Round-trip Letters
カヒミ・カリィ × Hello,AI Lab

【 Vol.14 From Hello,AI Lab 】
経済・宇宙、明日のAI

それは、文通のようなメッセージ。以前からAIの可能性に注目していたアーティスト、カヒミ・カリィさんと、三菱電機の研究者集団「Hello,AI Lab」が、AIについて語り合いながら、発見や気づきをやり取りするコラムです。

わたしがお答えします
  • 回答者

    Hello,AI Labの研究員

  • 特徴

    アラフォー、女性、現在子育ての真っ只中、お世話好き、ちょっとおせっかい、幼少期より科学技術に興味あり。少々ピアノを嗜む。

  • 注意

    研究所の意見を代表しつつ、若干の私見をはさみます。

1 違いや共通点にふれて

人が大切にしてきたこと

カヒミ・カリィさま

お返事ありがとうございます!今回のレターもまた面白く、興味深く拝見しました。

文学、哲学、芸術など、カヒミさんがパリに惹かれた理由とそこでの暮らし、そしてニューヨークでの生活、海外在住経験が豊富なカヒミさんだからこそ語れるそれぞれの国の違いや共通点、読んでいてとても刺激的でした。
それから、AIがどれだけ進展しても、お料理に使う材料選びや味付け、器選びや盛り付けは自分がしたい、お子さんと絵本を読む時間は大切にしたいというお話、私もまさに同じ感覚で、読みながらほっこりしてしまいました。

2 経済・司法・宇宙のこと

AIとともに豊かになる世界

それでは、ご質問にお答えしますね。

【質問1】

アメリカで生活していると、AIが社会にどんどん取り入れられていると感じる反面、AIが搭載された家電などはやはり価格が高く、庶民の生活では取り入れにくいように見えます。AIと経済的なことについてどう思われますか?

まずは、面白い視点のご質問ありがとうございます!

たしかに、最新の家電に着目すると、AIが搭載されることで価格が上がっているように感じられるかもしれませんね。
私達作り手側としてはいつも、AIを搭載することで価格は上がるかもしれないけれど、それに見合うだけの価値を消費者のみなさんに提供して、win-winの関係になれればと思っているんです。ニーズを反映したよりよい機能を実現することで、喜んで買っていただきたいですね。

ただ、AI搭載=高価格の構図はいつも成り立つのでしょうか。少し考えてみましょう。
たとえば、AI機能を搭載したお掃除ロボット。たしかに、人が手で吸い込み口を動かすタイプの掃除機より高いものが多いです。でも、家事の負担を軽くしたい人に選ばれます。それに、人にお掃除をお願いすることと比較すると、お掃除ロボットのほうがお財布に優しそうです。何よりこのコロナ禍で人にお願いすることに抵抗がある人も多いでしょう。

家電以外の使われ方にも目を向けてみましょう。チャットボットはユーザーに無料で提供してくれるサービスも多く、ユーザーとしてはコストを気にせず利用できます。人工知能を活用していて、コンピューターがまるで人間のようにチャットで対話して、質問に回答してくれたりしますよね。
さらには工場用の機械(ファクトリーオートメーション)の分野では、AIを搭載した機械自体は高価かもしれませんが、AIを活用することで、たとえば作業手順の誤りを防いだり、熟練者の人手不足を解消したりしますので、トータルで製造過程を考えると高価なわけではない場合も多いと思います。
これらの話をまとめますと、AI搭載=高価格、という構図が必ずしも成り立つわけではなく、AIが対応することで人間が対応するよりもコストがかからないのであれば、それはAI導入の経済的合理性がある、とも考えられるんですね。

【質問2】

公正な判断が必要な司法の場で大量のデータを処理できるAIが活用されたら、冤罪などがなくなるのでは?と思うのですが、司法の場でのAI活用の可能性はありそうでしょうか?

司法の場では、人の支援という形として、AIの活用はすでに始まっているようです。ただ、支援を超える利用については、国民としては否定的な意見が多いようです。冤罪をなくすというのは重要な取り組みです。ただそのためには、AI活用におけるメリット・デメリットを議論し、人権が侵害されないようにするための仕組み作りが必要です。

まず司法の場でどのような形でAIが活用されているのかを見ていきましょう。
司法の場でAIは、文書の分類、要約、検索、管理、自動レビュー、翻訳などに活用されています。それらに加えて、リスクの洗い出し、音声アシスタントの活用、請求書発行の自動化などにも使われており、人が作業すると膨大な時間がかかるけれどAIにとっては得意な分野を中心に、法律事務所と依頼者との間での手続きの迅速化やコストの削減にAIは貢献しています。

