Factory Automation

海外レポート

e-F@ctoryモデルライン公開で
中国の「智能製造」実現を後押し

2018年3月公開

中国が国を挙げて進める製造業高度化の国家プロジェクトでは、情報化と自動化の融合によるスマートなものづくり「智能製造」が大きなテーマとなっています。安価な労働コストを武器に中国は「世界の工場」としての地位を築き上げてきましたが、他の新興国の追い上げなどもあり、もはやそれだけでは持続的な成長を期待しにくくなっているのが現状です。そこでものづくりのステップアップをはかるために、情報化と自動化を現場に積極的に取り入れようとしているのが智能製造です。

しかし情報化や自動化が生産効率や品質の向上などに有効なことは概念的に理解できても、では実際に自社の生産現場に何をどう取り入れればどんなことが実現できるか、具体的にイメージすることはすぐには難しいものです。そこで、実際に情報化や自動化を果たしているラインを見ていただき、そこから自社内で実践するヒントを得ていただくために用意したのがモデルラインです。

実際に生産中の現場を見学可能

見学可能なモデルラインは中国内に4つ設けられています。実際に製品を生産しているラインを見学できるところとして、常熟市の三菱電機自動化機器製造(常熟)有限公司(MEAMC)と、大連市の三菱電機大連機器有限公司(MDI)があります。

常熟市の三菱電機自動化機器製造(常熟)有限公司。2017年竣工の第二工場の一部がモデルラインとして公開されている


生産目標に対する実績や不良品率などをリアルタイムで見える化

2011年に設立されたMEAMCは、中国で販売するサーボやシーケンサ、表示器などを生産する工場です。生産能力拡大のために2017年4月に竣工した第二工場の一部がモデルラインとして公開されています。ここでは日本のマザー工場と同等の「生産情報の見える化」を実現したモデルラインを見学可能です。生産実績や品質データをリアルタイムで確認し、問題をすぐに見つけ出して対処することを実現しています。


生産目標に対する実績や不良品率などをリアルタイムで見える化


大連市の三菱電機大連機器有限公司

また消費エネルギーを生産量と突き合わせ、エネルギー原単位の変化をリアルタイムで管理し、ムダなエネルギー利用の発見や、ムダ削減のための温湿度の自動制御なども行っています。MEAMCではこの先進的な見える化で智能製造を具体化した実稼働中のラインを、見学者に公開しています。

ただしMEAMCのモデルラインのような大規模な情報化と自動化は、どの工場でもすぐに実現できるようなものではありません。いきなりシステム全体を刷新するのではなく、小規模な投資で少しずつ改善を積み重ねていきたい現場向きなのが、加工機やインバータを生産するMDIのモデルラインです。


大連市の三菱電機大連機器有限公司

MDIでは小規模な投資から始められる智能製造の一つとして、ねじ締め作業支援システムを見学者向けに公開しています。インバータの生産ラインでのねじ締め工程で、使用する部品や工具、作業手順をラインについた作業者が間違えることのないように、組み立てる製品に合わせた部品選択や作業指示を行うシステムです。締め付け後の良否判定や、締め付けに要した時間の情報収集なども自動化しており、それら情報をもとにした効率的な教育プログラムの企画も可能です。

ねじ締め作業支援システムで正確な作業を支援するとともに作業の課題を抽出

MDIではこのねじ締め作業支援システムを、既存の生産ラインに追加する形で導入しています。智能製造のために生産ラインを大幅に刷新することなく、「小さく始める」ことのできるソリューションとして、既に多くの見学者を受け入れています。

政府機関もe-F@ctoryモデルラインに協力

智能製造は政府が推進している目標のため、智能製造につながるソリューションについては政府も積極的にバックアップしています。早くから中国の製造業と協力しながらものづくりの高度化を進めてきた三菱電機は、政府や自治体からもソリューションの中国国内への展開に大きな支援を受けており、その支援から生まれたモデルラインもあります。

一つは、常熟市の常熟高新技術産業開発区に2017年7月に開設された「常熟グリーン智能製造技術イノベーションセンター」内のモデルラインです。智能製造推進の中核拠点と位置付けられているこのセンターには、関連ベンダー各社のシステムが展示されていますが、その中で最大の展示スペースを持っているのが三菱電機です。ここではスマートフォンの製造工程を模したモデルラインや、複雑な制御が求められるコンバーティングやバリ取りのデモシステムを展示しています。

2017年7月開設の「常熟グリーン智能製造技術イノベーションセンター」とその中に設けられたe-F@ctoryモデルライン

三菱電機は2016年に常熟市と戦略的パートナーシップ契約を結び、中国地場製造業だけでなくグローバルの大手製造業が集まるこの地域に根ざしたサービスを展開していく方針を示しています。その関係の深さから実現したのがこのモデルラインです。


中国国家標準の策定を担うITEIにもe-F@ctoryのモデルラインを開設

政府と連携する形で開設されたもう一つのモデルラインは、標準化を担当する政府機関、機械工業儀器儀表総合技術経済研究所(ITEI)内にあります。中国では智能製造を国全体で推進するために、さまざまな標準化作業も行っており、その実務を担っているのがITEIです。三菱電機はITEIとも連携した活動を展開しており、その一環としてモデルラインが開設されました。


中国国家標準の策定を担うITEIにもe-F@ctoryのモデルラインを開設

標準化には規格策定だけでなく検証作業が欠かせません。そこでITEIでは三菱電機の協力を受け、e-F@ctoryのコンセプトを応用したモデルラインを構築し、検証を行っています。モデルラインではe-F@ctoryで加工から組み立て、物流までの一連の工程を自動化しており、ユーザのオーダに合わせた変種変量生産が可能なことを実証しています。同時にエネルギー管理やトレーサビリティなど、智能製造を構成する要素技術も盛り込んでいるのが特徴です。ITEIはこのモデルラインを検証プラットフォームとして活用するとともに、智能製造実現を目指す製造業にもリファレンスの一つとして公開しています。

ITEI内のモデルラインで一連の工程の自動化やエネルギー管理を実証中

智能製造へのアプローチは業界動向や生産品目、抱える課題などによってそれぞれ異なってくるため、モデルラインのシステムがそのまま自社工場に導入できるケースはそれほどないと思われます。しかしモデルラインのベースにある次世代のものづくりの考え方は共通であり、モデルラインからいろいろなアイデアが広がるはずです。三菱電機ではこれらモデルラインの公開で、中国製造業の智能製造実現をサポートしていく方針です。

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