オフィスや飲食店など、当たり前のように快適な場所がある。でもそれって当たり前ではないのかも。私たちの気がつかないところで、働く場所や暮らしの快適を支えてくれる「パッケージエアコン(業務用エアコン)」。設置してくれる方からメンテナンスしてくれる方まで、多くの人が関わるもの。「パッケージエアコンをつくることは、関わるすべての人のしあわせを考えること」そんな開発者たちの想いをご紹介します。
01 職場から社会まで、働きやすさと暮らしやすさを支えるパッケージエアコン。
湯瀬さん:この夏も灼熱のような暑さで、熱中症に関するニュースをよく耳にしました。エアコンは、毎日の生活に欠かせないだけでなく、人の命にも関わるものになってきていると感じます。そんなエアコンの中でも、私が開発を担当しているのは「パッケージエアコン」です。オフィスや飲食店やショッピングモール、病院、駅などに設置されている業務用のエアコンですね。
エアコンには室内機と室外機が必要です。室内で涼しい風や暖かい風を送り出すのが室内機、屋外でファンを回し、室内の熱や冷たい空気を外に逃がすのが室外機です。中と外で熱を交換することで、室内を冷やしたり暖めたりしています。私は室内機一筋8年間、開発に携わっています。
渡辺さん:私はもともと尼崎の研究所で寒冷地向けの室外機の技術研究をしていました。そして、2020年からは静岡製作所で室外機の設計に携わっています。
02 業務用だからこそ、ひとりひとりの快適を追求する。
湯瀬さん:三菱電機の室内機は、風の吹き分けにこだわっています。さらに、ムーブアイを搭載すると、人がいる場所をセンサーで検知して、風向きを自動で制御することができる。私は暑がりなので、この機能にとても助けられていますよ(笑)もちろん寒がりの人には、風よけモードもあります。
なぜ、業務用のエアコンで、三菱電機がそこまで人の快適にこだわるのかと言うと、やっぱり室内にいる方の快適性というのは、オフィスなどで働く上で、非常に重要なファクターだと考えているからです。業務用だからといって、個々の快適をおざなりにはしない。三菱電機は特に強くこだわっています。
また、三菱電機の室内機は、空間に調和するように、フラット&スクエアを基調にデザインされています。デザインというのは、性能とのせめぎ合いです。新機種ではパネルの厚さを従来品から5mm抑え、凹凸を減らし、より空間に馴染む室内機を目指しました。見た目には、言われないと気づかないような進化です。私もチームの一員として参加しましたが、グッドデザイン賞 をいただけたときはこのこだわりが認められたことが、非常にうれしかったです。また、空調と換気扇との連携など、機能面でも評価いただきました。
職業病でしょうか、街を歩いていると、つい天井を見上げちゃうんです。自分が作った室内機が静岡駅に導入されていたことに気づいたときはうれしくて、妻に写真を送ってしまいました(笑)
03 旭川で体感した。エアコンは、止まってはいけないインフラだ。
湯瀬さん:電気さえあれば空気を作り出すことができるエアコンは、止まってはいけないインフラの一部だと思うんです。温暖化が進んだ真夏の厳しい暑さにおいても、働く人や暮らす人を支える社会においても大変な役割を担っているのだと感じています。寒冷地の厳しい寒さにおいても同様です。
渡辺さん:「霜取り」って、ご存知ですか?寒冷地では、室外機はとても冷たくなっているため、そこを通る空気の水分が凍って霜になってしまいます。すると、室外機から空気を吸い込めなくなり、暖房をする力が弱くなってしまいます。そこでエアコンは、一時的に暖房を中止し、霜取り運転というものをします。その間は、暖房ができません。極寒の地でしばらく暖房が使えないなんて大変です。
そこで、暖房したまま霜取りができる、“デュアルオンデフロスト回路“というものを開発しました。これは室外機を二段構造にすることで、片方で暖房、もう一方で霜取りというように、暖房を止めることなく運転できるという技術です。
実証実験のために、旭川に設置工事にいくことになりました。厳しい氷点下の雪の中、据え付け業者の方と作業をしながら、こんなところで室外機を止めてしまったら、命に関わる。大変なことだと身に染みて感じました。
