情熱ボイス
新城工場が大幅な納期短縮を行うらしい。PREMIUM 5 DAYSのプロジェクトが進むにつれて、三菱電機社内にもそういう情報が漏れ伝えられるようになった。
社内からは「頼もしい。がんばってくれ」と期待が寄せられる一方で、
「そんなことできるのか?」
「また前のようなことになるんじゃないだろうな」
と不安視する声も少なくなかったという。
その不安を抑えるために奔走したのが本社の松井孝彰だ。本社の機器計画部で三相モータなど駆動機器の事業プランニングに携わる松井は、支社や代理店からの意外な反応に直面した。しかし確かに以前、PREMIUM 15 DAYS対象外の機種で納期が混乱した過去を考えると、彼らの反応はもっともなことかもしれない。
松井は彼らを安心させるために、PREMIUM 5 DAYSと並行して見積りシステムの改善を進めていることも伝えることにした。見積りシステムは、支社や代理店の担当者が顧客の注文内容を入力すると見積りを回答するシステム。従来のシステムは10年以上前に作られたものであり、改善が必要とされていた。
改善を要するポイントの一つが、担当者による注文内容の入力ミスの防止だ。見積りをはじき出すためには正確な入力が必要だが、ミスが起こりがちで、そのたびに見積り依頼を受ける営業部門は確認と入力差し戻し作業に追われた。営業部門にとっては業務のムダが多く、受注の機会損失の恐れもある。今後PREMIUM 5 DAYSのようなスピーディーなプログラムが始まると、そのムダの存在がさらに目立つことになるだろう。そこで既に開発が予定されていた見積りシステムの刷新を同時並行して行うこととした。それを主として担当したのが松井だった。
PREMIUM 5 DAYSは受注から出荷までの日数を確約するプログラムのため、受注前の見積り作業の改善そのものはPREMIUM 5 DAYSの実現とは本来関係はない。しかし見積りシステムへの入力し直しは、支社や代理店の担当者にも手間をかけているはず。
その手間の軽減にも同時に取り組んでいることを伝えれば、
「支社や代理店にPREMIUM 5 DAYSへの新城工場の
本気度を分かってもらえるのではないか。」松井はそう考えたのである。
新しい見積りシステムの要件定義には本社や新城工場だけでなく、支社の担当者も参画し、具体的な開発作業が進められた。新城工場で走り回るメンバーを松井は遠く離れた東京の本社から思いやりながら、システムの改善に取り組んでいった。
営業ツール制作で2年目社員の力量を試す
PREMIUM 5 DAYSの準備も後半戦にさしかかったところで、新たなスタッフがメンバーに加えられた。中井と同じ営業部電動機課の田端秀帆だ。当時入社2年目の田端にとって、中井は新人時代の教育役。プロジェクトが終盤を迎え、新たな業務の担当者が必要になったため、中井が呼び寄せたのだった。
田端に課せられたのは、PREMIUM 5 DAYSを案内するリーフレットやノベルティなど営業ツールの制作。上司の三丸から受けた「見ただけでPREMIUM 5 DAYSの内容が分かるものにしろ」という指示を堅実に遂行していった。PREMIUM 5 DAYSの適用条件など細かい部分はプロジェクトでの議論を受けて盛り込むことになるため、議論を横目でにらみながらの制作作業だったという。
田端と中井。新人とその教育役という立場ではなく、対等な立場で大きなプロジェクトに参画するのはこれが初めてだった。営業ツール制作という実際の営業活動を左右する業務を、中井が田端に任せたのは、田端が自分の指導を離れてからどれくらい仕事ができるようになったのか、それを確認したかったからなのかもしれない。
実際、PREMIUM 5 DAYSのリーフレットは通常の5倍の枚数を必要とするなど、予算的にも大きな仕事だったが、田端は確実にこなした。
田端の成長は「最近、展示会での説明がうまくなった」という周囲からの評価にも現れている。
直前になっても終わらないテスト「支社には内緒だぞ」
2017年4月のサービス開始を目標としていたPREMIUM 5 DAYSは、結局そこには間に合わず、2017年7月20日まで延期することになった。やはり15日の納期を5日に短縮することは容易ではなかった。しかし支社や代理店を不安にさせないためにも、2度目の延期は絶対に避けなくてはならない。
それを強く実感したのが、6月に入って全国の代理店キャラバンに回った奥平と中井だ。
説明会はPREMIUM 5 DAYSそのものよりも、
PREMIUM 5 DAYS対象外機種の納期への影響に質問が集中し、
「まるで謝罪会見だった」(奥平)という。
やはり代理店にはPREMIUM 15 DAYS開始時のことが強く記憶に残っているようだ。同じ轍を踏むことは許されない。
PREMIUM 5 DAYSのワークフローがまとまった後は、予行演習に追われた。実際にシステムにサンプルの受注情報を流し、5日で出荷まで至るかどうかのテストだ。当然ながらテストに一発でOKが出るはずもない。オーダーを流しては不具合に直面し、その原因分析にあたる日々が続いた。その作業は6月どころか7月に入っても終わらない。
