各事業所で、生きもの調査から
始まる自然との共生を推進

周辺の豊かな自然と調和する「緑の工場」を見据えて

北伊丹地区

北伊丹地区は、伊丹市が都市計画法に基づいて指定する「昆陽池風致地区」の一角にあります。
風致地区とは、自然の景観を維持するために都市計画上設けられる地域のこと。北伊丹地区の南に接する瑞ケ池をはじめ、多くの水と緑に恵まれています。
北伊丹地区では、過去に敷地内で実施した生きもの調査の結果も参考としながら、こうした周辺環境と調和する「緑の工場」をコンセプトに、さまざまな活動を推進しています。

※風致地区:都市計画の中で、特に自然の景観を維持・保存するために設ける地区。建物の高さや建築面積、緑地面積、高木・低木の本数などに規定があり、樹木の伐採や土石の採取も制限される。

北伊丹地区

事業所所在地

〒664-8641 兵庫県伊丹市瑞原四丁目1番地

主な取扱製品

<高周波光デバイス製作所>

高周波デバイス(衛星通信・放送、携帯基地局などの無線通信機器用)、光デバイス(光通信機器用、産業・映像機器用)、赤外線センサデバイス

<パワーデバイス製作所北伊丹地区>

パワーモジュール、大電力パワーデバイス、半導体センサー、トランジスタアレイ、HVIC、パワーデバイス用ウェハ

主な取組みテーマ
  • 外来種の管理 [A-1-(2)]
  • 希少種「マツバラン」の保全 [A-2-(2)]
  • 「きたいたみガーデン」の整備 [B-4-(3)] [B-4-(4)] [B-5-(1)]

[ ] 内は取組みテーマの分類を示します。詳細については以下を参照ください。

北伊丹地区の活動の方向性

取組みの特徴
  • 歴史的価値のある植栽の保全を図る
  • 構内で確認された希少種「マツバラン」について、移植など複数の方法で保全を図る
  • 伊丹市と協力し、土地の元来の環境である「猪名の笹原」の再現を図るとともに、チョウなどが食事や休息に一時利用できる緑地として機能させることを目指す

北伊丹地区の活動テーマ

北伊丹地区の担当者

北伊丹地区のある伊丹市では、2014年に定められた「生物多様性いたみ戦略」のもと、自然環境の保全や緑化に向けた取組みが進められています。

当地区では、この戦略と当社の環境方針に基づき、地域の生態系との共生を大切にしながら活動を進めています。活動の大きな柱の一つが、古き伊丹の風景をイメージした「きたいたみガーデン」の造成であり、ここでは地域固有の生き物も観察されています。また、地区内で確認された希少種・マツバラン※1の保全や事業所全体の緑地管理、樹木調査などの活動を実施しています。

※1第5次レッドリスト(植物・菌類)[報道発表:令和7年3月公表] VP1806 準絶滅危惧(NT)、「兵庫県版レッドリスト2020」ランクB

北伊丹地区の活動の方向性

以下は三菱電機グループの各事業所による生物多様性保全活動の方向性を示した一覧表です。
北伊丹地区の活動がどの方向性に当てはまるのかを、色で示しています。

周辺地域の生物多様性活動と連携した生態系ネットワークの構築

活動の方向性
  • A 生きものへの
    負の影響を低減する
  • 1.「開発圧※1」「外来種圧※2」の抑制  ※3
  • (1)生きものに対する影響把握
  • (2)外来種管理
  • 2.「希少種」「固有種」への注意喚起と保全
  • (1)構内生物リストの公開
  • (2)希少種、固有種の保全
  • (3)周辺の保全課題への協力
  • 3.農薬影響の管理や、緑地・天然資源の保全
  • (1)生きもの殺傷の抑制
  • (2)水や土壌等の天然資源への配慮
  • B 生きものとの
    より豊かな共生を目指す
  • 4.機能緑地の設定
  • (1)緑地管理の体制
  • (2)飛翔性生物の利用地の整備
  • (3)「みどり+生きもの」優先地の整備
  • (4)事業所周辺への「みどりの連続性」の提供
  • (5)事務所周辺の生物多様性保全活動への貢献
  • 5.緑地の単純化、特定化など、産業的志向からの
    脱却
  • (1)植生の多様化・多層化
  • (2)植物などの特性に合致した緑地管理
  • (3)地域への貢献・配慮
  • C 働く中で社員が
    自然との関係を取り戻す
  • 6.生態系サービスの職場での積極的享受
    (休憩所、フロア)
  • (1)文化的サービスの享受・場づくり
  • (2)供給サービスの享受・場づくり
  • 7.「無関心」「無関係」状態から、
    「全員が関係ある」状態へ
  • (1)理解と行動促進の教育
  • (2)職場・業務での関係創出

※1開発圧:棲みかの破壊。事業拠点を新たに建設することや、天然資源の採取などのために開発が行われること(サプライチェーンでの開発を含めて)、などが該当。操業による水の使用が周辺地域や水源、ひいては生きものの生息環境に影響を与える場合などもこれに含まれると考えられる。

