Factory Automation

FA業界コラム ~識者の視点~

産業用ロボット 小平紀生氏

2019年12月公開【全3回】

第1回 製造業の自動化と国際競争力

自動化の目的は国際競争力の強化

 自動化商談で「役に立つIoTを導入したい」「最も効果的なロボットシステムを導入したい」という話を頂くことがあります。自動化を考えるきっかけだけなら良いですが、実はこの意識のままでは効果的な自動化は得られません。IoTもロボットも道具です。実にフレキシブルな道具で様々な形で効果を上げることができます。ただし、期待する導入効果を十分に見極めていればの話。道具を導入する話より、解決すべき課題を明確化し達成すべき目標を明確に設定することが先決です。製造業は1950年代から1980年代までの40年間日本経済成長の主役として世界に追いつき追い越してきました。しかし、バブル経済崩壊後の1990年代から現在に至る30年間は、新興アジア圏に追われる立場に変わり、進むべき方向を見失いがちになっていると思います。

 事業上発生する問題の原因を「人手不足」とすることもよく聞きますが、実は経営的な不具合を人手不足にすり替えている例もかなり多いと思います。労働人口の減少は直面する避けられない事実です。ただしそれに伴い、国内の働き手が減っていくだけではなく、社会の消費構造も産業構造も変化していきますので、単に今の状態で手が足りれば良いという自動化では、将来安泰なわけがありません。

 自動化は生産性向上、品質向上、コストダウン等による競争力強化が本来の目的です。日本の製造業の60年余りの変遷を図1に示します。戦後の高度経済成長期と安定成長期の昇竜の勢いは、バブル崩壊で頭打ちとなり、その後、伸び悩みが続いていることを実感してください。バブル崩壊直後はアジア通貨危機など世界経済も不安定でしたが、2000年ころから中国経済が急加速し、アジア圏全体の製造業が急速に力をつけました。それに伴い日本の製造業の国際競争力の低下はもはや否定できないでしょう。ここで日本が得意としてきた生産技術を活かして、日本ならではの、さらに進んだ自動化投資で国際競争力を獲得することをあきらめてはいけないと思います。短期的に現状を凌ぐための設備投資を否定するものではないですが、最終的に、他社より優れた生産ができるという企業競争力、産み出す製品の国際競争力、いずれにせよ競争力を高めることに結び付かなければ、価値のある投資とは言えません。

図1.日本の製造業の出荷額・付加価値・就業者数の推移 製造業の出荷額、付加価値、就業者数:内閣府国民経済計算図1.日本の製造業の出荷額・付加価値・就業者数の推移
製造業の出荷額、付加価値、就業者数:内閣府国民経済計算

自動化の最適解はそれぞれに違う

 国際競争力強化のある自動化実現には特効薬があるわけではなく、やるべきことは非常にシンプルだとも言えます。現場の5年くらい先の理想像を想定し、それに足らないリソースや現状の欠点を分析し、それを解消する戦略を見極め、実現のための投資をする、これをしっかりとやるしかありません。誰もが考えるような一般論ではなく、あくまでも自社の謙虚な分析と果敢な投資で最適解を追求しなければ競争力は強化されません。自動化について構想から設計に至るシステムエンジニアリングの概念を図2に示します。ここで意外と重要なのは「客観事情」と「顧客事情」です。

 市場状況、法規制、規格などの「客観事情」は、時と場に応じて違いがありますので情報の入手と正確な分析が不可欠です。重要なのは正確な情報の入手です。産業の世界でも、国際規格の誤解釈や不正確な海外情報なども実は多く出回っていますので油断はできません。必ずオリジナルな情報に到達する努力をしてください。

 「顧客事情」はわが身にとって最適な自動化は何だろうか、という非常に重要なポイントです。同じ業種で同じような事業を展開している会社でも、工場の立地や部品調達体制等の会社の状況は違いますし、現場の熟練度、情報処理システムや生産設備の能力にも差はあります。そしてもちろん掲げる事業戦略は独自のもののはずですので、それぞれの会社の事情に応じた自動化投資の最適解はそれぞれに違います。違いの簡単な例ですが、部品内作の場合はトレイに並べた部品供給が容易ですが、外注部品だとビニール袋で入着しますので、自動化にはひと工夫が必要です。熟練作業者の能力を最大限に活かすか、人の能力への依存を極力抑えるかも現場事情と事業戦略次第です。自動化の基本的な構想としてもロボットが活きる場合もあれば、敢えてロボットは使わない自動化を考えた方が良いという場合もあり、時には現時点では自動化はいったん見送るべきという判断さえあり得ます。このあたりの事情を踏まえ、どこまで最適解に迫れるかが生産技術力だと思います。いずれにせよ、他社や他国と同じことをやっているだけでは競争に勝てるはずもありませんよね。

