コラム
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2004年 4月分 vol. 3
彗星と一緒に見える?「はやぶさ」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


地球の重力を利用したスイングバイで3億キロ彼方の小惑星イトカワへ加速する探査機「はやぶさ」(Copyright. A, Ikeshita / MEF / JAXA.ISAS)  リニア彗星、ニート彗星に加えてブラッドフィールド彗星(C/2004 F4)も発見され、この春は彗星ラッシュ。そして、リニア彗星(C/2002 T7)が地球に最接近する5月19日、もう一つ地球に最接近する人工天体がある。小惑星探査機「はやぶさ」だ。運がよければ望遠鏡で「はやぶさ」をキャッチできるかもしれない。

 「はやぶさ」は2003年5月9日、鹿児島県内之浦町からM-Vロケットで打ち上げられ、さつまいも形の小惑星「イトカワ」を目指している。2005年夏、イトカワに到着した後は約3ヶ月間、表面を詳しく調査する。小型ロボット・ミネルバや88万人の名前を積んだターゲットマーカーをおろし、「はやぶさ」自身もイトカワの地表に近づき一瞬タッチ。岩石のかけらを採取して2007年夏に地球に帰ってくる。イトカワのお土産を持って。

 ところで1年前に地球を飛び立った「はやぶさ」が何故地球に帰ってくるの? 地球からイトカワに行って帰ってくるのは相当な長旅だ。これまでの化学燃料を使ったエンジンでは大量の燃料が必要になる。そこで「はやぶさ」は燃料の効率がいい「イオンエンジン」を搭載。このエンジン、NASA工学試験探査機「ディープスペース1」で試されたことはあるが、主推進エンジンとして惑星間の往復旅行に使用されるのは「はやぶさ」が初めて。M-Vロケットで打ち上げるような小型の探査機を遠くの天体に送り、サンプルを持ち帰るためには重要な新技術。化学推進エンジンと比べて推進力は小さいもののエネルギー効率は10倍も高く、太陽電池を使って連続噴射できる。「はやぶさ」はこのエンジンを使って打ち上げ後から少しずつ加速してきたが、イトカワに直接届く軌道に乗るために地球の重力の力でぐいっと方向転換をしてもらおう(これを『スイングバイ航法』と呼ぶ)と言うわけ。

 「はやぶさ」がスイングバイを行うのは5月19日15時21分(日本時間)の予定。地球に約4,000kmまで近づくが、日本は観測条件があまりよくない。条件がいいのはハワイか南米。ハワイでは5月18日の日没直後、スイングバイ直前から再接近時の「はやぶさ」を観測できる。オーストラリアでも少し距離は遠いが5月20日の夜明け前に観測できる。

 「はやぶさ」は何等星ぐらいの明るさで見えるのだろう? JAXA宇宙科学研究本部の吉川真さんによれば、「最接近時は距離的には近いので、条件がよければ人工衛星と同様に簡単に見えるはずです。問題は「はやぶさ」の姿勢と太陽、観測者の方向がどうなっているか。 人工天体の場合、姿勢の微妙な違いによって明るさが大きく変化します。また、もともと地上からの観測は想定されていないため、「はやぶさ」が太陽光を受けたとき方向によってどのくらい明るく見えるかのデータもありません。見えれば幸運という感じでしょうか。」とのこと。

 火星探査機「のぞみ」が2003年6月19日にスイングバイを行った時には、愛媛県の久万高原天体観測館の口径60cm望遠鏡で撮影に成功している。この時「のぞみ」までの距離は約5万3,000km、明るさは15等~16等ぐらい。「はやぶさ」もチャレンジしてみる価値ありでは? 南半球で彗星を楽しむご予定の方、「はやぶさ」の観測もお忘れなく。

地球と小惑星イトカワの距離はもっとも離れた時で約4億km。2004年6月26日の最接近時には約190万kmまで地球に近づきます。

「はやぶさ」スイングバイ時の観測について。JAXA宇宙科学研究本部吉川真さんの解説。
http://ast6093.nav.isas.jaxa.jp/hayabusa_opt/

小惑星探査機はやぶさ勝手に応援ページ
http://www.as-exploration.com/muses_sp/muses.html