コラム
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2003年 2月分 vol. 1
エスカルゴとサーディンの仲間たちへ
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

コロンビア号から飛行7日目に送られてきた日の出の写真。乗組員の一人、マッコール飛行士は「宇宙で見る日の出や日の入りなどの光景は想像を超えている」と興奮して伝えてきた。(提供:NASA) NASAの宇宙飛行士候補(Astronaut Candidate 略してアスカン)に選ばれると約1年の訓練クラスに入る。数十名のアスカンたちは最初は競い合うものの、次第にチームワークが生まれていく。アスカンは30代前半で子供がいる人が多い。試験の前日に誰かの子供が病気になると、兄弟を預かったり試験の予想問題を作って届けたり、手分けして助け合う。訓練を越えるころアスカンクラスの同期生は家族ぐるみの固い結束で結ばれている。

 1月17日からコロンビア号に乗り組んでいた宇宙飛行士7名のうち、ハズバンド、アンダーソン、チャウラの3名の飛行士は土井隆雄さんが参加した第15期アスカンクラス。マッコール、クラーク、ブラウンの3名は毛利衛さんと野口聡一さんが参加した第16期生の同期生だった。クラスにはそれぞれニックネームがあって、土井さんのクラスは「フライング エスカルゴ」。毛利さんたちのクラスは「サーディン」。参加人数が44名と過去最高だったから、缶詰にぎゅうぎゅうに詰められたイワシのイメージだ。

 コロンビア号の飛行中、毛利さんは「サーディン組の活躍が目立ってるよ」とうれしそうに話していた。それだけに事故翌日、NASDAの記者会見で仲間のことを語るのはつらそうだった。しかし「最先端の科学技術を扱う以上、100%の安全はありえない。常により安全にする努力を続けていくこと。そしてなぜ宇宙飛行士たちは命をかけてまで宇宙に行くのか、その意義を伝えるのが自分たちの役割」と力強く語った。

 土井さんはコメントを発表し、クラスメイトの素顔を伝えた。ハズバンド船長は常に冷静沈着。温かい心の持ち主であり、いつも聖書を持ち歩く信心深い人であったこと。大の仲良しだったアンダーソン飛行士とはジェット練習機でアメリカ中を飛び回ったこと。彼は天文学の修士号を持ちミッション後に博士号をとると語っていたこと。土井さんも天文学の修士号をもっている。きっと星を見ながら語り合っていたことだろう。

 映像で繰り返し流れるコロンビア号の軌跡から伝わるのは恐怖だけ。でもそこに乗り込んでいた宇宙飛行士たちの「想い」を知れば、その想いを先につなげていこうという力に変わるはず。7名の宇宙飛行士の方々がどんな想いで宇宙に飛び立ったか、そして宇宙で何を感じていたか、少しでも多く知りたいと思う。受け継ぐために自分に何ができるか、具体的に見えてくるような気がするから。


注:毛利・土井飛行士は実験担当のペイロードスペシャリスト(PS)として選ばれたがPSはゲスト的な立場。NASA所属の飛行士になるにはアスカンクラスで訓練を受ける必要があった。