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デザインの力で「誇り」と「愛着」を感じられるオフィスに

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー
嶋田 あずみ・釜本 真有
ZEB関連技術実証棟「SUSTIE」の内観

嶋田
2020年10月、三菱電機の情報技術総合研究所(以下、情報総研)内にZEB関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」が竣工しました。「ZEB(ゼブ)」は「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略称で、省エネと創エネを組み合わせることで年間のエネルギー収支をゼロにすることを目指した建物のこと。SUSTIEでも、空調、換気、照明、給湯、昇降機などの機器に最新の省エネ技術を導入したほか、屋上には太陽光パネルを設置。結果、基準比106%の省エネを達成し、『ZEB』を実現しています。
釡本
SUSTIEは、従業員の「働きやすさ」も大切にしています。現在目指しているのは、健康的に働けるオフィスに与えられる「WELL認証」において最上位のプラチナを取得することです。建物の省エネ性と、快適で働きやすい環境が両立できれば、持続可能な社会への貢献にも繋がります。そのために統合デザイン研究所はプロジェクト立ち上げ時から参画し、人中心の視点で設計に関するアイデアや内装のデザインを提案しました。
嶋田
本プロジェクトの立ち上げ当初に「人や技術と出会い、常に進化を体感できる“アドバンストコミュニケーションラボ”」というコンセプトを掲げました。しかしながら、実際にその理念が入所される皆さんの求めるものなのかは未知数でした。そこで、従業員のニーズを探るだけでなく、自分たちのオフィスをこうしたい、というアイデアを創出するためのワークショップを開催しました。

気持ちをポジティブに切り替えるのも、デザイナーの役割

嶋田
ワークショップには20名が参加し、私はプランニングとファシリテーターを務めました。ワークショップはプランニングが全て、といっても過言ではありません。実施の目的やゴールを明確にした上で、参加メンバーの特性に合わせて全体のタイムスケジュールやアイデアシートなどのツールを念入りに準備します。今回のワークショップの場合、「どんな職場にしたいですか?」という漠然とした質問では、「仕事部屋をきれいにしたい」「古くなった家具を新調したい」といった細かな意見しか引き出せないと判断し、大きな視野を持ってオフィス改革を考えてもらうべく「偶発的に人が出会い、共創が自然と生まれる場」「いきいきとフレキシブルに働ける場」「来訪者に三菱電機や情報総研地区のすごさをアピールできる誇れる場」という3つのテーマを用意して、それぞれに紐づくアイデアをグループごとに発表してもらいました。
釡本
当初は「本当にそんなことができるの?」「結局、アイデアを出しても実証棟には反映されないんでしょう?」と懐疑的だった人たちもいましたが、グループディスカッションが盛り上がるにつれ、参加者の気持ちも前向きになっていったように感じます。
嶋田
集まったアイデアで多くの参加者の共感を集めたのが「食堂やめませんか?」です。これは食堂という広いスペースを、ランチタイムだけでなくミーティングや交流の場に活用したい、という意見。ほかには「ながら廊下」というアイデアも多くの共感を集めました。廊下に小さな打ち合わせスペースを作れば他部署とのコラボレーションを促せるのでは、という期待が込められています。
釡本
実際にSUSTIEの食堂は「マルチユースカフェテリア」としてランチタイム以外にも社内外の人と交流ができる場になっています。廊下に打ち合わせスペースを作るのは難しかったのですが、代わりにどの部署の人でも行き来できる「共創スペース」が生まれました。今思えば、SUSTIEに反映されたアイデアが数多くありますね。
嶋田
2回目のワークショップでは、他社のオフィス見学を行いました。普段の業務で、他社のオフィスに入る機会はそう多くはありません。そこで最先端のオフィスを見てもらい、これまでとは違う新しいワークスタイルや環境の考え方、またそこで働く人達の姿を、実際に体感してもらおうと思ったのです。
釡本
オフィス改革を行った5社を訪ねたのですが、自然光をたっぷり採り入れた明るく開放的なオフィスに誰もがカルチャーショックを受けました。初めてのフリーアドレス制度の導入に戸惑いを持たれている方も多かったのですが、実際にフリーアドレスで働かれている人達の活気溢れる様子を見て、ポジティブな印象に変わったようです。
嶋田
視察をするまで「オフィスにお金をかけるのはコストパフォーマンスが悪い」と考えていた方々が、「これだけ働く環境が変われば、アウトプットの質も高まる」「未来への投資につながる」と新しい価値観を受け入れてくれたことが何よりの収穫です。この見学を通じて、ユーザーの固定観念を取り払い、新しい取組みにトライするポジティブなマインドを醸成するお手伝いをすることも、デザイナーの大切な役割のひとつだと再認識しました。
人が行きかうホールや通路に設けられたワークスペース
人が行きかうホールや通路に設けられたワークスペース

