Factory Automation

FA業界コラム

三菱のサーボが業界最後発からトップクラスにのぼりつめた 理由わけ 堤清介氏

2023年2月公開【全3回】

第2回 最新技術を汎用サーボで利用可能に

 第1回で紹介したリアルタイムオートチューニングは、ある制御技術の上に成り立っています。その技術が「2自由度制御」です。汎用サーボへその制御技術をいち早く導入したのも当社でした。

 汎用サーボで開発した2自由度制御方式は、モデル制御部と実ループ制御部より構成され、モデル制御部では、指令に対する応答性を調整し、実ループ制御部では、機械の摩擦などの外乱に対する応答性を調整します。それぞれを高応答かつ安定に調整することにより、機械の特性を最大限に引き出すことができます。

 その半面、従来の制御方式よりパラメータの数が増大することから、調整に時間がかかってしまうという難点がありました。サーボは装置の性能を出すために装置ごとにパラメータを調整しなければなりませんから、パラメータの増大は調整の工数に大きく影響してしまいます。

 装置をモデル化できれば、パラメータはほとんど決定できます。この考え方をベースにしているのが、リアルタイムオートチューニングです。サーボの運転状態を見ながら、リアルタイムにモデル制御部内のモデルを同定することにより、モデル制御部および実ループ制御部が高応答かつ安定に動作するように自動的にパラメータが決定され、人による調整を軽減できます。

 2自由度制御の理論は早くから確立しており、実際のサーボシステムにも取り入れられていました。しかし、それらは特殊用途のサーボシステムに限られていたのが実情だったのです。限定的だった2自由度制御理論の適用を、当社はリアルタイムオートチューニングの確立で汎用サーボにも広げた点に、大きな意義があったと思います。

 しかし、チューニングのレベルはモデルの精度に影響されます。そこで、オートとはいかないまでも短時間にさらに制度の良いチューニングをする目的で開発した機能が、次に紹介する「マシンアナライザ」です。

装置の特性をサーボから解析する「マシンアナライザ」

 装置の性能を最大限引き出すためには、装置の特性を詳細に知る必要があります。振動の特性を知るためには、センサを装置に多数取り付けてハンマリングを行い、解析により装置の伝達特性を把握するのが一般的ですが、この解析を行う測定機が非常に高価であることが問題でした。また、測定を行うためにはセンサの取り付けなど準備作業に多くの負担がかかるという課題がありました。装置開発時に所定の動作が得られず、チューニングが難攻する原因を調べるために特性を解析するような場合は、解析を始めるまでに多くの時間を要し、開発効率を低下させます。また、装置稼働中の異常原因を調べる場合は、装置のダウンタイムが長く続いてしまうことになり、生産効率をも大きく引き下げてしまいます。

 当社はこの問題を解決するために、装置本体ではなく装置につながったサーボから解析するシステムを開発しました。それが「マシンアナライザ」機能です。サーボアンプから出る信号をPCに取り込み、PC上でそれを解析するというものです。サーボアンプでさまざまな周波数成分を含む電流をモータに与えて装置を動作させると、装置の動作状況がモータに反映されます。それをもとに伝達特性を把握するという仕組みです。

MELSERVOの組み立てラインにて

 マシンアナライザ機能は、センサ取り付けなどの準備作業を特に必要とせず、現場ですぐに解析を始められるのが特長です。モータ取付部より遠いところにある装置には適用しにくいなど、完全に測定機を代替できるほどの機能はありませんが、トラブル発生時にすぐに原因調査と対処が可能になるのは大きなメリットです。また、装置開発時に装置に合ったパラメータを、サーボエンジニアが設定するレベルで短時間に決定できることもメリットです。

 この解析には複雑な行列演算が必要なのですが、この機能を開発した当時はPCの処理能力が低く、解析結果を得るためのPCの演算時間に30分ほどの時間を要しました。しかし、その後PCの性能が向上するに従い、実用的なものになっていきましたが、そこに達するまでに10年ほどかかりました。今ではPCの処理時間も気にすることなく、実用的な機能となっています。

デジタル化でコントローラ1ユニット当たり最大256軸の同期を可能にした

 その他にもサーボシステムに関して業界トップクラスの技術を保有する機能や製品は数多くあります。パルス信号ではなくデジタルのデータで制御し、コントローラ1ユニット当たり最大256軸までの同期を可能にする高速サーボネットワーク、量子化ビットを増やして精度を高めた高分解能エンコーダ、小型で高トルクのモータなどです。高速サーボネットワークはサーボからコントローラへ現在位置、速度などをフィードバックし、装置の状態をモニタリングすることも可能にしました。またサーボシステムの高機能化にはエンコーダの性能向上が欠かせないため、従来は専門メーカー任せだったエンコーダを当社で内製したものが高分解能エンコーダです。

超小型サーボ

超小型サーボ

 当社がこれらを実現する高い技術を持っているメーカーとしてお客様から認識されたことが、後発ではあったもののサーボの分野でシェアを伸ばすことができた理由ではないかと思っています。サーボは装置の主要駆動部であるという認識のもと、装置メーカーの期待に応え続けるためにも、今後もより一層、技術の研さんと革新的な技術開発にまい進していく方針です。

製品紹介

ACサーボシステム MELSERVO-J5

ACサーボシステム MELSERVO-J5

生産設備のさらなる高速化・高精度化の実現に加え、次世代産業用オープンネットワーク「CC-Link IE TSN」に世界で初めて対応。エッジコンピューティングを活用した工場のIoT化に貢献するとともに、お客様のTCO(Total Cost of Ownership)削減に貢献します。

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