コラム
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2009年 8月分 vol.2
種子島から宇宙へ「宅配便」 HTV最終リハーサル
ライター 林 公代 Kimiyo Hayashi


宇宙ステーション補給機HTVのイメージ。約7日間かけてISSに接近していく。スペースシャトル引退後は特に大型の機器を運べる能力でHTVがダントツ。期待の輸送船。(提供:JAXA)  9月11日午前2時4分、種子島宇宙センターから国際宇宙ステーション(ISS)に向けて、宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機が打ち上げられる。HTVは年1回、H-IIBロケットで打ち上げられる「宅急便」。宇宙飛行士の食料や衣類、実験装置を届ける。無人の宇宙船だからJAXA筑波宇宙センターから運用管制し、遠隔操作する。初打ち上げに向けて8月28日、つくばで連続75時間の国内最終シミュレーションを実施、管制室の中で取材が許された。

 筑波宇宙センターのHTV運用管制室は、「きぼう」管制室の更に奥にあるセキュリティの高いエリア。(記者にも一人ずつ認証カードが与えられる)1チーム約20人の管制員が8時間交替3シフトで勤務に当たる。フライトディレクターが中央に座り、熱担当、電力計担当、通信担当などがモニター画面でHTVの状態を見守りながら、ヘッドセットを通して連絡をとるため、管制室の中は異様に静か。管制官には女性も4~5名いる。

 HTVはロケットから分離後、徐々にエンジンを噴射し高度を上げていく。飛行7日目にISSが飛行する高度約350kmの軌道に入り、後方につける。8日目にISS真下500mから高度をあげ10mの至近距離まで接近。宇宙飛行士がアームでつかむ。

HTV運用管制室の様子。フライトディレクターの席にマスコットもなく、飲みかけの飲料もほとんどなく、整然と静かで私語もなく、緊張感漂う。  取材時は打ち上げ後5日目の作業。高度約290kmから約315kmにあげる作業で、エンジン噴射を許可するコマンド(指令)を地上から送る場面。噴射のタイミング誤差は1秒以内。モニターで状況を見守っていた各システム担当者たちが「Go」「Go」と噴射のGOサインを出す。山中浩二フライトディレクターが立ち上がってすべてのシステムがGoになったことを確認し「予定通り送信します」と許可コマンドを送る。

 管制官の中で、もっとも忙しそうに働いていたのはTRAJ,軌道担当だ。軌道を変えているのだから当然ともいえるが、刻々変わるモニター画面の数値と手元の書類をチェックしつつ「計画値より低い・・」とつぶやきつつ、連絡をとりあっている。もちろん大騒ぎしているわけでなく冷静なのだが、視線や背中から緊張感が漂っていた。

 「きぼう」の運用管制は、宇宙飛行士と協調しながら様々な作業を進行させるという難しさはあるが、HTVは東京―大阪間約1分という超高速で飛ぶISSに自動で近づくという、別次元の難しさがある。少しの操作ミスであっという間に遠ざかる。ぶつけて壊してしまう最悪の事態は絶対に避けなければならない。

噴射のGoを出す前に立ち上がる山中フライトディレクター。音声で連絡はとりあうものの、管制員の様子を目でも確認。  だがフライトディレクタの一人、麻生大さんは、「懸念材料はない。仕上がり度は100%。これまで約100回のシミュレーション訓練を行ってきて、管制官はそれぞれの仕事をマスターし皆ツーカーの仲になっている。HTVは日本の輸送系の集大成で、今後の有人技術にもつながる技術。成功させたい」と余裕の笑顔を見せてくれた。

 種子島と宇宙ステーションがつながれば、宇宙がかなり身近になる。H-IIBは過去最大の大型ロケットで、第一段にメインエンジン2機を並べて搭載。打ち上げ時の爆音と迫力にも注目だ!

HTV運用管制室ツアー 新しいウィンドウが開きます
http://www.jaxa.jp/countdown/h2bf1/special/tour_htv_j.html