コラム
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2004年 11月分 vol.4
ヒトとヤギが暮らす「ミニ地球」。
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


青森産の稲「むつほまれ」を育てているところ。植物は水耕栽培で、自然光と人工光を利用。  青森県六ヶ所村の「ミニ地球」で、ヒトとヤギの閉鎖実験が始まる。環境科学技術研究所の閉鎖型生態系実験施設には、イネや大豆など約30種の植物を育てる「植物実験施設」、2人のヒトと2匹のシバヤギがくらす「動物飼育・居住実験施設」、空気や水を浄化し排泄物を処理する「物質循環処理施設」等の建物が並び、エネルギーと情報を外から取り入れる以外はリサイクル。2005年度からの本格実験開始前に、11月29日から予備実験を行う。

 「ミニ地球」実験は、地球生態系のシステムの中で物質がどう循環しているかをシミュレートしている。この実験に準備段階から関り、閉鎖実験中は植物の栽培、食料の調理、動物飼育、機器整備など、農夫・整備員・消費者としてフル回転する研究者たちは「エコノート」と呼ばれ、現在4人が選ばれている。11月14日(日)に東京・お台場の日本科学未来館で行われたシンポジウム「日本のバイオスフィア」で4人のエコノートが登場した。

食事中の小松原修さん(左)と篠原正典さん。前日に約2時間半かけて翌日1日分を弔しておく。食事時間は長くて30分ぐらい。家具は木目調のものが中心。 エコノートってアストロノート(宇宙飛行士)と似たネーミングだ。実際彼らは宇宙飛行士に準じた基準で選ばれた。確かに閉鎖された環境で物質循環をコントロールして暮らす点等は共通している。でもエコノートのユニークな点の一つは、閉鎖系内で自ら生産した食料だけで生活するところ。現在育てているのは植物だけ、つまりベジタリアンライフ。

 主食はイネ。タンパク質は大豆、脂質は落花生、甘味はサトウダイコンからとる(ちなみに塩分は尿から回収)。その他カブ、にんじん、トマト、キュウリ、オオバなど20種類以上の野菜を育て、収穫し、調理するのはすべてエコノートのお仕事。植物栽培区には240m2の栽培面積があり、常に一定量が収穫できるように段階栽培で育てている。

食事の一例。右下がラタトゥイユ(南仏の夏野菜の煮込み料理)。右上のお皿に白く見えるのは豆腐マヨネーズ。すべて手作り! 開発中のメニューで人気があるのは「ラタトュイユ」と「ダイコンもち」。みそやしょうゆを作る研究も行っている。極力スピーディーに料理できるように電子レンジ、フードプロセッサー、電磁調理器などの調理用具をとりそろえ、前日に翌日の食事の下ごしらえをしておく。でもエコノートは男性ばかり。料理に抵抗は?

 エコノートの一人、小松原修さんは日本たばこ産業で働いていたが元々「料理好き」な方。サトウダイコンから糖分を作る方法も開発した。イルカの動物行動学を研究していた篠原正典さんも「盛り付けにもこだわりたいし、時にはミニ地球でピクニックもしたい」。彼らの食スタイルこそ21世紀の男性達(女性にとっても)のお手本となりそう。

?シバヤギとエコノートの篠原正典さん。ヤギのミルクは?残念ながら妊娠しないとミルクは出ない。シバヤギたちはヒトが食べられない植物の根などを消費し、糞尿は塩や植物の溶液に再利用。大事な役割を担っている。 それにしても2人と2匹がくらすために大きな施設が必要になることに驚く。エコノートの居住区は約50m2、1LDKぐらいだが物質循環処理施設は1215m2、体育館ほどの大きさだ。火を使えないため特殊な処理が必要という事情もあるが、「ふだん人間は肉や様々な作物を食べており、それらの飼育や栽培にはもっと広大なスペースを使う。水や空気の浄化、廃棄物の分解も地球の大きな空間と長い時間でやってくれている。それらを凝縮すると、現在の科学技術ではこれだけの施設が必要になることを理解してほしい」とエコノートの野副晋さん。研究に関るほど、空気や水などふだんの生活で当たり前に思っていたことに有り難味を感じると言う。

 篠原さんは「平凡な私達がミニ地球に入って数ヶ月間くらす。それを私達と同じ視点で見て欲しい」と語る。実験は2005年度に1週間の滞在から始まり、徐々に滞在期間を延ばしていき、2009年度には4ヶ月の閉鎖実験を行う予定。ミニ地球の中で彼らがどう暮らし何を感じるのか、どんどん発信してほしい。エコノートとみんなが地球や食生活についてフランクに語り合えれば、面白くなりそう。


※放射性物質を含む。

写真提供:財団法人環境科学技術研究所
環境科学技術研究所
http://www.ies.or.jp/