コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.1
赤い星達の競演 :火星とアルデバランとベテルギウスと
 新しくコラムを始めることになりました。ここでは、最新の天文学のトピックスも織り交ぜつつ、季節の星空の話題をお届けします。

参考:2005年12月の星の位置  さて、ちょうど今の季節、見上げる夜空に赤い星が輝いているのがいやでも目にはいるでしょう。2005年10月末に地球に接近した火星です。火星の表面を覆っている砂には鉄分が多くて、褐鉄鉱と呼ばれる、赤さびのような色をしているからです。まだまだ地球に近いので、明るく輝いています。

 火星から東に目を移すと、火星ほどではありませんが、オレンジ色に輝く星があります。よくみるともっと暗い星たちがV字型に並んでいます。このオレンジ色の星が、おうし座の一等星アルデバランです。V字がおうしの顔に、アルデバランが赤い目に相当します。さらにもうひとつ。火星とアルデバランとの間隔を、さらに同じくらい東南の方向に伸ばすと、そこにはこれまた赤い一等星ベテルギウスがあります。これは冬の代表星座であるオリオン座の左上の星です。

 こんなふうに、いま東からオリオン座のベテルギウス、アルデバラン、火星とやじろべえのように三つの赤い星が並んでいるのです。このうち火星だけが惑星なので、星座の間を動いていきますが、ちょうど地球を追いかけてきますから、やじろべえの形はしばらく変わりません。2月から3月になると、火星ももっと東へ移動して、アルデバランに近づきますが、地球から遠ざかるために暗くなっていきます。

参考:1990年のオリオン座、おうし座と火星。火星はおうし座のアルデバランのやや北に輝いている。(提供:国立天文台)※2005年12月現在の火星の位置とは異なります。  さて、この三つの赤い星、どれが一番赤く見えますか? そりゃ、火星だよ、という声が聞こえてきます。見た目はそうなのですが、実は天文学的にはそうではないのです。天体の赤さを定量的に表す数値として、「B―V」という色指数があります。これは青色の光で計測した明るさ(B)と、黄色からオレンジ色の光での明るさ(V)の値(等級)を引き算したものです。この値が小さいと、その天体は青く、大きいと赤いということになります。これで正確に計測すると、火星は1.36ですが、アルデバランは1.54、ベテルギウスは1.85となります。赤さでは、ベテルギウスが一番で、次にアルデバラン、そして火星となります。火星が見た目に赤く見えるのは、火星そのものが明るいための”錯覚”と言えるでしょう。

 ちなみに、赤いやじろべえの南に有名なオリオン座がありますが、これらの星はベテルギウスを除いて、みな青白い星です。オリオン座の右下隅にある一等星リゲルの「B―V」の値は、-0.03と、青白さが数値でもわかりますね。赤いやじろべえ星と、青白く輝く若いオリオン座の星たちの、寒空に輝く色の対比をぜひ堪能してみてください。