コラム
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2006年 10月分 vol.2
宇宙ステーション建設は正念場を迎えます。
- 土井宇宙飛行士インタビュー
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 10月19日、日本に一時帰国していた宇宙飛行士の土井隆雄さんに、DSPACE冥王星特集のために30分ほど話を聞かせて頂いた。土井さんにはこれまで10年以上、時々インタビューさせて頂いているが、これほど変わらない方は珍しい。体格、お顔+髪型、話し方・・・静かに言葉を紡ぐ「土井ワールド」にいつもながら引き込まれる。それでいて周りと違うご自分の意見をしっかり(かつ、にこやかに)主張されるところが、また面白い(たとえば、今回の冥王星の件について「僕は怒っているんですよ」と冒頭に言われたり)。

1997年の宇宙飛行で、土井飛行士は日本人で初めて船外活動を行った。それから10年ぶりのフライトになる。(提供:JAXA)  土井さんによると、宇宙飛行士の間では冥王星は全然話題にならなかったとか。「宇宙飛行士はあまり関心がない。冥王星にはいきませんから。彼らはどちらかと言えば現実的」だそうだ。そんな中で「文化の中の冥王星」を考えるところが、土井さんらしいなぁ・・・。

 さて、2007年末にスペースシャトルで打ち上げを目ざす国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」。搭乗が決定している土井さんに、ミッションの話を伺いました。

― 今年は、スペースシャトルの飛行が2回成功しましたね。

土井: 非常にスムーズに宇宙飛行が行われて、断熱材落下によるスペースシャトルの損傷も全くなかったので、とてもよかったと思います。これから順調にシャトルは飛び始めるだろうと期待しています。

 次のシャトル飛行がうまくいけば、定常運用に入ると考えていいと思います。これまで断熱材の取り付け方など、外部燃料タンクを改造してきました。今年の2回の飛行で合格点を与えられたので、今度の12月のシャトル飛行は夜の打ち上げになるかもしれません。

― 夜の打ち上げですか?

土井: これまでは打ち上げのときに光学カメラで撮影するため、昼間に打ち上げを行ってきました。夜の打ち上げが可能になれば、打ち上げられる時間帯や期間が長くなるので、スペースシャトルを頻繁に打ち上げられるようになるんですね。

― なるほど。来年は5回のシャトル飛行が計画されていますからね。ところで土井さんの宇宙での仕事の内容は、決まってきましたか?

土井: 私が乗るミッションのクルー(宇宙飛行士)たちが、おそらく今年中に発表されます。そうなれば自分の役割もはっきりして、役割に沿った具体的な訓練が始まります。

宇宙飛行中に「日の丸弁当」を食す土井さん。白いご飯に梅干、そしてお味噌汁を箸で。次はどんな日本食を?(提供:JAXA) ― いよいよですね。気持ちの変化はありますか?

土井: 特にないです(笑)。淡々と今まで通り。ただ、これから宇宙ステーションの組み立てがどんどん難しくなるんですね。トラス(柱)を取り付けるにも、ISSの中央から離れた場所になっていきますからね。飛行士の活動領域も広がって、ISSの形も複雑になり、システムもその分、複雑になるわけです。ステーション建設の正念場を迎えるという感じです。

― 特にどのミッションが難しそうですか?

土井: 来年の8月に、ISSの組み立て番号で10Aと呼ばれるミッションが予定されていて、「ノード2」という連結部をとりつけます。このノード2に日本実験棟「きぼう」やヨーロッパ実験棟「コロンバス」を取り付けることになるので、まず「ノード2」がきっちり組み立てられる必要がある。それから今は中央についているP6という太陽電池パネルをISSの一番端に移動させます。非常に難しいミッションですね。

― 土井さんの飛行の前の前のミッションですね?

土井: そうです。これがうまくいくかで、「きぼう」が予定通り飛ぶかどうかが決まる

― ところでISSでは、どんな天体をどんなふうに見ようと思っていますか?

土井: 一つは太陽を見ようと思っています。前回の飛行では太陽がまぶしかったので見ないようにしていました。今回は積極的に見てみたい。シャトルは大気圏の外に出るので、太陽をきちんと隠せば、大きなプロミネンスが見える可能性があるんです。プロミネンスは皆既日食のときでないと、肉眼で見えないですよね。

― どうやって見るんですか?

土井: 宇宙でまぁるい紙の円盤で(太陽の中心部を)ぽっと隠せば見えるんじゃないかと。

― 原始的な方法ですね!

土井: そうそう。肉眼で見る。写真もとらない。あとは、前回のフライトで南十字星とかオリオン座とか色々な星座を見たんですが、今度は宇宙から星野(せいや)写真を撮ってみたいなと思っていますね。

― 宇宙での衣食住では何か計画はありますか?

土井: 宇宙での日本食を充実させようという話が進んでいますね。野口飛行士はラーメンを宇宙で食べましたが、何か新しい日本食を持っていけると思います。それから衣服では、日本で作った日本人の体にあった最新式のシャツや、宇宙で快適に眠るための寝袋という話もあります。実際に宇宙に持っていけるかはまだわからないのですが、ISSの長期滞在に向けて宇宙でのくらしを快適にしようという努力は、日本で続けられています。

 土井さんのことだから、衣食住についても「こだわりの宇宙ライフ」を見せてくれそう。本格化するISSの宇宙活動とともに、宇宙飛行の見所はたくさんありそうです。