図2.自動化システムエンジニアリング図2.自動化システムエンジニアリング

最適解実現を担うシステムインテグレータ

 自動化システムを実際に設計し構築する仕事を請け負うのがシステムインテグレータです。システムインテグレータには以前は生産設備外注のイメージもありましたが、最近では生産システム構築の専門家として期待されるようになっています。

 産業用ロボットは、そもそも半完結製品で、ハンドを付けプログラムを組んで生産設備の中に組み込んで初めて財産価値が決まります(図3)。同じロボットを使ってもシステム構築の上手下手で完成したシステムの価値には大きな差がつきます。そのため、いかに優秀なシステムインテグレータとパートナーシップが組めるかが死活問題になります。

 ロボット市場初期のエンドユーザは自動車業界や電気電子業界が中心でしたが、この業界は自前の自動化設備構築能力を持っていることが多く、自らの状況に応じた自動化を十分に検討してシステムの仕様をシステムインテグレータに提示することができます。そのため、システムインテグレータは設備外注の立場でも十分結果が出せました。しかし、ロボット導入業種が食品業界等の必ずしも自前で自動化設備構築能力を持たない業種に広がるにつれ、システムインテグレータには、ユーザ分析や自動化構想提案能力等のコンサルティング能力も期待されるようになってきました。さらに、画像処理技術、各種センシング技術やIoT技術など、高度な道具も使えるようになり、技術の選択肢も増えましたので、システム設計は難しくなりましたが、良い解に到達できるチャンスも大きくなっています。いずれにせよ、競争力のある自動化解を得るためには、エンドユーザとシステムインテグレータの密な共同作業で最適解を求める姿勢は双方に不可欠です。

 このような背景から、現在のシステムインテグレータ業界には、仕事の進め方や事業形態、営業チャンネルや情報チャンネル、さらには保有技術の拡大などの革新が求められています。ロボット工業会内に設置されているFA・ロボットシステムインテグレータ協会は、業態も企業規模も様々なシステムインテグレータの共通課題を解決し、ロボットメーカやエンドユーザとの連携を効果的に進める体制として2018年7月に設立された業界団体で現在会員は200社を超えています。日本の優秀なシステムインテグレータが業界活動で競争と協調を使い分けることにより、今後一層強化活性化されることを期待できると思います。

 最後に、システムインテグレータとエンドユーザ間で問題点が十分に共有化されて同じ方向を向いた議論ができるようになると、「共鳴」が起きるようです。問題に直面して合理的な解決策や妥協策のために自然に相互から歩み寄るという「共鳴」状況になればしめたもの。今後は国際競争力を高めることができる自動化を、「共鳴」する体制で追求していきたいですね。

図3.ロボットシステムインテグレータの役割図3.ロボットシステムインテグレータの役割

FAの散歩道資料づくりと著作権

 FA・ロボットシステムインテグレータ協会の発足以来、様々なシステムインテグレータ向けセミナーのありかたも活発に議論されています。技術を体系的に学ぶ講習型、実習を通じた経験型、期間も内容も様々ですが、必ずしも工学技術的なものだけではありません。企業経営の基本や マインドから、相手を正確に理解するための聞く技術と話す技術まで、さらには相手に響く資料の作り方など様々な切り口の講座の検討や試行が始まっています。

 最近の資料づくりでは昔よりは著作権について意識するようになっていると思いますが、会議の配布資料やプレゼン資料、インターネットコンテンツなどで、著作権的にアブナイ資料もまだまた多く目に付きます。常にオリジナルなコンテンツを起こすのが基本的な態度ですが、他の資料から引用することにより主張点を明確化できるような場合もあります。引用とは著作権法第三十二条で認められた、著作権者の許可なく流用できる方法ですが、基本的なルールがあります。①引用部分が明確であること、②著作物としては従たる部分であること、③出所を明示すること、④改変してはならないこと、そして⑤正当な引用の目的が明確であること、です。必ず①~⑤がすべてクリアすることに注意をすれば問題はありません。なお、新聞や雑誌の紙面コピーや放送番組の動画ファイルの無許可での配布や回覧は著作権法違反になり、最近厳しく問われるようになっています。また、これらをプレゼン資料に取りこむことも②⑤のグレーゾーンになりますので避けた方が無難です。

 実は昨年(2018年)12月30日に発効したTPP11で著作権にも変化がありました。著作権保護期間が著作者の死後50年から70年に延長されたこと、親告罪であった著作権侵害が条件付きで非親告罪になったことです。非親告罪化で、実際に「利益が不当に害される」などの条件が揃えば、著作権者だけではなく誰でも訴えることができることになりました。そもそもこれは海賊版対策なのですが、迂闊なコピペは誰からでも訴えられる可能性が高くなったと思った方が良いでしょう。詳細は文化庁のHPなどを参照ください。

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