コラム
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2002年 10月分 vol. 5
宇宙に「こだま」するものは
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


写真 気になっていることが一つ。それはロケット打ち上げの「音」。空を震わす「バリバリ」という音が今回は小さかった気がする。タクシーの運転手さんも「いつもは島中に響くような音なんだけど…」と言い、「打ち上げ失敗の時と同じ音だった」と脅かす打ち上げフリークもいた。ロケットエンジニアの青木宏さん曰く「バリバリ」という音はロケット本体の両脇についている固体ロケットの音。液体ロケットは「シャー」という音がするらしい。その青木さんも「音、小さかったよね」と風向きなどいろいろ調べてみたが、原因はよくわからなかったそうだ。この問題(!)は次の打ち上げに持ち越しだ。打ち上げに行かれた方は、ぜひ「バリバリ音」についての情報を『DSPACE』までよせてください!

 さて、ロケット打ち上げの数分間はあまりにドラマティックで目を奪われてしまうけど、ロケットは言わば宇宙に「人工衛星」という荷物を運ぶトラック。今回、宇宙に運んだ人工衛星って、今何をしているのでしょうか?

まず高度450kmに運んだのが、無人の宇宙実験室「USERS」。無重力状態を利用して良質で大型の高温超伝導材料の結晶を作る(注1)。約8ヵ月半後、結晶はモジュールごと衛星から分離され、地球に帰ってくる予定だ。

 そして高度36,000kmの静止軌道を回っている人工衛星が「こだま」。こだまは宇宙の「東京タワー」。つまり電波の中継局。宇宙にはたくさんの人工衛星が回っている。衛星が日本上空から遠ざかった時に、そのデータを「こだま」が中継して地上局に送り届ける。もし中継の役割を果たす衛星がなければ、人工衛星が地球を1周する約90分のうち10分程度しか地上局と通信できない。国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」に日本人がくらすようになった時、トラブルが起こっても地上と通信できなければ、命に関わることだってある。通信の確保は、宇宙飛行士にとって水や空気と同じぐらい大切なものなのだ。

 「きぼう」で行われた実験結果や、宇宙飛行士の「ヤッホー」という声!?、また2002年中にH-IIAロケット4号機で打ち上げられる予定の環境観測技術衛星「ADEOS-II」が撮った地球の画像が「こだま」を介して、頻繁に宇宙から送られてくることになる。また、地上の声や映像だって届けられる。つまり宇宙がもっと身近になるはず、と期待したい。


写真 注1:この実験で作られる大型の超伝導バルク磁石は、リニアモーターカー等の実用化のために期待を集めている。