※2外来種圧:その地域にもともと存在しない生きものが、外構や建物の脇の緑地、生垣などをつくる際に地域の外から樹木や草木を導入することがある。何気なく行われる生きものの移動が、地域固有の種の生息を脅かしたり、遺伝的な汚染の原因となることがある。

※3外来生物法の「特定外来生物の飼育、栽培、保管又は運搬」に関する規定に則り活動を実施。

北伊丹地区の取組み

古き伊丹の風景を「きたいたみガーデン」で再現

シルビアシジミ

チョウゲンボウガーデンの周辺ではシルビアシジミやチョウゲンボウの姿も

北伊丹地区では、2020年4月、伊丹市の生物多様性いたみ戦略「猪名の笹原」再生プロジェクトとの連携により、古き伊丹の風景である猪名の笹原を再現した「きたいたみガーデン」を整備しました。
猪名の笹原とは、かつて工場周辺にあり、万葉集や百人一首にも詠まれた野草・ススキ・ネザサ草原のこと。市では「猪名の笹原モデル園」を役所と瑞ケ池公園に設置し、伊丹の自然環境再生と生物多様性への関心を高める取組みとして本プロジェクトを進めています。

「きたいたみガーデン」は、さまざまな生物が集う阪神間の「飛び石ビオトープ」になると期待して、伊丹市が保有するキキョウやフジバカマなど猪名の笹原構成種を譲り受け植栽したものです。従業員玄関のそばにこれを造成することで、生物多様性保全活動へ関心を持たせるとともに、精神のリラックスにつながる心地よいみどりを提供しています。
周辺ではシルビアシジミ※1やチョウゲンボウ※2などの生息も確認している一方で、近年は、在来種ではあるものの意図せぬ種の野草が繁殖しているなど、状態の維持には苦戦を強いられている状況です。地域固有種愛好家の協力のもと、草刈りや新たな苗の移植など、よりよい管理手法を検討しています。

※1シルビアシジミ:蝶の1種。国の絶滅危惧種IB類に指定されている。

※2チョウゲンボウ:ハヤブサの仲間。崖に見立てたビルの隙間などに営巣する。

造成当時のきたいたみガーデン

2025年7月現在のきたいたみガーデン

造成当時のきたいたみガーデン(左)には多様な種を植栽したものの、2025年7月現在(右)では意図せぬ野草が繁茂している 造成当時のきたいたみガーデン(上)には多様な種を植栽したものの、2025年7月現在(下)では意図せぬ野草が繁茂している

「きたいたみガーデン」配置図

造成当時の育成植物(抜粋)

ウツボグサ(5~6月)ウツボグサ(5~6月)

ホタルブクロ(5~6月)ホタルブクロ(5~6月)

カワラマツバ(5~7月)カワラマツバ(5~7月)

キキョウ(6~9月)キキョウ(6~9月)

カワラナデシコ(6~9月)カワラナデシコ(6~9月)

ヒオウギ(7~8月)ヒオウギ(7~8月)

カワミドリ(8~10月)カワミドリ(8~10月)

ワレモコウ(8~9月)ワレモコウ(8~9月)

フジバカマ(8~10月)フジバカマ(8~10月)

地区内の樹木を調査

担当者による調査の様子担当者による調査の様子

北伊丹地区内には、一万本以上の多様な樹木が植樹されており、その数はさらに増加しています。こうした植栽の状況を把握し、適切に管理していくために、分布や樹種、高さなどの調査を開始しました。2025年5月に地区の担当者が中心となって実施した初回の調査では、クスノキやアラカシ、トベラ、モッコクなどの樹木の葉を確認し、写真を撮影して記録しました。

今後は地区内でボランティアを募るなどして規模を拡大し、複数年かけて定期的に実施していく計画です。生態系や生物種の「地域性」と地区の事業活動との関係性を正しく把握できるだけでなく、自然環境を調査することで従業員の環境意識を高めていくことにもつながると期待しています。

初回の調査で観察された樹木の葉(左:クスノキ、右:アラカシ)初回の調査で観察された樹木の葉(左:クスノキ、右:アラカシ)

地区内約30か所の植栽には樹名プレートを設置地区内約30か所の植栽には樹名プレートを設置

周辺地域とのつながりを重視した活動を継続

北伊丹地区では、周辺地域の生物多様性活動と連携した生態系ネットワークの構築を目指しており、さまざまな活動に継続的に参画しています。地区内での活動だけでなく、地域と一体となって環境の維持・向上に取り組んでいきます。

伊丹市生物多様性交流フェスティバルに出展

伊丹市では、「生物多様性いたみ戦略」に基づき、活動の輪を広げるため、2017年から「生物多様性交流フェスティバル」を開催しています。

当地区もこの呼びかけに応じ、「自社の活動を地域の方々にも広く知っていただきたい」「企業が取り組む生物多様性保全の意義や活動の理解を深めていただきたい」という想いのもと、当社の取組みをまとめたポスターを出展しています。展示をご覧になった方からお話しを伺うこともあり、地域の方々と交流する機会となっています。2024年度は、地区内で自生する希少種「マツバラン」の保全活動の様子や、伊丹の固有種を育成する「きたいたみガーデン」の現況報告について紹介しました。

