コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.20
夏休みの星花火:流星群を眺めよう
 夏休みになると、星空も夏祭りを迎える。たくさんの流れ星が、まるで星の花火のように夜空を彩るようになるからだ。夏は流れ星が多い季節である。というのも、7月末から8月にかけて、やぎ座流星群やみずがめ座流星群、8月中旬にはペルセウス座流星群、そして下旬には、はくちょう座流星群と様々な流星群が活動するからだ。中でも圧巻はペルセウス座流星群だろう。1月のしぶんぎ座流星群、12月のふたご座流星群と並び、年間の三大流星群の一つで、その流星の数の多さは際だっている。毎年8月12日から14日頃に、その活動は最も活発な極大を迎える。空が暗く、星がよく見えるところでは、1時間に50個、場合によっては100個近い流れ星を数えることができる。まさに夏の星花火の代表である。
ペルセウス座流星群は、毎年8月12日から13日ころピークになります。ステラナビゲータ Ver.8/アストロアーツで作成しました。
 流星というのは1センチにも満たない小さな砂粒が、地球の大気に飛び込む現象である。秒速数十キロメートルという高速で地球へ突入するので、大気との摩擦で熱せられ、光を出し、流れ星となって見える。

 流れ星になる砂粒は、もともと彗星がまき散らしたものである。彗星は汚れた雪玉といわれるように砂粒をたくさん含んでいて、太陽熱によって氷の塊が融けていくと同時にたくさんの砂粒を宇宙空間へ吐き出す。こういった砂粒は、母親である彗星の通り道(軌道)をおなじように動いていく。いわば砂粒の見えない川の流れが宇宙の所々にあるわけだ。その川が、たまたま地球の軌道と交差している場合、その場所を地球が通過する日時に、たくさんの砂粒が降ってきて、流星が群れになって出現する。これが流星群なのである。

 ところで、同じ流星群に属する砂粒は、ほぼ同一の空間運動(速度や方向)をもちながら群をなして動いている。その群れの中に地球がさしかかった場合、多数の流星が天球上のある一点から放射状に流れ出るように見える。平行に突入してくる流星の軌跡を逆に延長すると、一種の遠近法により、ある一点に収束するように見えるからである。この点を放射点(または輻射点)と呼ぶ。ちょうど、鉄道の線路の近くに立ってみると、2本のレールが遠くで一点に交わるように見えるのと同じある。天文学では伝統的に、その放射点が存在する星座名をとって、XX座流星群と呼ぶことになっている。

 地球は毎年8月中旬、ペルセウス座流星群の生みの親:スイフト・タットル彗星の軌道に近づく。この時、この彗星がはき出した砂粒が群れをなして地球に突入してくるのが、ペルセウス座流星群というわけである。すなわちこの流星群は、放射点がペルセウス座にあることを意味している。ペルセウス座流星群は砂粒の流れる川幅も広いことで有名だ。8月の始め頃から20日頃までの長期間にわたって、この流星群に属する流星が見られる。ただ、その砂粒の流量は、地球が川の中心に最も近づく、毎年8月12日から13日頃に最大となる。

 夏休みもまっさかりだし、特に北半球で見やすい流星群である。それに加えて、速度が速くて明るい流星が多く、出現した後に煙のような痕を残したり、末端で爆発したりすることもままあり、流れ星としては非常に派手な印象を与える。流星群の中では王者といえるだろう。天文同好会や学校の天文クラブの観測の入門としては格好の対象であり、天文ファンの中で、この流星群を見な い人はいないほどである。

 この流星群の歴史は古く、中国では紀元前にそれらしい記録がある。ヨーロッパでは古くから「セント・ローレンスの涙」と呼ばれていた。ローレンスというのは、当時、異端とされていたキリスト教の布教をおこなったため、焼き殺された殉教者である。殺された期日が258年8月10日で、ちょうどペルセウス座流星群が、この日の前後に見られることから、彼の名前にちなんで命名されたものである。涙と花火とでは、ずいぶんと印象が異なるものだ。

 今年のペルセウス座流星群の極大日は8月13日明け方とされているが、この時期、今年は新月で、月明かりの邪魔が全くない。暗い流星も月明かりにかき消されることなく眺められるので、多くの流れ星が期待できる。ペルセウス座は秋の星座なので、放射点が上がってくるのは22時過ぎとなる。北東の空になるのだが、流星は全天どこにでも出現するので、どこを眺めていてもよい。深夜過ぎには次第に流星数が増えていき、明け方にはピークを迎える。ペルセウス座流星群の流れ星を見ていると、夏の短い夜があっと言う間に白々としらみはじめてしまい、もっと見たいなぁ、と思うこともしばしばである。皆さんも、ぜひ明け方の夜空に夏の星花火:ペルセウス座流星群の乱舞を楽しんでみてほしい。