コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.23
3000年以上前のハレー彗星のかけら ーオリオン座流星群を眺めようー
 この欄の Vol. 20 でも流星群について、「夏休みの星花火:流星群を眺めよう」という題で紹介したが、この10月には、また通常とは趣の異なる流星群が活発な出現を見せると予想されている。オリオン座流星群である。この流星群は、毎年10月中旬から下旬に散見されるものである。流星群とは、主に彗星から放出されるダスト (砂粒) の流れに、地球が遭遇したとき、そのダストが群れをなして地球大気に飛び込む現象である(詳細は Vol. 20 参照)。オリオン座流星群の場合、ハレー彗星から放出された塵粒が、秒速60キロメートルという高速で地球へ突入し、大気中で流れ星として輝くものだ。
参考:2006年10月21日 オリオン座流星群が極大。ステラナビゲータ Ver.7/アストロアーツで作成しました。
 オリオン座流星群は中堅規模の流星群で、通常はそれほどたくさん出現するものではない。条件のよい、空の暗いところで観察しても、1時間あたり、せいぜい10~20個程度しか見ることができない。ペルセウス座流星群や、ふたご座流星群よりも規模が小さな流星群である。ところが、この流星群に事件が起きたのは昨年であった。昨年10月21日頃、オリオン座流星群とは思えないほど、たくさんの流れ星が出現したのである。通常の出現数の倍以上、一時間あたり50個を越え、なかには100個を数えた人までいたほどだ。オリオン座流星群としては、過去最大級の出現を記録したのである。

 どうして、突然オリオン座流星群が活発な出現となったのか? その謎は、われわれが解き明かすことになった。国立天文台の佐藤幹哉 (さとうみきや) 広報普及員と私は、紀元前1400年から現在までのハレー彗星の軌道を用いて、彗星から放出されたダストが、どのように分布し、軌道進化をしているかを計算してみた。その結果、ハレー彗星が紀元前1266年、同1198年、同911年に太陽に近づき、その時に放出されたダストが、2006年に群れをなして地球軌道に接近していることがわかったのである。昨年の出現の原因になったのは、ざっと3000ほど前の古いダストだったわけである。さらに、これらのダストの群れは、通常の年には地球軌道には近づかないこともわかった。昨年の突然の増加の原因を特定した研究成果は、今年8月25日に発行された日本天文学会欧文研究報告に論文として掲載された。

2007年のオリオン座流星群のダストの群れと地球軌道の交差状況。実線が地球の軌道で、それぞれの楕円は、ハレー彗星からの放出年とともにダストの密集部の位置を示している。実際には、ダストの分布はかなりの大きさを持っているので、地球の軌道に、これだけ近接していれば、流星数が増加する可能性は高い。  ところで、この論文が発表されると、世界各地の流星研究者から問い合わせのメールがやってくるようになった。どれもが、「おまえたちの計算では、今年の出現の予測は、どうなっているか?」というものであった。論文には、2007年の出現予測については触れていなかったからである。早速、今年の状況を計算してみたところ、2006年には及ばないものの、2007年にも流星の出現数が増える可能性があることが判明した(図)。

 ダストの密集部分と地球との接近が起きるのは、日本時間の10月20日8時頃と10月22日2時~5時頃 と予想される。前者が紀元前1266年に放出されたダスト、後者が紀元前1198年に放出されたダスト、つまり昨年の出現を引き起こしたダストの群れである。日本では、前者の時間帯は観測できないが、後者の時間帯で夜となり、東から放射点があるオリオン座も上ってくるので、観測可能である。また月は夜半過ぎに沈むので、月明かりの影響がなく観測できるため観測条件はよい。もちろん、こういった予報時刻は数時間ずれる可能性があり、特に日本では放射点が昇ってくる10月21日22時頃から、空が明るくなる22日5時頃まで、注意して観察する必要があるだろう。古いダストの群れなので、出現数はなだらかに変化し、鋭いピークはないと思われる。ただ、出現数そのものは昨年よりも少ないと予想されている。昨年は、地球がダストの群れの密集部のもっと濃いところを通過したからである。実際には例年 (1時間に10~20個) よりも少し多い程度となってしまう可能性もあるだろう。(ただ、逆に言えば計算した年代よりもずっと前に放出されたダストの影響で、さらに多くの出現がある可能性も否定はできない。まだまだ研究は始まったばかりで、すべてがわかったわけではないのである。)

 オリオン座流星群もスピードが早い、明るく輝く流星もあるのだが、暗い流星も多いので、市街地など明るい空のもとでは、さらに少なくなってしまうだろう。できる限り、暗い夜空で眺めるようにしたいものである。

 いずれにしても今年のオリオン座流星群は注目すべき、といえるだろう。実に3000年前、縄文時代か弥生時代の頃に、ハレー彗星から放出されたダストが、地球大気で光り輝き、流星になる。そんな、ちょっと夢とロマンにあふれた今年のオリオン座流星群に、ぜひ注目してみて欲しい。