コラム
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2002年 10月分 vol. 3
ストイックで素朴な種子島
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 種子島。透き通る海にロケット打ち上げ、鉄砲伝来に天の川。キーワードはいくつもあるけど、今回の打ち上げ取材で予期しなかったのは民宿の庭で「二宮金次郎」に遭遇したこと。昔、小学校の校庭で見て以来。まさか種子島で再会するとは。

 南種子町役場に勤めていらしたという原田さんがご主人の民宿の庭には、他にも達筆で書かれた「今日も一日頑張りましょう ハイ!」という石板や諸々の格言?が並んでいたりして超ユニーク。打ち上げ直前にやっとあいてた民宿で、5人しか泊まれず素泊まりのみ。値段の安さに逆に不安もあったけど、種子島の「素朴さ」「勤勉さ」を象徴する宿にラッキーにも出会えたのかも。

 そう、種子島宇宙センターのある南種子町のみなさんは、とても「まじめに」打ち上げを応援されている。たとえば町のあちこちに掲げられた応援の垂れ幕や看板。「打ち上げ成功をお祈りしています」という表現の生真面目さ。(スーパーのチラシにまで書かれていた)成功すると、垂れ幕は数時間以内に「祝!打ち上げ成功」に変わる。これだけ力が入っているのだから、打ち上げが失敗すると「半年ぐらい町が暗くなる」というのもうなずける。

 町の人が一丸となって打ち上げを見守るのが長谷展望公園。会場には大きなスクリーンと音響装置がセットされて、カウントダウンがリアルタイムで味わえるようにセッティングされた。しかし、決してビールや焼きそば、たこ焼きなどの屋台が並んでいたりしない。

 打ち上げ成功に大喜びした人たちもロケットが見えなくなると、「よかった、よかった」と口にしながらサーッと帰ってしまう。沖縄だったら三線をひき始める人がいて踊ったりするんだろうになぁ・・種子島の人は打ち上げ成功の喜びをどう発散するんだろう、と勝手に心配していたら、居酒屋で祝杯をあげて酔い乱れる南種子町民を発見。地元焼酎・南泉のお湯割は絶対に「お湯が先でないとダメ」と怒られたりして、ちょっと安心する。

 鉄砲伝来の「門倉岬」にも1000人が座れるという洞窟「千座(ちくら)の岩屋」にもおみやげ屋やも人影もなく、真っ青な海が静かに波打っているだけ。ファミレスもなくて、食事場所を探すのにも苦労したし「南の島」のイメージとは違うけど、種子島の魅力は、そんな「素朴さ」。だからこそ、10年前と変わらない天の川が、今でも毎晩見られるんだね。

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