一方で、人の支援を超えるAIの利用について考えてみます。AIは大量のデータを処理することが得意ですので、防犯カメラのデータ、顔認証データ、スマホからのデータ、車種、音声、筆跡…ありとあらゆるものをデータ化することで、アリバイが成立し、冤罪が防げるかもしれません。また、AIが最終判断を行うことで、人に比べて客観的な判断ができるかもしれません。ただこの場合、あらゆるものをデータ化すること、司法の場でAIが人間に取って代わって判断することに拒絶反応を示す人が多くいると考えられます。
今、人間を中心としたAIの活用についての議論が活発に行われています。AIが基本的人権を侵すものであってはならないという原則がまずあり、人々がAIに過度に依存したり、悪用して意思決定を操作したりといったことがないよう、適切な仕組みを導入することが望ましいとされています。

このように、司法の場でもAIが得意な分野で人の支援という形で導入していくことは進められつつありますが、支援を超えた形や冤罪かどうかの最終判断をAIに任せるといった可能性は現状では低いといえそうです。

【質問3】

先日、娘と1969年のアポロ11号の月面着陸についてのドキュメンタリーを観たのですが、改めて観ると当時の宇宙服など、以前見た時よりも古く感じるものが多かったんです。それで、宇宙分野にAIがどんな風に携わっているのか気になりました。具体的なものでなにかありましたら、教えていただけますか?

最新の、たとえばクルードラゴンの宇宙服を見ると、アポロ時代の宇宙服はやはり古く感じられ、技術とデザインの進歩に感動しますよね。ただアポロ11号が月着陸を果たした1960年代はカラーテレビがようやく普及し始めた頃ですから、その頃の技術力で人類が月に行くというのは、やっぱりとてつもない偉業ですよね!
どんどん発展する宇宙分野の技術においても、やはりAIの活用は進められています。話題になっているものをいくつかご紹介します!

たとえば惑星探査機。小惑星を探査する場合、地球から小惑星探査機に信号を送って、それを受け取ったと反応が返ってくるのに30分以上かかります。信号の速さは光速です。この世界で、光の速度を越えるモノは存在しません。光速ですら、惑星探査機との通信に数十分かかるのです。そんな壮大な宇宙ですから、探査機に問題が起こってもひとりぼっち、誰も助けてくれません。そこで、惑星探査機は、人工知能を使って自分で考える設計となっているものもあります。
他にも、数年前、GoogleのAIがNASAの宇宙望遠鏡のデータを使って、太陽系外惑星(太陽系の外に存在している惑星で、太陽以外の恒星の周りを回っている)を発見しました。
また、ロケットの打ち上げ前の点検にAIを活用して自動化し、低コスト・短時間での打ち上げを実現させるという取り組みは既に始まっています。

さらに、NASAは「アルテミス」で再び人類の月面着陸を目指していますが、月面では自動運転を行ってアポロ時代よりも効率的な探査が検討されたりもしています。
また、ここからは当社の取り組みですが、人工衛星や航空機が撮影した画像の認識技術に、AIが活用されています。たとえば、違法漁業監視や海上交通の安全確保のためにレーダー(SAR*1)衛星の画像が利用されていますが、AI技術を使うことで検出が難しい内湾や河川でも、陸地と船舶との誤認識を防いでいます。さらにGAN(敵対的生成ネットワーク)により本物のような模擬画像を生成し、これを学習に用いることで、AIによる検出・識別精度をさらに高めます。
このように宇宙分野でもAI活用が進められています。壮大な宇宙に思いを馳せる。わくわくしますね!
*1 SAR: Synthetic Aperture Radar (合成開口レーダー)の略。

3 AIへの考え方

最後の質問をさせてください

いかがでしたでしょうか。今回はついに宇宙にまでお話が発展しましたね。
これからも身近なところから未来のお話まで、いろんなお話ができればいいなと思っています!
それでは、私たちからカヒミさんへの質問はこちらです!

カヒミ・カリィさまへ

  • 【 質問1つ目 】

    小学生であり、かつアメリカで生活している娘さんは、AIに対してどんな印象を持っておられますか?

  • 【 質問2つ目 】

    未来を担う子どもたちには、AIをどんな風に学び、AIとどんな風に付き合っていってほしいですか?

  • 【 質問3つ目 】

    カヒミさんご自身は、この連載を通してAIに対する考え方は変わりましたか?

Hello,AI Labより

※本文中における会社名、商標名は、各社の商標または登録商標です。