コラム
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2006年 6月分 vol.3
惑星を生む「バナナスプリット」
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


HD14257の円盤。中心の星をマスクで隠しているため黒丸で表示している。中心星を囲むように2本のバナナ状の弧が見える。黒丸の右下にすきまがあり惑星が誕生している可能性がある。右上方に伸びている腕は円盤の外側を別の星が通過したためできたと考えられている。  宇宙の果てや、宇宙誕生直後にできた天体が見られる時代。意外にも、「ご近所」の惑星や惑星の誕生現場を見るのは難しい。眩い恒星の光に隠れてしまうからだ。だが技術は日々進歩している。名古屋大学・東京大学・国立天文台などのチームは、惑星を生み出す円盤の撮影に成功。驚いたことに、発見した円盤は「バナナスプリット」の形をしていた。

 「バナナスプリット」は、丸ごと(又は縦割り)のバナナにチョコソース+アイスが盛り付けられたりしている、欧米で人気のスィーツ。だがなぜ、惑星を生む円盤が「バナナ型」をしているかを説明する前に、少し研究の背景を。
近年、太陽系以外の惑星(系外惑星と呼ぶ)の観測が各国で盛んに行われ、これまでに190個を超える惑星が発見されている。観測技術の限界から、地球のように質量の小さな惑星を発見するのはきわめて難しく、木星級の大質量の惑星が多いのだが、これまで発見された系外惑星は太陽系とは異なった「多様な」惑星系が多い。大惑星が中心の恒星のすぐ近くを周期4日ぐらいで回っていたり、彗星のような超楕円軌道を描いていたり。なぜだろう。太陽系はもしかして特殊? と思うのはまだ早い。まず「惑星はどうやって作られるか」、つまり惑星を生みだす現場である「円盤」について調べる必要がある・・・。

 太陽のような恒星が生まれるときには、ガスと微小な塵からなる「円盤」が作られると考えられている。この円盤こそが惑星誕生の場だ。円盤が恒星の周りをぐるぐる回るうちに、塵が衝突をくり返しながら成長し微惑星になり、さらに微惑星が合体・衝突するなどして惑星になる。

 こんな背景から、生まれたばかりの若い星をターゲットに「円盤」を調べる研究が、近年盛んに行われている。だが若い星のまわりの円盤の細かい構造まで観測できたのは、世界で10件もない。

すばる望遠鏡がこれまで観測した、恒星の周りの円盤。左がドーナツ型でおうし座GC星。右がうずまき型でぎょしゃ座AB星。  そんな中、ヒットを飛ばしているのが日本の誇る「すばる望遠鏡」。近赤外線カメラCIAOは明るい恒星を隠し、大気のゆらぎを補正(1秒間に1000回!)、これまでにも「ドーナツ型」の円盤や、「うずまき」型の円盤を観測。そして今回、地球からの距離650光年にあり太陽の約2倍の質量をもつ年齢100万年の星「HD142527」を撮影。恒星の回りの円盤が、まるでバナナが2本向かい合った「バナナスプリット」のような、これまでに発見されたことの無い形をしていることを発見した上に、円盤の間に「すきま」があることも明らかにした。ここには惑星が存在する可能性があるという。(上の画像)

 なぜバナナスプリットの形をしているのか。単純に恒星1個と円盤だけなら、シンプルな円盤になるだろう。おそらく中心星の周りを、彗星のような楕円軌道で回る星(木星の10倍ぐらいの惑星か、褐色矮星)が存在しているのだろうと研究者たちは考えている。

 また今回、すばるの中間赤外線カメラCOMICSで同じ円盤を観測したところ、CIAOでは隠されていた円盤の中心部分の様子もわかった。円盤は内側と外側にあり、その間にはっきりと「すきま」がある。そのすきまは、塵が成長し「惑星」が誕生しつつあることを示唆している。この惑星はバナナスプリットを作った天体と同じかもしれないし、別の惑星かもしれない。

 国立天文台では、CIAOをグレードアップしたHiCIAOの開発を進めている。開発の中心メンバーである、国立天文台の田村元秀助教授によれば「HiCIAOは1年後に使えるようにしたい。そうなればコントラストが一桁以上良くなり、より恒星の近くにある木星型の系外惑星を直接観測できるので、今回の円盤のすきまにあると思われる惑星も狙えます。もちろん円盤についても沢山のより詳しい観測ができるでしょう」とのこと。

 ではいつごろ地球型の惑星は発見されるのだろうか。田村助教授によれば、現在でも地球質量の5.5倍までの惑星は間接的には発見されているという(名古屋大学チームらの発見)。世界ではフランスが今年10月、系外地球型惑星の間接観測を目指し「COROT(コロー)」衛星を、NASAが2009年に「KEPLER(ケプラー)」を打ち上げる予定。そうなれば「数十~数百個の地球型惑星が見つかってくるでしょう」(田村助教授)。宇宙の仲間が見つかる日は、そう遠くないかもしれない。


国立天文台 すばる望遠鏡
http://subarutelescope.org/j_index.html

(写真提供:国立天文台)