コラム
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2004年 4月分 vol. 2
宇宙食の味は?―オランダ人宇宙日記
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


振動装置がたくさん着いたベストを着たオランダ人飛行士アンドレ・カイパース。彼は果たして宇宙酔いにかからないのだろうか?(ESA/Andre Kuipers )  4月19日(モスクワ時間)、国際宇宙ステーション(ISS)クルー交代のため、ソユーズロケットが打ち上げられる。ソユーズは3人乗り。2つの席にはISSにこれから滞在する第9次クルー、ゲナディ・パダルカ(ロ)とマイケル・フォンク(米)が座る。そして3つめの席にはオランダ人飛行士アンドレ・カイパース。彼は約1週間ISSで宇宙実験をして、第8次クルーと一緒に帰ってくる。このISSクルー交代の飛行は「タクシーフライト」と呼ばれ、3つめの座席には今回のように各国の飛行士が実験のために座ることもあるし(去年はスペイン人飛行士が乗った)、デニス・チトーのような観光客が座ることもある。

 アンドレ・カイパース飛行士はオランダ人で二人目の宇宙飛行士。1958年アムステルダム生まれで専門は医学。二人の娘がいる。彼はヨーロッパ宇宙機関のウエブサイトで「アンドレ・カイパースの日記」を去年の11月から公開しているのだが、訓練の日常がオープンに語られていて、けっこう面白い。

 たとえば、ロシアのモスクワ郊外にある宇宙飛行士訓練センター「星の町」に、アメリカ人飛行士が「バー」を作っちゃった話。ISSに最初に滞在したビル・シェパードが作ったため「Shep's Bar」と名づけられている。マルガリータミキサーやジュークボックス、ピアノ、ビリヤードまであるけど、従業 員はいない。自分で勝手に作って飲む。ハロウィンパーティーでは女性飛行士は男装、男性飛行士は女装し、カイパースもブロンドのかつらをかぶった。

カイパース氏が試食したロシア製宇宙食。一番美味しかったというグーラシュはどれだろう?(ESA/Andre Kuipers )  それからロシア製宇宙食の話。40種類ほど試食した中で一番美味しかったのは「グーラシュ(Goulash)」(肉や野菜をパブリカで煮込んだハンガリー料理)、ナッツ入りヨーグルトもいけたが、何種類かのシリアルは「味がしなくて宇宙にはもって行きたくない」等、率直な感想が。

 もちろん仕事の内容もアピールしている。彼が行う「DELTA」計画はオランダ、ヨーロッパの生命科学や技術、大気観測等の実験。興味深いのは、宇宙での生活を楽にする「ベスト」。56もの振動する部品がついていて、宇宙で上下左右の方向を教えてくれる。カイパースは宇宙でこのベストを着て同僚にグルグルと体を回転してもらい、上下左右を感知することができるか実験。宇宙酔いになるのを防ぐほか、パイロットや煙の中で方向感覚がわからなくなる消防士にもこのベストが使えると期待されている。

 宇宙でのオフタイムには二人の娘やガールフレンドに電話し、友達にはメールを送るぞーと書いている。彼自身、2003年1月、コロンビア号に乗り組んでいたデビッド・ブラウン飛行士と親しく、宇宙からメールをもらっている。カイパースはブラウン飛行士からもらったメールをコロンビア号乗組員の写真にプリントして、宇宙にもっていくつもりだ。

「アンドレ・カイパースの日記」
http://www.esa.int/export/SPECIALS/Delta_Mission/SEM1781PGQD_0.html