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新しい「見まもり」のかたちで、高齢化する社会をサポートする

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー
萩原 雅美・高橋 美早・吉澤 仁志

24時間密着で見出した、本当のニーズ

萩原
「人生100年時代」が到来し、高齢化は主要な社会課題になっています。そこで2018年、高齢者施設の1つであるサービス付き高齢者住宅(サ高住)に向けた商品開発をするために、このプロジェクトはスタートしました。高齢者施設向けサービス開発は、三菱電機にとって初の試みでした。まずはニーズを探るべく、実際の現場へ足を運ぶことにしました。幸運にも統合デザイン研究所の近くには、関連会社である三菱電機ライフサービスのサ高住があり、協力を得ることができました。
高橋
当初イメージしていたのは、ロボット掃除機や、配膳をサポートするワゴンといったものです。しかしヒアリングを通して、実際の現場のニーズは違うところにあると気づきます。現場をさらに詳しく知るべく、2019年からは三交代で24時間体制のエスノグラフィー評価(現場観察)を行い、サ高住の課題を探りはじめました。
萩原
実際に体感したサ高住で働くスタッフの現場は、想像を超える過酷さでした。見まもり・巡回、清掃、介助、健康管理など、分刻みで行われる膨大な量の業務。正確性を要する介護記録や、毎回シフト交代ごとに間違いがないよう口頭で読み上げる情報共有。安心・安全な暮らしを守るためにスタッフの方々がどれだけ尽力されているのかを実感しました。また、全国各地の9つの高齢者施設56名にインタビューを実施し、合計410のニーズ・課題を抽出。これらを145項目に分類しました。この膨大な課題の中で何から解決すべきか判断するため、高齢者施設の施設長や運営メンバー、リーダーに意見を仰ぎながら優先順位をつけていきました。
高橋
施設経営者の課題は経営の安定化とスタッフの確保で、スタッフの課題は、業務負担の高さです。また、入居者は身体機能や認知機能が低下することへの不安があります。これらを解決するには、まず「スタッフの業務負荷の軽減」を先に実現することだと思いました。スタッフが余裕を持って働けるようになれば、人材の定着につながり、同時に高齢者への介助や会話の時間を増やすことにもつながるはずだと。
萩原
ソリューションの軸に据えたのは、課題の優先順位の上位に挙がっていた入居者の転倒や空調事故の防止、巡回といった「見まもり」です。転倒や入浴事故、徘徊など、対応の必要な「見まもり」を60項目抽出し、現状の対応状況、対応時の問題点、スタッフの要望、緊急性の高さなどを一つ一つヒアリングして、「何をどう見まもるか」を検討していきました。特に大きな問題として挙がっていたのは、居室内の「見まもり」です。サ高住は、食堂やお風呂などの共有スペースと、各入居者の居室に分かれています。居室はプライベート空間ですから、用事がない限りスタッフでも容易に入ることはできません。でも、居室に入らないと事故が発生しても気付けないといったジレンマがあります。求められているのは、居室に入らなくても高齢者の「見まもり」を可能とする手段でした。
高橋
こうして生まれたのが、安心見まもりサポート「MelCare®(メルケア)」です。「現場に密着しながら、課題を抽出し、気づきを整理し、アイデアに落とし込んで検証する」という流れで制作したプロトタイプは、その時点でほぼ完成形に近いものになりました。

