コラム
星空の散歩道 国立天文台 准教授 渡部潤一
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vol.49
冬の夜空の川下り:エリダヌス座

 晩秋から初冬、南の空にくねくねと伸びる星座が現れる。オリオン座の傍らから、秋と冬の星座の真ん中を、細長く南へ延びる川である。といっても、天の川ではなく、星座の上での川、エリダヌス座である。エリダヌスとは、伝説上の大河の名前で、ギリシア神話では悲劇の舞台として有名だ。太陽神ヘリオスの息子、冒険好きのフェートンが、父に太陽を運ぶ馬車を貸して欲しいと頼みこむ。ヘリオスは自分でも扱いが難しいため、危険だと承知しなかった。しかし、フェートンは、冒険の誘惑に負け、朝になるとその馬車に乗って出発してしまった。ところが、しばらくして、操っているのがいつものヘリオスでないことに気づいた馬が暴れだした。フェートンは、この暴走を止められずに、馬車はいつもの道から大きくはずれ、世界中を焼き払ってしまったのである。これを見た大神ゼウスが、フェートンに雷を落としたため、フェートンは燃えながらエリダヌス川に落ちて死んでしまったのである。もともと、この季節の太陽の通り道(黄道)は、うお座からおひつじ座、おうし座など天高いところを通っている一方、エリダヌス座は南に低く、黄道からずっと離れている。そのため、馬車が軌道を外れて落ちて行くには好都合の場所だったのかもしれない。

参考:12月10日午後8時30分の南東の空(鹿児島)。
オリオン座の西側から、連綿とエリダヌス川が地平線まで流れているのがわかる。地平線に見えるのが、一等星アケルナル。鹿児島では、何とか見えるが本州以北では見えない。ステラナビゲーターVer.8/アストロアーツで作成しました。
 そんな悲劇に彩られたエリダヌス川は、オリオン座の一等星リゲルのすぐ北西の3等星クルサから始まる。その後の星のつなぎ方は、いろいろな流儀があるものの、15─20個ほどの星を経て、最終的に南の地平線にまで注ぎ込んでいる。もともと、エリダヌス座は全天でも6番目に大きな面積を持つほど細長い星座である。その最終地点には、アケルナルという一等星が堂々と光っている。アケルナルという名前は、エリダヌス川の南端に位置する「川の終わり」という意味のアラビア語に由来している。

 クルサから、このアケルナルまで、天球上の大円(最も近い曲線)で結んだとしても、なんと66度も離れている。結び方にもよるが、おそらくエリダヌス川の流れをたどると、その長さは90度はあるだろう。さすがに、このシリーズの29回目に紹介した(参照:vol.29『うみへび座 ひねもすのたりのたりかな』)、うみへび座(東西方向に100度近くにわたって細長く伸びている)ほどではないものの、りゅう座やへび座など、大円的にはせいぜい50度に満たない星座に比べれば、その細長さは抜きんでている。その意味では、エリダヌス座はうみへび座に次ぐ細長い星座といっていいだろう。

 星がよく見える冬の夜、星図を片手に、エリダヌス座の星々を辿りながら、細長い川の川下りを楽しんでみてはどうだろうか。3─4等星と暗い星が多いのだが、しっかりした星図さえあれば、意外と簡単に結べてしまうはずである。ところで、エリダヌス川の川下りだが、最終地点に到達できることはなかなか難しい。というのも、その最終地点にある一等星アケルナルは、南に低すぎて、日本の大部分からは見ることができないからだ。九州中部よりも南の地域でないと地平線に上ってこないのである。もし、住んでおられるところが九州中部より南なら、地平線までよく晴れた夜に、最終地点であるアケルナルを探すに挑戦してみても面白いだろう。