コラム
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2009年 6月分 vol.2
心身ともに安定した長期宇宙滞在、成功の鍵は?
―立花医師インタビュー(その1)
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


 日本人初の宇宙長期滞在を元気に走り続ける若田光一宇宙飛行士。帰還は約1ヶ月後に延期されたが、これまでの滞在は「想像以上にしっかりやってくれている」と、JAXA宇宙飛行士健康管理グループ長の立花正一氏は語る。2週間に一度、宇宙と結んだ医学面接を若田飛行士と行ってきた立花氏に、成功の鍵と今後について伺った。

NASAの新型のトレーニング機器AREDを使って運動中の若田飛行士。AREDは30種類の筋トレができる最新機器。これまでの機械の3倍の負荷がかけられるため「本当に運動している実感がある」ようだ。(提供:NASA) ―3月半ばのスペースシャトル打ち上げ直後は、かなり忙しかったようですね。

立花:そう、やる気満々で気分も高揚していて「ハイテンション」状態。頑張って土日も休まずに仕事をしていましたね。いい反応ではあるけれど、長期滞在を「マラソン」にたとえるなら、「スタートダッシュ」のペースを続けすぎるのはよくない。そろそろ休むように伝え、本人も自覚していましたので、その後、日曜日は休むようになりましたね。

―どんな状態になりましたか?

立花:散髪したり、「きぼう」の中を掃除したり、生活をしている感じがし始めましたね。宇宙日本食も楽しんでいました。安心して見られるようになりましたね。

―若田さんとはどれくらいの頻度で話していたんですか?

立花:メンタルヘルスケアのための面談は2週間に一回15分、お互いにモニター画面を通して顔を見ながら話しました。睡眠がとれているか、食欲はどうか、便通はどうかなど体調をざっくばらんに話してくれましたね。彼の特徴は「生活のリズムを崩さないこと」。私たちも旅行に行くとなかなか眠れなかったり、便通が悪くなったりしますよね。彼にはそういうところがない。体質的に自律神経が非常に安定していて、よく眠れていたようです。

―うらやましいですね。長期滞在前に想像されていたのと違うことはありましたか?

立花:はい。旧ソ連時代の宇宙ステーション・ミールの滞在についての本や資料を読んで色々想像していたんですが、当時と今の一番大きな違いは情報機器が発達していること。若田さんはご家族とIPフォンやメールのやりとりを頻繁に好きなときにできた。これは非常に大きな違いです。だから、地上で海外出張に行っているときとあまり違いがない。さすがに、息子さんの日本語の勉強を見る余裕はなかったようですけどね(笑)。

―からだの変化についてはどうですか?

立花:これは誰でもおこることですが、宇宙に行くと筋力が衰える上に、食べ物が胃袋の中で浮かんでしまうので、割と早く満腹感が来るようです。そのため若田さんも最初のころ4kgぐらい体重が減ったようです。でもロシア人のパダルカ船長が長期滞在の経験者で「満腹感があっても食べたほうがいい」など指導してくれたり、運動の効果もあって、その後回復していますね。若田さんは運動好きで、ISSに3種類ある運動器具で毎日2時間半の運動をきっちりこなし、ストレス解消にもなっているようです。

―それにしても若田さんはたくさんのイベントをこなし忙しく見えました。

立花:私たち医学チームもスケジュールをモニターしており、無理のない程度の活動をするようにアドバイスしてきましたが、若田さんはその範囲の中でできる限りのことをやってました。彼はサービス精神が旺盛なので、頼まれるとやってあげたくなる。アマチュア無線を小学校とやったときも、一回目がうまくいかなかったとき、すぐに自分から地上に電話して「もう1回やりましょう」と提案してましたね。

―4月末にISSが6人体制になりましたね。その後の様子はどうですか?

立花:3人から6人になると人間関係が難しくなるのではないかと実は少し心配していたんです。ところが若田さんに聞くと「ISSは広くて3人のときは寂しかった。6人になると楽しくて、雑用も減って楽になったし和気藹々とやっている」と言ってますね。

―若田さんらしいですね(笑)楽しい様子が目に浮かびます。

立花:そうですね。今までは食事はロシアモジュールでとっていましたが、NASAモジュールにもテーブルをおいて、昼と夜の食事は全員でどちらかのテーブルで一緒に食べているようですよ。

―元気に帰還してこられるのが楽しみですね。

立花:帰還のときはNASAに行きますが会うのが楽しみですね。筋力もそれほど落ちてないんじゃないかと期待しているんです。

―じゃあ、着陸後すぐに歩くことも可能?

立花:はは、可能かもしれませんけど、歩かせませんよ(笑)

(取材:6月15日)