コラム
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2002年 11月分 vol. 7
「肉厚の」手をもつマジシャン
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

写真 京都駅からJR奈良線で約30分、黄檗駅(おうばく)駅から歩いて10分で京都大学・宇治キャンパスに到着。10月のある日、DSPACEチームは「宇宙太陽発電ならこの人!」の松本紘先生を訪ねた。お目にかかる前から「とにかくパワフル」、「飲み屋で知らない人に手品を見せてすぐ仲良くなってしまう」などなど様々な逸話を耳にし、期待でいっぱい。

 実際にお会いした松本先生は、やはり「しゃべり」が加速度的に盛り上がっていき、とまらない。「直流とか交流って見てる人はわかるやろか」「こんな質問をしてくれたらどうや」と内容に「濃~く」関わってくださって、うれしくなる。

 宇治キャンパスの南端「宙空電波科学センター」に6月にできたばかりの研究棟に入ると、吹き抜けの実験スペースに「ハンドメイドちっく」でちょっと形の変わった飛行機がぶら下がっている。もしや「マイクロ波で飛んだ飛行機」では?京都に向かう新幹線であわてて予習してきた、アレだ。

 1992年8月末に京都大学や宇宙科学研究所などが共同で行った実験で、燃料を搭載しない飛行機に走る車からマイクロ波を送る。受信した飛行機がマイクロ波をエネルギーに変え約400mにわたって水平飛行に成功。「強風がふいて大変でな~。でもラジコンのチャンピオンにお願いして飛行機がこわれんように着陸させてもらったんや」。予算が限られる中、工夫を凝らした当時の実験を松本教授は振り返った。

 松本教授たちのグループは1983年に、世界で初めて宇宙で親ロケットから子ロケットにマイクロ波を送る送電実験に成功、1993年に2回目の実験を行っている。アメリカは1960年代に宇宙太陽発電の構想を提唱したものの、規模が莫大すぎて実現が不可能とみなされた。一方で松本教授たちは宇宙太陽発電の実現に必ず必要になる送電実験をロケットや飛行機で行い、着実な成果をあげていった。NASAは最近、再び太陽発電衛星計画の見直しを始め予算もつき始めている。松本教授は、今こそ日本が世界に先駆けて宇宙発電の実験衛星「第1号」を打ち上げたいと考えているようだ。

 取材の後、松本先生と握手した。肉厚のがっちりした手。「世界初」を作る手。でもどんなマジックがあの「ごっつい」手からうまれるんやろ?