コラム
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2004年 7月分 vol.2
土星の「耳」は「渋滞する粒々」だった。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


ガリレオが17世紀に書いた土星のスケッチ  天体望遠鏡で見たときにもっとも感激する天体は、「土星」だ。麦わら帽子をかぶっているような愛らしさ。少し傾いていたりすると、なおさらキュート。1610年に土星を望遠鏡で見たガリレオは、輪が「奇妙な耳のようなもの」に見えたとか。その耳がまさか輪だとは想像できず、小さな星が2つ土星の両側にあるのだと考えた。(右の図)

 その後、1655年にはオランダのホイヘンスが、倍率100倍の望遠鏡で土星に輪があることを発見。さらにパリ天文台の初代台長・カッシーニが1675年に土星の輪が一つの固まりでなく、2本の輪の間にすき間があることを観測。「カッシーニの間隙」と名づけられた。

探査機カッシーニが7月1日に送ってきた土星のAリングの画像。この1本1本に無数の粒子が大渋滞しているらしい。(NASA/JPL/Space Science Institute)  ガリレオが土星に望遠鏡を向けてから約400年。土星観測の偉大なる先駆者の名を冠した探査機カッシーニが土星に到着、輪をくぐり抜け2004年7月1日には61枚もの写真を送ってきた。7月1日深夜、NASAのカッシーニウエブサイトのトップに縞模様が突然どーんと現れて、一瞬「通信トラブル?」と思ったけれど、よく見ると土星の輪のクローズアップ写真だった。何枚かの写真を見比べると、ストライプの幅がちがったり、ギザギザの波線があったりすき間があったり。リングワールドはバラエティに富んでいる。

 カッシーニ画像チームリーダーのキャロライン・ポルコ博士は14年間働いてきて、この瞬間を待ちわびていた1人。カッシーニの画像はまったく「ぎょっとさせる」もので、「輪を作る一つ一つの粒子は見えないけれど、粒の集まりが『高速道路の渋滞』のように集まったり、離れたり、また渋滞したりしているのがわかる」と説明した。粒子の渋滞が土星の輪を作っているとしたら・・・さぞかしすさまじい大渋滞。ぶつかったり追い出しちゃったり、いろんなことが起こってるんでしょうねぇ。

Fリングの外側を走る衛星パンドラと 
内側を走るプロメテウスは 「羊飼い衛星」と呼ばれている。2004年6月21日にカッシーニが 撮影。(NASA/JPL/ Space Science Institute)  ウェブで見つけた私のお気に入りは、「羊飼い衛星」の写真。土星のリングの中でFリングは、二つの「羊飼い衛星」プロメテウスとパンドラによって広がらないように繋ぎとめられていると考えられている。衛星たちがやけに忙しくお仕事してるって感じじゃないですか? カッシーニの観測では、このFリングがとても「汚れている」ことが早速わかってきた。汚れた黒い物質は衛星フェーベで見つかったものと似ていて、これから詳しく調査する。リングと衛星がどうやってできたか、その関係を解く鍵になるだろう。

 カッシーニはこれから4年間の観測を行う。最大の見所は来年始め、厚い大気をもつ衛星タイタンに観測機ホイヘンスをおろす。お楽しみはこれからですね。


土星探査機カッシーニのページ(英文
http://www.nasa.gov/mission_pages/
cassini/main/index.html


カッシーニ/ホイヘンス特集
(月探査情報ステーション)
http://moon.jaxa.jp/ja/topics/cassini/