コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
星空の散歩道index
vol.19
惑星をぜんぶ見てみよう
 惑星を全部眺めたことのある人は、いったいどのくらいいるだろうか。読者の皆さんはいかがだろう。幸い、筆者は冥王星を含めて、すべての惑星を眺めたことがある。ただ、冥王星はきつかった。何せ14等から15等と非常に暗いからだ。夜空の暗い場所で、なおかつ50cm以上の大きさの望遠鏡がないと見えない。それに現在、冥王星は天の川のそばにあって、同じような明るさの恒星がそばにたくさんある。冥王星は目で見ても大きさがわかるわけではないし、視野の中の恒星の中で、いったいどれが冥王星なのだか、全くわからない。筆者も、おそらく、このうちのどれかが冥王星だろう、という程度の認識しかもてなかった。

水星と金星のランデブー。(提供:国立天文台)  ところで、昨年の国際天文学連合の総会での「惑星の定義」採択によって、冥王星が準惑星に位置づけられた。惑星に準じる天体という新しい種族である。これはこれで天文学的には非常に重要なのだが、逆に惑星は海王星までの8個になった。眺める上で最も難易度の高かった冥王星が惑星でなくなったことで、実は惑星すべてを眺めるのがとても容易になったのである。地球から見て最も暗い惑星・海王星の明るさは約8等。その位置さえ間違えなければ、海王星は小口径の家庭向け天体望遠鏡や、ちょっと大きめの双眼鏡で眺めることができる。天王星は6等台なので、さらに明るく、双眼鏡でも簡単に眺められる。

 一方、明るいのにもかかわらず、眺めた人が極端に少ないのが水星である。詳しくは第11回目のコラムで紹介(星空の散歩道vol.11『最小の惑星:水星ウォッチに挑戦』)しているが、水星は内惑星、つまり地球よりも内側を回っているので、太陽のそばから大きく離れることがないからである。見えそうな時期でも、明け方の東の地平線か、夕方の西の地平線ぎりぎりなので、よほど条件に恵まれないと見えない。天文ファンでも、なかなか眺めた人が少ない惑星なのである。それでも6月上旬には条件がよかったし、今後一年間の間に何度かチャンスが巡ってくる。そのチャンスの時期さえ間違えなければ見ることができる。

 そんなわけで、国立天文台と日本望遠鏡工業会が一緒になって、「惑星ぜんぶ見ようよ☆」キャンペーンを打ち出すことになった。太陽系の8つの惑星をすべて、比較的簡単に見ることができるようになったことをアピールし、惑星のおもしろさを多くの人に伝え、同時に実際に望遠鏡で惑星を見てもらおう、というものである。しかも、眺めた日時を申告することで、国立天文台長から認定証が発行されるのだ。認定証は難易度に応じて、金星、火星、木星、火星を眺めた人は銅メダル、水星を加えて銀メダル、8個全部見た人には金メダルとなる。

 国立天文台では、これまでも天文現象に応じて様々なキャンペーンを行ってきた。ふたご座流星群を眺めようなど、種々の天文現象が起きる日時を選び、一日から数日という、かなり期間を限定した市民参加型キャンペーンだった。しかし、今回の「惑星ぜんぶ見ようよ☆」は、2007年6月1日から2008年5月31日までの1年間の長期にわたるものである。すでに、このキャンペーンのキックオフとして、6月1~10日には「内惑星ウィーク」キャンペーンを行い、肉眼で見える惑星の中では難易度の高い、水星を眺めてもらった。今後も、公式の観測ガイドブックを制作したり、キャンペーンに沿った形での公開天文台での観望会やメーカー・天文雑誌主催の観望会を開催するなど、活動を広げていく予定である。

 もともと天文にあまり興味のない人は、小型の望遠鏡で土星の環が見えることさえ知らないことが多い。海王星や天王星に至っては、大型の望遠鏡を使える天文学者でなければ眺めるのは不可能と思っていることも少なくない。このキャンペーンによって、こうした固定概念を崩しながら、多くの人に実際の惑星を眺めてもらう機会を増やしたいものだ。

 「惑星ぜんぶ見ようよ☆」キャンペーンのホームページへアクセスして、ぜひ参加登録してほしい。各惑星の「いつ見る?」のコーナーや、実際の眺め方、観望好機一覧表など、さまざまな情報が網羅されている。せっかく、広い宇宙の中で、この太陽系に生まれたのである。生まれ故郷の主要天体である惑星を、ぜひ全部見てみようではないか。


「惑星ぜんぶ見ようよ☆」キャンペーン
http://www.eight-planets.net/