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2007年 11月分 vol.2
月でロボットとキャンプ? 2020年頃の月面の風景は?
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 月探査機が送ってきた地球のハイビジョン映像。綺麗ですね。手前にある月が荒涼としているだけに「地球って綺麗~。でも月って何もないのね。」という反応が多々。しかし、2020年に有人月着陸が実現すれば、月の風景も変わって行くに違いない。ではいったいどんなふうに? NASAの開発写真からその風景を少し探ってみましょう。

 まず気になるのは、ムーンベース(月面基地)。今年2月にNASAで、月面用のユニークな膨張式の家がお披露目された。NASAのリリース文には「月でキャンプ」と書かれている。ロケットで運ぶときは折りたたんでおき、月面で膨脹させる布製のこの家は、確かにテントのイメージに近いかも。直径3.65mの円筒形でエアロックがあり、4人が7日間住むことができる。小さな窓もあるようだ。膨脹式のムーンベースは現在、様々なモデルが検討されている。来年の1月には、南極を月と見立て、実際にムーンベースを膨脹させて設営する実験などを行うそうだ。

(左)NASAで今年の2月に発表された初期の月面基地。4人が7日間過ごせる。画面左側がエアロックで右側が居住施設。(中)ドアをあけて入ると(右)内部はこんな感じ。
 そして月面での宇宙飛行士の活動に欠かせないのが、宇宙服とローバー(月面車)だ。無重力の宇宙ステーションと違って、月面では歩かなければならない。さらにスコップで土を掘るなど、土方的な? 作業も多くなる。そのため宇宙ステーション用宇宙服は胸元に道具をたくさんつけているが、月面用宇宙服は胸元をすっきりとさせて足元を見やすくしているのが特徴の一つだ。
(左)2005年にアリゾナ州で行われた月面テスト 「RATS」の風景。月面車SCOUTで移動する。(右)こちらは200年のRATS。月面ではロボットも大活躍。
 2007年9月にはアリゾナ州の砂漠で、RATSというテストが行われた。これは砂漠を月と見立てて、飛行士達の作業をデモンストレーションするもので今回が10回目。これまで3種の宇宙服のデザイン、8種類のロボットの実験を行っている。放射線が降り注ぎ温度差の激しい月面での作業は、人間だけでは限界がある。ロボットは大切なパートナーなのだ。今年のテストでは月面での基本的な活動となる、地質調査や太陽発電システムの配備などをいかに効率よく行うかに焦点があてられた。活躍したのは、SCOUTと呼ばれるローバー。月面を移動して行う調査にローバーは必須だ。SCOUTはナビを搭載し、遠隔操縦や自動走行も可能というスグレもの。2020年ごろの月面では、現場監督の宇宙飛行士の指揮の元、ロボットやローバーが手足となって作業する。そんな光景が日常となりそう。

 地球の六分の一と小さいながら重力があるから、作業は宇宙ステーションよりしやすいはずだ。ねじを回して自分の体が反作用で回ることもないし、道具類をベルクロにとめなくても空中に漂ったりしない。生活で言えば、コーヒーをカップで味わえる(宇宙ステーションでは飲み物はすべてチューブ入り)し、炭酸飲料だって泡がちゃんと抜けてくれる。水が貴重だからずいぶん先になるだろうが、シャワーやお風呂も不可能ではない。仕事の後に月面のレゴリス(砂)を洗い落として、地球を見ながら呑むビール? はさぞかし美味しいはず。

NASAが1989年に発表した月面基地。極地域にあり、地球が地平線近くに見える。植物工場があり、最上階にはトレーニングルームが。  最近、NASAはさらに新型のローバー+宇宙服のアイデアを発表した。二人乗りのローバーは居住もできる。斬新なのは、ローバーの外側に宇宙服が埋め込まれていること。ふだん着の宇宙飛行士がローバーの中から宇宙服を身につけ、そのまま月面に出られる。NASAは宇宙服などについてさらにアイデアを募集しているので、2020年に月に人間が降りたつ頃には、想像を超えたカタチや機能が登場する可能性もあるだろう。月面にはいずれ本格的な基地、そして都市が建設されるかもしれない。こんな月面基地(左)なら、ちょっと訪れてみたいと思いませんか? 別の天体に降りたって、丸い地球を見るという体験はやはり、魅力的だから。
(写真提供:NASA/Jeff Caplan)
NASAが10月に発表した、新しい宇宙服合体型居住ローバーのアイデア
http://www.nasa.gov/mission_pages/exploration/mmb/lunar_architecture.html