Factory Automation

OTセキュリティソリューショントピックス

製造現場はリモートアクセスに何を求めているのか?
工場リモートアクセス導入の勘所

ユニアデックス株式会社 ソリューションマーケティング本部 ソリューション企画部 鈴木 英樹氏(右)、三菱電機株式会社 OTセキュリティ事業推進部 山田 侑太朗(左)

IoTやAIの活用などを背景に、製造現場でも外部とのネットワーク接続が一般的になった。しかし外部からのリモートアクセスは、常にセキュリティを脅かす攻撃の危険性にさらされている。それでも「止まらない工場」を目指すならば、リモートアクセスには何が求められるのか。OTセキュリティのスペシャリストであるユニアデックスと三菱電機が議論する。

  • 鈴木 英樹氏

    ユニアデックス株式会社
    ソリューションマーケティング本部
    ソリューション企画部

    鈴木 英樹氏

  • 山田 侑太朗

    三菱電機株式会社
    OTセキュリティ事業推進部

    山田 侑太朗

VPNが攻撃の標的に

――なぜ今、OT環境で「安全なリモートアクセス」が重要になっているのでしょうか?

山田 私は「VPNの限界」と「ランサムウエア経由の脅威の拡大」が、背景にあるのではないかと思います。VPNは、認証の設計や運用の不備によって、攻撃面が広くなりやすいです。実際、今はOT環境を狙ったサイバー攻撃の侵入経路としてリモートアクセス経由が多く見られます。ならば安全なリモートアクセスの導入が必須になるのは当然の流れです。

鈴木 VPNは「性善説」に立ったシステムです。多くはIDとパスワードさえ合えば誰でも利用でき、しかも認証後は自由にアクセスできてしまいます。しかし、もはやそれだけで安全性は確保できなくなりました。リモートアクセスはきちんとした管理体制で、専門のツールを使うことが不可欠になったと思います。

――リモートアクセスはIT環境でも広く使われていますが、OT環境と同じではいけないのでしょうか?

鈴木 ITとOTは「アクセス先の種類」に大きな違いがあります。ITの場合は、サーバやストレージなどアクセス先がだいたい決まっています。しかしOTでのアクセス先は、機械もベンダも設置場所もバラバラです。しかもアクセスするユーザーも、自社の社員だけでなく、機械のベンダや保守を行う協力会社のスタッフなども含まれてきます。管理するボリュームがITと大きく異なるため、同じ方法が通用しないのです。

ITとOTの管理対象の違い

ITとOTの管理対象の違い

山田 OTの現場で働いている人にとって重要なのは、機器の可用性と現場の安全性です。それらを維持するためには、社外の関係者による遠隔対応を受け入れて、機器がきちんと動き続けるような環境を作らなくてはなりません。それも単にリモートアクセスを可能にするというだけでなく、個々の機器に対する適切なアクセス制御の仕組みも必要です。そこがITと比べたOTのリモートアクセスの難しさだと思います。

現場任せではセキュリティ対策は進まない

――そうしたリモートアクセスを日本の製造業が導入しようとしたとき、苦労しそうな点はどこにあるとお考えですか?

山田 一つあるとすれば「現場の心理的な抵抗感」ではないでしょうか。機器の保守が目的だとしても、実態の見えないアカウントから現場へアクセスされるのは、誰だって不安になるものです。また、リモートアクセスのツールが各社バラバラで統一が取れていないのも、現場がリスクを感じる要因になっていると思います。

鈴木 英樹氏

鈴木 リモートアクセスの管理でありがちなのが「現場の部署に任されている」ことです。会社単位でどう守るのかという共通のポリシーが決まっていないケースが多々あります。管理が部署単位だと、担当者が異動した際にその機器の管理方法がうまく引き継がれず、そのまま放置されるというセキュリティ上、最も避けるべき事態が起きてしまいます。そうした運用のケアまで考え出すと、導入のハードルがさらに上がってしまうのが実情でしょうね。

――安全性の高いリモートアクセスを導入すると、運用が複雑化し利便性が低下してしまう懸念もあるわけですが、安全性と運用性の両立は可能なのでしょうか?

