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「三菱電機らしさ」がひと目で伝わるデザインを目指して

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
プロダクトデザイナー
加藤 伸一・秋山 朝子
過去機種(左)
より、端子部の視認性を高めたデザインのシーケンサ(右)

デザインを統一して工場に貢献

加藤
わたしたちのグループでは、工場の製造プロセスを自動化するファクトリー・オートメーション機器(FA機器)のデザインを手掛けています。工場で使う機器にデザインが必要なのかと思われるかもしれませんが、デザインの役割は見栄えを良くすることだけではありません。使う人にとってわかりやすく、操作ミスを防ぐための文字や記号の表記を考えることも重要ですし、清潔で信頼性の高い安全な工場環境をお客様に提案するためのFA機器の在り方を考えていくことも、デザインが貢献できるポイントだと思います。
しかし、例えば「機器の統一感」という要素は、以前はあまり重要なものとして意識されていませんでした。
秋山
そこで、「三菱電機の産業機器すべてに共通するデザイン規格」として「FAデザインガイドライン」が策定されたんですよね。私が入社した頃には、FA機器に関するデザイン業務はすべてこのガイドラインに則して行われていました。
加藤
2013年にトータルデザインの研究が始まり、2016年にはFAデザインガイドラインが完成しました。そこではコーポレートロゴ、カラーリング、機能表記の3つの領域におけるルールを指定しています。
秋山
例えば製品の機能表記についてですが、これらが実際に使われる工場は、暗かったり狭かったりする場合も多く、必ずしも作業しやすい環境ではありません。そのうえ、ひとつの操作ミスが大事故につながりかねない製品を取り扱っているため、表記をわかりやすくすることは極めて重要です。特に産業機器は多くの端子を備えていることが多く、そこからケーブルが複雑につながっていて、配線を間違えると故障してしまうこともあります。そこで、端子の機能を表す文字や図などの表記や配色を工夫し、ひと目で判断しやすくしました。違う製品同士でも、似た機能はなるべく似たデザインにするなど、細部にまで気を配っています。

トータルデザインにも、デザイナーの個性は不可欠

加藤
ガイドラインがあるとはいえ、それを産業機器のデザインにどう落とし込むかはデザイナーに委ねられています。
加工機というカテゴリーを例にとっても、加工対象となる素材や方式によって筐体のサイズやハードウェア構成が全く異なります。その中で、それぞれの製品の印象を統一し、三菱電機の機器が並ぶお客様の工場環境に、高い信頼性や清潔感といった価値を提供していくためには、ガイドラインでは定めきれないデザイナーとしての力が必要になってくるのだと思います。
秋山
製品のイメージ統一というテーマを考えていく上では、研究開発としてコンセプトモデルのデザインを行い、理想とするイメージを可視化していくことも、私たちの重要な仕事の一部です。
加藤
加工機はサイズがかなり大きいため、1/10スケールモデルを制作して、トータルデザインの在り方を研究してきました。当然、これらのコンセプトモデルの造形が全ての製品に反映されたわけではないのですが、研究所として続けてきたこのような活動の成果が、今の三菱電機の産業機器のデザインや、それらを担当するこれからの若いデザイナーに引き継がれていると思います。
実際の製品開発を進めるときは、ガイドラインで定めるロゴや表記のルールと機器それぞれの特性を踏まえながら、各担当デザイナーが三菱電機のFA機器として統一されたイメージを思い描き、具体的なデザインに落とし込んでいきます。新製品の開発に取り組む時は、色々な視点の意見やアウトプットが必要なので、デザインコンペのようにみんなで案を持ち寄ることもあります。
秋山
ひとつの製品に対してみんなで案を出し合い、フラットに議論できる貴重な機会です。普段はある程度、担当製品が決まっているので、先輩デザイナーの仕事を学べるのはとても勉強にもなります。もちろんその上で自分の案が選ばれたら嬉しいですが、複数の案のいいところを取り入れるなど、みんなでブラッシュアップしていくことが重要だと思っています。
加藤
マネージャーという立場としては、本来デザイン業務はマニュアル化できるものではないですが、私たちのグループでは、まずこのガイドラインを用いて基本が学べるようになっています。秋山さんはそもそも、学生時代からBtoB (Business-to-Business)のデザインに興味を持っていたので、ガイドラインへの理解や吸収も早く、入社後まもなく新機種のデザインをメインで担当してもらうことにしました。
秋山
電子ビーム金属3Dプリンタのデザインを担当した際には、使用者が安全に作業できることを第一に考えデザインしました。実際に開発中の製品を見学させてもらい、安全性を考慮した開閉扉や誤作動しない操作スイッチの位置なども検討しました。また、巨大な製品ですので使用者に圧迫感を与えないシンプルで清潔感のある外観を意識しています。ガイドラインを守りつつ、三菱電機の加工機として認められるようなデザインを目指しました。
先輩方からもたくさんアドバイスをいただき、最終的には2020年度のグッドデザイン賞を受賞することができました。
産業用加工機のコンセプトモデル
産業用加工機のコンセプトモデル
秋山がデザインを担当した電子ビーム金属3Dプリンタ(上)

「FA機器のデザイン」だからできること

加藤
ガイドラインの策定後には、各製品の開発担当者からさまざまな反響をいただきました。予想していなかったのは、デザイン前の機能設計の段階で、開発担当者が自主的にガイドラインを意識して設計をしてくれるようになったことです。例えば、ガイドラインでは製品毎にコーポレートロゴの推奨サイズが定められているので、そのスペースを確保するように部品配置などを自主的に見直してくれるのはありがたかったですね。以前、FA機器を生産する各地の工場で、ガイドラインの策定に関わっていない開発担当者や工場関係者の方々に周知するための説明会を開催したことも良かったと思います。
秋山
新製品に従来品と同じような操作性をもたせることも、ユーザーにとっては大切です。新製品毎に簡単に変えるのではなく、変えないことで慣れ親しんだ従来機種と同じように操作できることが、「安心」という価値を生むこともある。リニューアルや新製品の開発に携わるうちに、デザインの考えが広がりました。もし今後、産業機器以外を手掛けることになっても、このトータルデザインの考え方は忘れずにいたいと思います。
加藤
長年、製品デザインに関わる中で、「『三菱電機らしさ』ってなんだろう」と考え込む時期もありました。家電をはじめ、個々の製品はよく知られていても、三菱電機としての共通した特徴はそこまではっきりしていません。一般消費者向けの製品はどうしても開発サイクルが短いので、トータルでブランディングするのはなかなか難しい。対して我々のグループは、産業機器というひとつのカテゴリー全体を見渡せます。個々の製品がまったく違った形をしていても、トータルのデザインができないかと模索できる。そこは、この部門ならではのチャレンジですね。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
プロダクトデザイナー

加藤 伸一

1999年入社
産業システムデザイン部産業機器グループ マネージャー。これまでにプロダクトデザイナーとして、車載機器や家電、エレベーターなど幅広いジャンルの製品を手掛けてきた。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
プロダクトデザイナー

秋山 朝子

2018年入社
産業システムデザイン部にて、主にFA機器のプロダクトデザインを担当。美術大学・大学院時代にプロダクトデザインを学んだのち、三菱電機に入社。