展示の様子(於:伊丹市昆虫館)展示の様子(於:伊丹市昆虫館)

展示したポスター展示したポスター

「瑞ケ池公園の桜を育てる会」への参加を継続

瑞ケ池公園の桜を育てる会での活動の様子瑞ケ池公園の桜を育てる会での活動の様子

北伊丹地区でかねて実施している取組みに、近隣の瑞ケ池公園での活動があります。当地区を訪れる人へのランドマークともなっている瑞ケ池公園は、伊丹市の桜の名所です。ソメイヨシノや山桜を中心に約600本の桜が植えられており、1967年の開設以降、地域の憩いの場所として活用されてきました。この場所を後世に残すべく、当地区の従業員が中心となって1986年に結成した「瑞ケ池公園の桜を育てる会」では、2024年度は計3回の活動を実施しました。従業員のほか、退職者、近隣自治体の方々も参加し、枯れ枝剪定や施肥作業など桜の維持管理に向けた活動や、周辺の清掃を行いました。

「里山保全活動」を定期的に実施

里山保全活動の様子里山保全活動の様子

里山林を維持する営みを体験し、人と自然が共存できるようにすることの大切さを体感することを目的として、兵庫県立やしろの森公園での「里山保全活動」を定期的に実施しています。2025年度も当地区の新入社員を中心に参加し、草刈りや植樹などを通じて環境保護の重要性を学ぶとともに、チームワークを高め、新たな視点を得る貴重な機会となりました。

伊丹市・伊丹市昆虫館による
地区内の調査に協力

2025年7月に、伊丹市から依頼を受け、伊丹市と伊丹市昆虫館による北伊丹地区内での生き物調査に協力しました。
調査結果からは、シルビアシジミなど、一部の地域でしかみられない希少な生物が確認できたほか、トノサマバッタやアオスジアゲハなど多彩な昆虫が生息している事がわかりました。
多彩な昆虫が生息する環境を活かして、従業員や地域とのつながりを創出する機会づくりを検討していきます。

トノサマバッタ

アオスジアゲハ

調査で確認されたトノサマバッタ(左)とアオスジアゲハ(右) 調査で確認されたトノサマバッタ(上)とアオスジアゲハ(下)

地区内の希少種保全活動を継続

北伊丹地区では、地区内に自生する希少種の保全活動を継続しています。なかでも2015年11月に確認された「マツバラン」は、第5次レッドリスト(植物・菌類)[報道発表:令和7年3月公表] VP1806 準絶滅危惧(NT)、「兵庫県版レッドリスト2020」ランクB(環境省レッドデータブックの絶滅危惧 IB類に相当)に指定されている種です。人や車の往来の少ない場所へ移植したり、室内で世話をするなど、保全に向けた取組みを実施しています。2024には、植木鉢で世話をしていた株を元の場所へ移植。その後、日よけネットを設置し、保全活動を続けています。

また、北伊丹地区内には、50年に一度花を咲かせると言われる「アオノリュウゼツラン」も植えられています。当地区のアオノリュウゼツランは2014年にも開花しましたが、2024年7月に別の株が開花したことから、地域コミュニケーションの貴重な機会として開花鑑賞会を実施しました。めったにない開花の様子を一目見ようと、大勢の方々が集まり、交流を深めることにつながりました。

植木鉢へ移植していたマツバランを元の場所へ植木鉢へ移植していたマツバランを元の場所へ

アオノリュウゼツランの開花鑑賞会アオノリュウゼツランの開花鑑賞会

マネジメントの声

「自然共生サイト」への認定を目指し、取組みを継続していきます。

当地区は自然豊かな地域環境に囲まれており、創立当時から受け継がれているアオノリュウゼツランなど貴重な植栽があります。また構内でマツバランなどの希少種も確認されており、これらの管理・保全のための取組みを続けてきました。当社の方針として「自然共生サイト」への認定を目指しているうえ、風致地区にある事業所でもありますので、緑地を適切に管理していきたいと考えています。

また、これまでも取り組んできた「瑞ケ池公園の桜を育てる会」への参加など、地域との交流も継続します。こうした取組みは、地域環境に貢献するだけでなく、業務において創造性や生産性を追求する従業員にとっても、心に余裕を持つことにつながる重要なものであると考えています。引き続き、周辺の豊かな自然と調和する「緑の工場」として、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

高周波光デバイス製作所 製造管理部 部長 岡田 規男(写真左)

従業員のモチベーションを高め、さらに活動を広げていきたいです。

当地区ではこれまでも環境の保全活動を続けてきましたが、今後はさらに活動の範囲を広げていきたいと考えています。そのためには、事業活動とのバランスをうまく取り、従業員に積極的な参加を促していく必要があります。

Webサイトやイベントによって現在の活動を発信していくことで、従業員のモチベーションの向上を図り、多くの従業員が活動のアイデアを提案してくれる環境をつくっていきたいと考えています。

製造管理部 環境・インフラ管理課 課長 川崎 揚功(写真右)

(2025年7月取材)

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