鈴木 私は安全性と運用性はトレードオフの関係にはないと思っています。統一的なルールがないまま部署ごとに導入していくと、セキュリティのレベルがまちまちになってしまいます。安全性のルールをきちんと決めたうえでの運用であれば、両者を両立させることは十分可能なのではないでしょうか。

山田 安全性と運用性は、バランスを見極めることが重要なのではないかと思います。バランスを取りながらどのように業務を進めていくか、守りを固めながら効率性をどうやって高めていくかというところを、リモートアクセスの選定基準にしていくべきだと考えます。

山田 侑太朗

鈴木 そうですね。バランスの取り方は会社によって異なると思うので、社内で議論を深めていくことが、安全性と運用性を両立するための鍵になるでしょう。

「急いで復旧しない」という考え方も必要

――運用面では、セキュリティ対策の限界という難しさもあります。100%のセキュリティ対策が困難な中で、インシデント発生時の復旧におけるポイントはどこにあるとお考えでしょうか。

鈴木 おっしゃるように完璧な防御体制を作るというのは、AIを悪用した攻撃なども試みられている今では非現実的と思います。ならば考えるべきポイントは、システムに「侵入される前」よりも、「侵入された後の対応」になるのではないでしょうか。インシデントが発生した際に何から復旧させるのか、あらかじめ優先順位をつけておくことはその一つです。完璧に防ぎきるという考えを捨てて、攻撃を受けても復旧にかかる時間を最短にすることに注力することが必要と考えます。

山田 特に工場の場合は、敢えて「急いで復旧しない」のもポイントだと思います。やみくもに復旧と立ち上げを急いでしまうと、安全性が確保されないまま稼働が始まって、現場の安全性が損なわれる恐れがあるからです。セキュリティポリシーに基づき、止めない範囲と止まっても影響が少ない範囲を区分けし、会社全体でリスクを最小化する取り組みが求められているのではないでしょうか。

鈴木 医療の「トリアージ」みたいな考えに立つべきなのでしょうね。インシデント発生時には現場でおきていることを見ながら優先順位をつけること、さらには平常時からそういう事態に備えた訓練が必要な時代なのだと思います。

セキュリティ対策は優先度を付けて進める

セキュリティ対策は優先度を付けて進める

――そのようなセキュリティの体制作りに必要な投資について、経営陣には費用対効果をどう説明すればよいのでしょうか。

山田 難しい問題ですね。セキュリティ投資はROI(投資収益率)では説明しきれないものがあります。経営陣に理解を促す要素として分かりやすいものは、「投資しなかった場合に受ける損害」ではないかと思います。攻撃を受けた際の信頼性の低下や生産活動の停止などを例に挙げて、セキュリティ投資の重要性を訴求していくことが有効ではないでしょうか。

鈴木 セキュリティ対策の効果は、攻撃を実際に受けるまで計ることができないものであり、それをいつまでも議論し続けても意味はないのではないかと思います。しかし経営陣も決してセキュリティに無関心なわけではなく、管理はしておきたいはずです。ならば経営陣の判断を引き出すには、攻撃を受けたときのブランド毀損や復旧費用などシステムダウン時に想定される損害を見せたうえで、ツール導入によりどれくらいリスクが下がるかを明らかにすることが有効でしょう。それならば効果は分かりやすくなるはずです。セキュリティを脅かす攻撃による事故は各所で起きており、今さら従来のROIで是非を判断するものではなくなりました。投資判断に数字が必要なのは確かですが、経営陣にも「リスク対策のための投資」という視点を持っていただくことが重要だと考えます。

――今後、OT環境でのリモートアクセスはどのように進化していくのでしょうか。

山田 特に海外ではAIを活用し、工場の現場の人員は減らしていく傾向にあります。日本も同様の方向でしょう。少ない人員でカバーしなくてはならなくなったとき、リモートアクセスに求められるのは、現場の業務をすべてまわせる仕組みなのではないかと考えています。リモートメンテナンスに限らず設備の立ち上げから運用まで、現場にほとんど人がいなくても、AIも活用して全部リモートで行うという時代が来るのではないでしょうか。

鈴木 全くその通りだと思います。加えて、AIの活用を支える存在としてのリモートアクセスにも期待しています。自動化が極度に進むとAIが暴走することを懸念する向きもありますが、リモートアクセスはその暴走を止める手段にもなり得ます。機械の状態把握だけでなく、AIの時代を見据えた現場の仕組みを作るツールとして、リモートアクセスを位置付けていきたいものです。

本記事は2026年7月15日に行われた三菱電機・ユニアデックス共催Webinar内にて放映されたトークセッション動画の内容をもとに記事として再構成したものです。

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