コラム
前のコラム 土星の「耳」は「渋滞…
次のコラム アポロから35年。今…
2004年 7月分 vol.3
「世界一の星空を作る人」大平貴之さん(2)
天の川から帰って来るシアワセ。
O OO
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


メガスターIIコスモスと天の川。大平さん曰く「コスモスという言葉には生命感がある」投影機の色は地球をイメージ。見る位置によって青〜緑に変化する。(日本科学未来館提供)  7月11日から東京・お台場の日本科学未来館で公開が始まったプラネタリウム「メガスターIIコスモス」。個人でプラネタリウムを作ってきた大平さんにとって、国の施設である未来館に納めることは、かなりのプレッシャーだったようだ。(インタビューは6月末)

― 未来館でメガスターをという話はいつ頃からあったんですか?

O
会社勤めになってからメガスターがどんどん招待公演に使われるようになって、大成功を収めたりはしていたんですけど、多少お金がかかっても自主公演をやりたくなったんです。多分、学生の頃の郷愁だったんでしょうね。場所を探していたら、知り合いの方が未来館でやってみないかと。それで2002年の夏に「2021年火星への旅」という番組を上映したら、お客さんがどっときて大騒ぎになったので、もう一回予約制でやろうと。それが同じ年のクリスマスでした。
 その時に毛利館長が「未来館で一緒に育てて行きましょう」と言って下さった。でも、国の施設に個人が作ったプラネタリウムを納めるなんて前例がないし、実績もない。それでやいのやいのって。実際に決まったのは2003年夏の終わりぐらいです。

  ― 毛利館長からプレッシャーをかけられた、と大平さんのウェブに書かれてましたね。

O
それは半分冗談で書いたんですけど(笑)、やっぱり未来館に納めるということ自体、すごいプレッシャーなんですよね。常設だから、当然だけどちゃんと動かないといけないし。国の第一級の科学館の主力機を作るわけだから、これは責任重大だぞと。これでプレッシャーを感じないのはよほど肝が据わっているか、パッパラパーか、どっちかですよ(笑)。

― でも、大平さんってプレッシャーを感じないように見えるんですよね。

O
自分で思ってるほど感じてるかどうか、わからないですけど(笑)。そう言えば最近、毛利館長に言われたんですよ。「大平さんが万が一、交通事故に遭ったらどうなっちゃうんだろうな」って。誰かが「そういうことにならないように、駅で前のほうには立たないように」って。

― あははは。答えになってない。

O
ちゃんと僕がいなくても、運用とかメンテナンスはできるようにしていきますと答えましたけど。個人の夢と情熱だけでは公共施設は成り立たないだろうと。

― ところで、最初の投影番組「新しい眺め」はどんな内容ですか?

O
最初に言葉を聞いたときに、もう少しわかりやすい名前にしたほうがいいんじゃない、と言ったんだけど、「眺め」っていう言葉はすごくいい。俯瞰するようなイメージ。120億光年を見渡して、晴れ渡った宇宙空間を実感するような。最新天文学を使って壮大なスケールを体感し、眺めわたす番組です。

 このインタビュー後、7月9日にプレス向け試写会で「新しい眺め」を見た。500万個の星空と国立天文台の観測データに基づく宇宙のCGに加え、印象的だったのは映像中2度訪れる「闇」。そして世界各地から集められた本物の「音」。たとえば天の川を突き抜けて、無数の銀河が作る不思議な構造を眺めたあとに突然訪れる闇。これから何処に連れて行かれるのかと不安に襲われた後に、地上から見た天の川が再び現れ、懐かしい波の音に包まれる。こんなに広大な宇宙の片隅に居場所があり、そこに帰ってきたことを実感したときの、体中から沸きあがる意外なほどの喜び。見上げる天の川は旅に出る前と変わらないはずなのに、より煌いて見えるのは涙が滲んでいるせいかも。たった30分で『遠くまで旅をした』浮遊感と、生命の象徴である『音のある世界に帰って来た』安堵感を味わった。その体験は確かにその後の私の生活に、新しい眺めをもたらしてくれたと思う。

 試写会の後、大平さんは語った。「今、『新しい眺め』というタイトルが一番合っていると実感しています。宇宙を表現するメガスターの新しい可能性を切り開くことができました。」毛利館長は「私達はもっと刺激を、感動をという流れに対して『どうやってより本物に近づけるか』を追求し、それが『新しい眺め』につながると考えている。大平さんの星空は宇宙で体験する星空にもっとも近い」。番組最後に毛利さんのナレーションが流れるが、そのバックの音は毛利さんが飛行した時のシャトルの中の音。これも本物というわけだ。

さて、大平さんは今後さらにどんな「新しい眺め」を得ようとしているのか。それはプラネタリウムばかりじゃないのです・・・。


・・・・・・・・・・・・・・次回に続く。

O OO
2002年12月VOL.8 コラム
「7畳の自室から生まれた 世界一リアルなプラネタリウム」

メガスターIIコスモス 日本科学未来館で7月11日(日)16時から公開中。
http://www.miraikan.jst.go.jp/megastar2cosmos/index.html

大平貴之さんのページ
http://www.megastar-net.com/