対話を重ねて、より良いオフィスに

釡本
半年間、計10回のグループワークを重ねたのち、内装デザインがスタートしました。内装や什器を担当する他社のデザイナーたちと、表現したい情報総研のイメージを擦り合わせていくことに特に注力しました。SUSTIEはオフィスであることに加えて、訪れた人に情報総研やその技術をご紹介するための重要な場でもあるからです。情報総研らしさを他社のデザイナーとつくり上げていくために、まず「責任、知識、使命、品質、真面目」というキーワードを抽出し、ポジショニングマップにまとめました。働く場としての心地よさや暖かみと、研究者のオフィスとしての知的で凛とした雰囲気を合わせもった空間を目指し、木材や金属といった素材のバランス、カラーのトーンの抑揚など細部まで議論を重ねることで、このSUSTIEの空間が出来上がりました。
嶋田
オフィスづくりには、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)という考え方を採り入れました。これは働く場所を自由に選べるワークスタイル。SUSTIEも全館をフリーアドレスにし、フロアごとに異なる働き方を促す設計にしました。たとえば1階と2階の吹き抜けには大階段があるのですが、そこに大スクリーンを設置するとプレゼンテーションが行える空間になります。2階はグループミーティングに最適な「対話ゾーン」、3階は掘りごたつで仕事ができる「リラックスゾーン」、4階はデスクごとにパーテーションで仕切った「集中ゾーン」です。
釡本
利用者からは「気分によって席を変えられるので、ありがたい」「フリーアドレスは面倒だと思っていたが、思ったより働きやすい。もう固定席には戻れない」と好評をいただいています。特に嬉しかったのは「モチベーションが上がる」という声です。オフィスをデザインすることで、働く人の気持ちにも貢献できるという実感が湧きました。今後はコロナ禍の中、SUSTIEをどう利用してもらうかが課題です。ニーズの変化を探るために、稼働後にも入居者とのワークショップを開き、改善活動に取り組みました。
嶋田

私たちデザイナーの仕事は、ユーザーの言葉に耳を傾け、想いを汲み取り、カタチにすることだと思っています。いずれはSUSTIEを通して得た知見を、三菱電機グループのこれからの働く環境づくりに広げていきたいと考えています。 これからも、粘り強い対話や、地道な活動を通してスキルを蓄積して、人々が誇りと愛着をもって働けるオフィスデザインの在り方を探求していきたいと思います。

「SUSTIE」は三菱電機株式会社の登録商標です。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

嶋田 あずみ

2007年入社
プロダクトデザイナーとしてエアコン、扇風機を担当。2015年より公共ソリューションデザイングループへ。デザイン思考を用いながら、当社事業のコンセプト構築、コンテンツデザイン、BtoB(Business-to-Business)向けの空間デザインなどを手掛ける。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

釜本 真有

2017年入社
公共ソリューションデザイングループにて、事業創造の研究に従事。ワークショップ設計とファシリテーション、コンセプト構築などを担当する。