コラム
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2004年 12月分 vol.1
ホテル王、宇宙でギャンブル?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


ISSの居住モジュールとして開発されていた「トランスハブ」。打ち上げの時は小さく収納して、宇宙で膨張させる。ノーチラスはこの技術を使っている。いくつも連結させた発展型は宇宙ホテルにも。(NASA)  米国のホテル王、ロバート・ビゲロー氏の宇宙ホテル計画・・・と聞くと「また夢物語?」と流す人が多いのかもしれない。宇宙ホテルと聞いてまずイメージするのは、映画「2001年宇宙の旅」で「美しき青きドナウ」のメロディーに乗ってゆったりと回転しながら人工重力を発生する、ドーナツ型の巨大なホテル。あれは確かに遠い夢。一方、ビゲロー氏のプランは現実的だ。

 ビゲロー氏が計画する有人宇宙モジュール「ノーチラス」はNASAが1990年代後半に国際宇宙ステーション(ISS)の居住モジュールとして開発していた「トランスハブ」がベースになっている。NASAとビゲロー氏の会社「ビゲロー・エアロスペース」はライセンス契約を結び、NASAから技術的な協力を受けて共同で開発。だが資金は全て民間。「ノーチラス」実現に向けて、2005年11月に試験モジュール「ジェネシス」を打ち上げる予定。その打ち上げのための許可が2004年11月、約8ヶ月間の詳細な審査を受け米国連邦航空局FAAからおりた。民間宇宙ホテル実現への大きなハードルを一つクリアしたわけだ。

 ビゲロー氏はラスベガスを拠点としネバダ州やテキサス州に広がるホテルチェーン「バジェット・スウィート・オブ・アメリカ」のオーナー。1999年、商業宇宙飛行への参画をめざし北ラスベガスに「ビゲロー・エアロスペース」を設立。「ノーチラス」は330m3でISSモジュールの約2.75倍。ユニークなのは打ち上げる時は小さく収納し宇宙で膨張させること。NASAで検討されていた時には、ISSの居住モジュールであり月や火星への宇宙船にも使えるのが「売り」だった。その目的は消えていない。NASAは「ノーチラス」で開発した技術を、将来の月・火星有人計画で使う可能性も視野に入れている。

NASAジョンソン宇宙センターでの試験の様子。(NASA) 「ノーチラス」は3段階で進められる。まずノーチラスの三分の一の大きさの「ジェネシス」が2005年11月と2006年4月に打ち上げられる予定。ロケットはファルコン(スペースX社が開発中)又はロシア・ウクライナのドニエプルロケット。宇宙で実際に膨張させてみる。第2段階は「ガーディアン」。ノーチラスの45%の大きさで、生命維持装置を搭載し2007年に打ち上げる。そして第3段階の「ノーチラス」。2008年〜2010年の打ち上げが目標。人が乗り込むのは早くて2010年ごろ。ホテル王が打ち上げるのだから、旅行客目当てかと思えばそうでもないらしい。バイオテクノロジーや薬品など大学や企業の実験、エンタテイメント、市民などあらゆる人が安く、迅速に宇宙を利用できる施設が当面の目的だ。

 しかし、ビゲロー氏には悩みが一つ。有人宇宙モジュールの研究は進んでも「足」がなければ人は来ない。そのために5000万ドルの賞金を賭けた宇宙船レース「America's Space Prize」まで立ち上げてしまった。締め切りは2010年。5人乗り以上で宇宙を周回し、ノーチラスにドッキングできることなど、数々のハードな条件が設定されている。

 ビゲロー氏のプランは「ギャンブル」と呼ばれたこともある。ラスベガスでギャンブルを知り尽くしたであろう男が人生を賭けた大博打に出た。舞台は宇宙。カッコイイじゃないですか。