“デュアルオンデフロスト”は、10年以上かけて開発した技術です。それを自分の手で製品に搭載できたときは大変感動しました。技術開発から製品化まで、一連で携われることは、なかなかありません。この技術で、技術振興賞 を受賞することができました。
04 パッケージエアコンを考えることは、関わるすべての人のしあわせを考えること。
湯瀬さん:パッケージエアコンには多くの人々が関わります。据付してくれる業者さん、使っているうちに、メンテナンスが必要になったりしますので保守点検してくださる方々もいます。販売をしてくれる方々とか、物流を支えてくれる方々とか。パッケージエアコンのまわりに、いろいろなシーンがあるのですね。私は、使う人だけでなく、関わってくれる人、すべてをしあわせできればと思います。
例えば、メンテナンスのことを考えて、ワンタッチで蓋を開け、内部を確認できるような設計になっている機種があります。天井に設置されたエアコンのメンテナンスは、脚立に乗りながらドライバーで蓋を開けるなど、体力的に結構負担がかかるんです。またエアコン内部にたまった水分の汚れを確認できる小窓も導入しました。この汚れがひどくなると故障の原因になるのですが、これを事前に確認できるようにしたものです。
また、化粧パネルを梱包する際につかう緩衝材は、発泡スチロールから段ボールに。家庭用とは違い、施設への納入となると、梱包材料も膨大な量になりますので、処分の負担も軽減する必要があります。脱プラスチックにも貢献できます。
いい製品をつくることはもちろんですが、設置のことや、数年後のメンテナンスのことまで考えて、パッケージエアコンに関わるすべての人を、しあわせにできたらと思います。そして、「何があっても三菱電機さんなら最後までリカバリーしてくれる」そんな風に思ってくれたらうれしいですね。
渡辺さん:昔からお世話になっている販売会社の人がいます。様々な製品の営業の現場の事を教えていただいた方です。そんな尊敬できる現場のプロフェッショナルが笑顔で「この機能はいいじゃないか」って言ってくれる。こんなうれしいことはありません。ただ、売るためだけの機能ではなく、たとえ地味だとしても、関係者の方が共感してくれる機能や、社会をよりよくしていくための機能を搭載したい。社会インフラを支える三菱電機だからこそのモノづくりを目指していきたいです。
05 技術者が夢見る、パッケージエアコンの未来
渡辺さん:室外機って、ものすごく重くて一人では運べないんですね。もし、室外機の軽量化が進んで、どこにでも設置できるエアコンができたらと妄想したりします。いつか軽量化のブレイクスルーが起きて、どこにでも快適な空間をつくっていけたらうれしいですね。
湯瀬さん:妻と話していると、室外機レスの室内機があったらいいなとよく言われます。そんなものがあったら、ノーベル賞ものですけどね。
室内機は結露との戦いなんです。原理上、完全に防ぐのは難しい。そういったところからカビが少し入ったりして、汚れになっていく。少しでも汚れに強い素材を採用することで「数年たっても汚れない室内機」を目指しています。すでに、導入は始まっているので、答えは数年後、近い未来に出ているはずです。
湯瀬 寛之
三菱電機株式会社
静岡製作所
パッケージエアコン開発推進プロジェクトグループ 室内機技術第一課
2015年三菱電機入社。静岡製作所 パッケージエアコン製造部にて、主に室内機の開発設計に携わる。2018年に発売した4方向天井カセット形<ぐるっとスマート気流>では室内快適性を向上するため新風路の設計を行い、近年は2022年発売の4方向天井カセット形フルモデルチェンジ機種<i-スクエアタイプ>の設計担当として企画段階から量産立ち上げまで従事。現在は、さまざまな市場要望に応えるための室内機開発に取り組んでいる。
渡辺 和也
三菱電機株式会社
静岡製作所
パッケージエアコン開発推進プロジェクトグループ 室外機技術第四課
2012年三菱電機入社。先端技術総合研究所 機械システム技術部にて空調機の冷凍サイクルの応用技術開発に携わる。暖房寒冷地における快適性向上を目指した新機能の先行検討を行ってきた。2020年からは現在の所属となり、寒冷地向け量産機種へ新機能搭載を実現した。現在は、標準空調機含めた量産開発グループにて省エネ性・快適性・性能向上に向けた製品開発業務に取り組んでいる。