コラム
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2004年 5月分 vol.3
「はやぶさ」がとらえた接近中の台風。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


「迫る台風」。5月19日12時半前後、約5分毎に撮影された16枚の画像をつなぎあわせたアニメーション。二つの台風と日本上空の前線の雲が見える。地球との距離約6万キロ。  2003年5月の打ち上げから約1年。小惑星探査機「はやぶさ」が再び地球上空に戻ってきた。地球の重力を利用して加速、進行方向をぐぐっと変える「スイングバイ」を行うためだ。2004年5月19日午後3時22分(日本時間)、東太平洋上高度約3700kmまで接近。スイングバイは成功し、小惑星「イトカワ」に向けて新たな軌道に入った。そして「はやぶさ」の搭載カメラは接近中の台風を見事にとらえていた!

 右の迫力ある映像は、スイングバイ当日5月19日12時半から5分おきに撮影された16枚の画像をつなぎ合わせたアニメーション。台風2号、3号がぐるぐる渦を巻いている様子、日本上空に伸びる前線の雲がくっきり。そしてアニメーション最後の画像が下の写真。日本列島上空は雲に覆われていてはっきりとはわからないけれど、写真の下のほうに台風2号(左)と台風3号(右)の雲が半分ほど写っている。「はやぶさ」は宇宙からこんな光景を見ていたんですねー。

上のアニメーションの最後の画像。5月19日午後1時頃撮影。写真の左下には、中国大陸(山東半島など)、その北東側には、朝鮮半島の一部、前線の雲の北側には、北海道、千島列島の一部、サハリン南部などが 写っている。台風2号、3号が写真下側に 半分ほど見える。(JAXA)  「はやぶさ」のオペレーションを行っているのは深宇宙管制室(神奈川県相模原市)。でもスイングバイ自体は「はやぶさ」が自動的に行うから、研究者達はドキドキしながらモニターを見守っている状態。JAXAの的川泰宣教授によると「一番興奮していたのは固体惑星の研究グループだね。自分達の作ったカメラが撮影したデータが探査機から送られてきて、合成して初めてきれいな地球の画像を見た彼らは一生忘れられないだろうなぁ」。

 今回の地球の撮影は小惑星「イトカワ」撮影のリハーサルでもある。「でもイトカワには海はないから地球みたいなカラフルな画像はとれないだろうね」と的川教授。「はやぶさ」が目指す小惑星「イトカワ」は縦276m、横312m、長さ548m。なだらかな起伏がある「サツマイモ」のような小さな星。だが、惑星や小惑星が誕生する頃の状態を留めた「太古の情報の宝庫」だ。イトカワ到着は2005年夏。そしてイトカワで表面のかけらをとり、2007年6月に地球に帰ってくる。

 ちなみに今回のスイングバイは、イオンエンジンを搭載した探査機が行うものとしては「世界初」の快挙。(「はやぶさ」のイオンエンジンについては4月VOL.3 のコラム参照)距離の誤差は1~数km、速度の誤差は毎秒1cmしか許されないというクリティカルな条件を見事クリアした。「はやぶさ」には世界初の技術が満載。そして88万人の名前も。旅の終わりまで目が離せませんよ。

JAXA宇宙科学研究本部(このページの画像と解説を見ることができます)
http://www.isas.ac.jp/j/