」設計者・横田周平×箱根寄木細工技能師 露木清高

#01 TSUKASADORU HITOTACHI

工房訪問篇 箱根寄木細工「露木木工所」

(神奈川県小田原市)
ODAWARA

箱根寄木細工の製造・販売を手がける露木木工所は、神奈川県小田原市に工房とギャラリーを構えています。
箱根寄木細工技能師・露木清高さんの曾祖父にあたる露木木工所の初代・清吉が当地に同社を創業しました。
露木木工所によるものづくりの現場をのぞいてみましょう。

小田原・箱根に伝わる伝統の技法

1926年創業の株式会社露木木工所。箱根寄木細工の製造・販売を手がける同社は、神奈川県小田原市内に工房とギャラリーを構えています。

お土産や工芸品としても人気の高い「箱根寄木細工」は、複数の種類の木材を重ね合わせ、独特な模様を作りだす木工芸品の伝統技法です。始まりには諸説ありますが、今からおよそ200年前の江戸後期、箱根町南部に位置する「畑宿」出身の石川仁兵衛が、箱根の地にて創作を始めたと言われています。

かねて木工芸が栄えてきた当地では職人が大勢いたことから技術も伝承されやすく、また宿場町であったことから、さまざまな木製品が作られるようになりました。さらに時代に応じてその技法は発展し、多種多様な寄木細工の模様が開発されたといいます。

「私の曾祖父にあたる露木木工所の初代・清吉が畑宿出身で、若い時分に石川仁兵衛氏の孫・仁三郎に師事し、その経験から露木木工所を創業したと聞いています」

そう話すのは、露木木工所の四代目・露木清高さん。

1979年生まれの清高さんは、高校卒業後の2002年、京都伝統工芸専門学校(現・京都伝統工芸大学校)を卒業後、露木木工所へ入社しました。現在は三代目であるお父様・清勝さんとともに製品づくりに注力する一方で、独自に作り出した箱根寄木細工の作品をクラフト展などに出品。日々、自己研鑽に励んでいます。

樹木の自然な色合いを活かす
箱根寄木細工

三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」シリーズを設計する横田周平とともに、我々も露木木工所の工房をのぞかせてもらいました。

箱根寄木細工づくりは「木材の選定」から始まるといいます。敷地の一角は材料となる木材置き場で、なかには朴の木(ホウノキ)、桂神代(カツラジンダイ)、漆(ウルシ)など、さまざまな種類の木材が置かれていました。

私たちが複雑な模様を
表現できるのは、
こうした自然の恩恵を
受けているためです

「多くの方は、割った木の中身は『肌色っぽい色』をイメージされると思うのですが、箱根山系にしげる樹木は分布ごとの寒暖差により樹種がとても豊富。それに伴ってさまざまな色の天然木が採れたことも、箱根寄木細工が当地に根付いた要因になっています」

倒木して数百~数千年の間、土中に埋まっていたりすると「神代(じんだい)」と呼ばれる、少し黒ずんだ木材になることもあるのだとか。

「箱根寄木細工は基本的に木を着色することがありません。私たちが複雑な模様を表現できるのは、こうした自然の恩恵を受けているためです」

続いて露木さんが案内してくれたのは加工場。木材を選定した後、露木木工所では自社の加工場内で、薄い板状になるまで木材を切り出します。さらに板状の木材を細かいパーツ状に割り出して、それを組み合わせ、伝統の幾何学模様が生まれていきます。

「この工程で少しでも角度が合わなければ、綺麗な模様は作れません。1つひとつ、神経を集中させながら、パーツの角と角がぴったりと重なるよう、さらなる加工を施していきます」

作業しながらそう説明をする露木さん。横田も真剣に耳を傾けます。

パーツを組み合わせたブロック状のものを「ムク」と呼びます。さらにその模様ができた面を手鉋で削り出せば、紙状の「ズク」が作り出されます。

「横田さんもやってみますか?」——そう露木さんにうながされて横田が慎重にカンナを動かすと、綺麗な模様が施されたズクが削り出されました。

「なかなかお上手ですね(笑)。このズクを貼り合わせた板を組み立てて箱状の小物入れにしたり、あるいは既製品に貼り合わせたりして、さまざまな商品を製造していきます。ズクの他には、ロクロなどを使い、ムクの状態から直接立体的な製品を加工する『ムク物』という技法もあり、寄木細工には、様々な表現方法があります。」

工房から少し離れた場所にある「寄木ギャラリーツユキ」に伺うと、そこには露木木工所で製造・販売される数々の作品が並んでいました。工房を拝見した一行は、露木清高さんに寄木細工職人としての矜持を伺いました。

第一回 対談篇 前篇
箱根寄木細工に学ぶ「生活文化の創造」
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