遅々として進まない作業に、メンバーは「このやり方にこだわらなくてもいいのでは?」と思うこともあったという。以前ごく一部の機種で5日以内出荷を行った時のように、 “力技” でカバーした方が早いのではないか。しかし力技に頼らないことは、このプロジェクトの一番始めに確認している。力技ならばすぐにボロが出るだろう。最初から失敗の可能性含みでは、ユーザだけでなく社内や代理店からの信頼は得られない。システマチックに5日以内出荷を実現することにこだわった。
ただし三丸は、サービス開始直前になってもテストを続けていることは、支社には内緒にしておくよう指示した。
「支社が不安になりかねないからね」(三丸)。
ついに迎えたサービス開始
「工場のみんなが元気になった」
2017年7月20日。さまざまな苦難を乗り越えて、受注後5日以内の出荷確約プログラム「PREMIUM 5 DAYS」が始まった。社内には不安の声もあったが、万全の準備の効果あって出荷日は100%キープし続けている。不安要素の一つだったPREMIUM 5 DAYS対象外機種への影響もなく、従来通りの納期を維持できているという。
業界初の5日以内出荷確約のインパクトは大きく、その効果は業績にも表れている。PREMIUM 5 DAYSの1日あたりの受注金額は、従来のPREMIUM 15 DAYSに比べて約4割増加。さらに副次的な効果として、「工場のみんなが元気になった」と松原は言う。支社や代理店の不安をはねのけ、公約通りのプロジェクトを成し遂げたことが大きな自信になったようだ。
出荷日遵守率100%を維持し続け、将来に向けて
信頼を貯めていく
PREMIUM 5 DAYS導入から1年余りが経ち、プロジェクトに携わったメンバーも少しずつ入れ替わってきている。リーダーとしてプロジェクトを率いた三丸は関西支社へ異動。後任には本社側の担当者としてワーキンググループに参画していた塩田修が就いた。人が入れ替わる間もPREMIUM 5 DAYSの業績は拡大を続けており、受注金額はサービス開始時の2017年10月からさらに7割近く増加。PREMIUM 15 DAYSについては対象を約220万機種から約3000万機種に拡大した。松井が主導して開発した見積りシステムからは、その派生としてエンドユーザ向けの納期検索システム※も生まれ、既に動き出している。
現在PREMIUM 5 DAYSを新城工場の現場で指揮する塩田にとって、新城工場は自身が三菱電機入社時に研修を受けた場所であり、自分と同じ1974年生まれの施設でもある。思い入れの強い工場で塩田は「本当に大変なのはこれからの方」と気を引き締める。100%を維持し続けているPREMIUM 5 DAYSの出荷日遵守率は、1台でも遅れた時点で二度と100%には戻らなくなるからだ。
「100%をキープし、支社や代理店からの信頼を
貯めていくことが自分のミッション」(塩田)。
貯めた信頼は、新城工場の次の時代を担う者たちへの財産として引き継がれることになる。
ナビゲーター 奥平哲也
三相モータ生産計画のプロフェッショナル・裏の顔は、長篠城ならぬ新城の「殿」。
「ホワイトボードがあると、つい家系図を書いてしまう」という奥平哲也は、長篠の戦いで織田・徳川連合軍に旗を連ねた長篠城主 奥平家の末裔。そういえば……なんとなく武士を思わせる面立ち?!
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温泉
湯谷温泉
社員もオススメの名湯で
心も体もほっこりと!
提供:湯谷温泉発展会
日本百名湯にも選ばれている湯谷温泉は、開湯は1300年前。『長篠村史』に「仙人は湯谷温泉の優れた効力により心身の調和をとり、修行を極め悟りを開き(中略)実に308歳の長寿を全うした」とも書かれています。
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歴史
設楽原の決戦場
今なお語られる
長篠の戦いの舞台!
提供:新城市観光協会
天正3(1575)年、武田軍と織田・徳川連合軍の総勢5万人超えの兵士たちが、東西の要となっていた長篠城をめぐってしのぎを削った場所です。決戦場跡地に再現されている馬防柵で古の時に思いをはせるのはいかがですか。
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自然
鳳来寺山
頂上から見える絶景に
心癒されること、間違いなし!
提供:新城市観光協会
標高695m、1,400万年前の火山噴火によりできたといいます。鳳来寺山表参道から始まる石段は1,425段。途中、様々な石碑や名所があり、ゆっくりと楽しめます。山頂(瑠璃山)への周遊ルートもおすすめです。
- 要旨 業界初「三相モータの5日以内出荷」実現への軌跡
- 第1回 ミッションは、短納期<5DAYS>出荷
- 第2回 社内でせめぎ合いの日々が続く
- 第3回 周囲の不安を抑えながらの船出