センサーとUIデザインで今の状況を瞬時に伝える

高橋
導き出したコンセプトは「入居者を自然に見まもる」です。センサーとクラウドを活用し、居室内の状況をスタッフルームのサイネージや各スタッフのスマートフォンに届けます。スタッフは、都度居室を訪ねて状況を確認する手間がない上に、入居者は監視されているようなストレスを感じません。自然と「見まもり」ができるソリューションです。
萩原
特長的な機能は、MelCare独自の「転倒見まもり」です。入居者が居室内で転倒したら、スタッフのスマートフォンにアラートを発信します。従来は、大きな音が聞こえたら駆けつける、夜間には居室を一室ずつ巡回して確認するなど、スタッフには負荷の高い業務でした。MelCareを導入したことで、今まで気づくかなかった居室内での転倒にもリアルタイムで気づくことができ、夜間の巡回で入居者の睡眠を妨げることもなくなります。
吉澤
二つ目の機能が「すこやか空気見まもり」です。居室内の温度や湿度、CO2濃度に異常があった場合にアラートが発信されるので、エアコンの誤操作や熱中症リスクをすみやかに発見できます。これに連動する形で「施設マップ」も提案しました。館内の平面図に、各居室の室温を暖色・寒色の濃淡で可視化したものです。実際の温度を数字で表示することもできますが、忙しい現場ですから、文字を読み取るよりも、直観的に室温の差が理解できる表示を目指しました。
高橋
三つ目が「生活リズム見まもり」になります。センサーの情報をもとに、睡眠リズムや離床、トイレの回数、居室にいるかいないかなど、大まかな活動ログをとるものです。「普段なら起きているはずの時間に、まだ就寝している」といった異変のサインに気づきやすくなります。
吉澤
「施設マップ」と同様、睡眠中は青、活動中はオレンジといった具合に、ひと目見て状況が分かるUIデザインにしています。いずれもデザインしたら現場スタッフに見てもらい、お話を伺っては改善する。その繰り返しで表現をアップデートしていきました。
MelCareアプリの操作画面

実用的なデザインはいつも現場への理解から生まれる

高橋
現在は、スタッフの業務負荷をさらに軽減し、入居者のケアに充てられる時間を増やすべく、介護記録を効率化する機能を開発中です。スタッフのタイムスケジュール管理、高齢者の身体機能や認知機能を維持するコミュニケーションサービスも検討しています。
萩原
プロジェクトを通して痛感したのは、現場を見ることの大切さです。いくら工夫をこらしても、現場への深い理解がないと、机上の空論になりかねません。三菱電機ライフサービスの全面的な協力があったからこそ、ソリューション開発のための大きな知見につながりました。介護現場の課題抽出に向けた日本各地の高齢者施設の見学やインタビューの実施にあたっての協力、深く感謝しています。
吉澤
UIデザインも同様で、現場からたくさんの学びや発見がありました。例えば生活の自立度や介護度には差があるため、入居者によって知りたい内容が異なります。その気づきから、特に見まもりが必要な居室の様子を画面上部に固定表示して目立たせ、より多くの情報を表示するUIが生まれました。試行錯誤して導き出したデザインによって、介護ケアの充実につながったなら嬉しいです。
萩原
「モノからコトへ」と言われて久しい現代。デザイナーが手がける領域は、プロダクト単体からソリューション全体へと大きく広がっています。本プロジェクトにおいても、事業の足がかりとなるコンセプトづくりから、実際にユーザーに使用されるUIデザインまで、チーム一丸となって創り上げることができました。
高橋
デザインする対象が「コト」に広がっても、「ユーザーが喜ぶものをつくる」という仕事の根幹は変わりません。私たちデザイナーがサービスデザインにまで携わる意義は、そこにあるのだと思います。
萩原
今回は高齢者施設をターゲットとして開発しましたが、次のステップでは、在宅高齢者を含めた高齢者のウェルネスを総合的に捉えたソリューションを検討していく必要があります。最終的には、病気の方や若年層も含めた幅広い世代の方々の健康や幸福、健康寿命の延伸の実現を考えております。そして、それらの課題一つ一つを整理し、開発関係者間で情報共有して、ソリューションに落とし込んでいくのが私たち統合デザイン研究所の役割だと考えています。デザインを通してたくさんの方の人生をサポートすることが、私たちの目標です。

「MelCare」は三菱電機株式会社の登録商標です。
MelCareサービスは2024年2月末をもって終了しました。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

萩原 雅美

1990年入社
入社から30年間にわたり家電機器全般の製品開発を経験。現在は高齢者向けソリューション開発及び三菱電機の複数の研究所との連携ソリューション開発に取り組む。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
デザイナー

高橋 美早

2013年入社
冷蔵庫のプロダクト・CMFデザインを担当した後、冷蔵庫や炊飯器などコンシューマー向けアプリ開発や、高齢者向けの見まもりサービスの検討に携わる。

三菱電機株式会社 統合デザイン研究所
UIデザイナー

吉澤 仁志

2015年入社
キャリア採用にて入社。エレベーターやビルシステムのUIデザインを経て、現在、コンシューマー向けアプリのUIデザインに携わる。