コラム
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2004年 11月分 vol.1
金星と木星 明け方に寄り添う。
林 公代 さん Kimiyo Hayashi profile


「明けの明星」金星と「夜中の明星」木星(右)が11月5日の明け方に大接近。愛と美の女神と、神の中の大神が寄り添うなんて何が起こる?(提供:NASA)  朝晩冷え込む季節になってきたけれど、11月5日はがんばって早起きしてほしい。夜明け前の東の空に、金星と木星が寄り添いきらめく光を放つ。金星の明るさは―4等級、木星は―1.7等級と群を抜く明るさ。二つの惑星がもっとも接近するのは午前11時頃で、その距離は月の見かけの直径とほぼ同じ(0.5度)。次の両惑星の大接近は、2008年2月2日。

 5日をすぎると金星と木星は徐々に遠ざかっていくが、もう1度見せ場がある。11月10日の明け方。弓のように細い三日月が金星と木星の間に入り込む。月齢26.7、新月3日前の繊細な弧を描く月と、両側に輝く惑星たち。刻々と変化していく夜明け前の空の色彩の変化。明け方の天体ショーを是非、じっくり味わいたいですね。

 もちろん、金星と木星は実際の宇宙空間ではかなり離れた場所にいる。地球・太陽間の距離を1天文単位(AU、約1億5千万km)とすると、金星は太陽からの平均距離0.7AUの軌道を約225日かけて一周。木星は太陽から5.2AU離れており(つまり地球―太陽の約5倍)約12年かけて一周している。そんなかけ離れた場所を回る天体たちが、地上からは時に大接近するように見える。星空を見るのが楽しいのは、こんなところ。

 金星は夜明け前か日没後の空に見え、太陽と月以外で最も明るい天体。各地で神話や伝説があるが、ギリシャ神話では愛と美の女神アフロディテ、それを伝えたローマ神話ウエーヌスの英語名からヴィーナスと名づけられた。野尻抱影著の「星の神話・伝説集成」(恒星社)によると、マヤ族は金星暦を用いたが、この暦を作った古代メキシコの王クェツァルコアトルは、敵の侵入を防げなくなると薪を積み上げた上に横たわり火をつけさせ、「自分は姿を消しても再び現れ星になる」と言った。そして王の心臓は燃え残り、天にあがって金星になったという。日本では「明けの明星」「宵の明星」のほかにも、例えば明け方の金星を「飯炊き星」、「飛び上がり星」等、あちこちに様々な呼び名がある。夜明け前、ご飯を炊きながら金星を見上げていたのかなぁ。

 一方、木星はギリシャ神話で神々の王、大神ゼウス。ローマ神話のユビテルからジュピターに。インドのヒンドュー教徒は木星を最高神インドラとあがめ、祈りを捧げれば願いがかなえられると信じた。中国では歳星とよばれ惑星の中で最もめでたい星とされた。日本では多くの地方で「夜中の明星」と呼ばれてきた。木星の落ち着いた輝きは、確かに王者の風格だ。

 昔の人たちが星を自由にかたどって星座を作り、生活の中で星に名前をつけてきたように、星を見あげて自由に物語を紡ぐ楽しさを、私達なりに味わいたいですね。


参考文献:日本星名辞典 野尻抱影著 東京堂出版 他