東京都内を中心に、神奈川、埼玉県で幅広い介護・福祉サービスを展開する社会福祉法人奉優会。同会は、施設利用者に対する服薬介助時の、薬の渡し間違いや飲み忘れなどの誤薬を防止するため、顔認証による本人確認機能を備えた三菱電機デジタルイノベーション株式会社の服薬介助支援ツール「めでぃさぽ」を導入しました。薬包と利用者の顔を、カメラを内蔵したタブレットで撮影するだけで本人確認ができ、同時に介助記録が残ります。これにより、誤薬がなくなり、介護職員の精神的な負担が軽減されました。
社会福祉法人奉優会 渋谷区つばめの里・本町東 副施設長 田村 倭 氏
薬の渡し間違い解消に向け服薬介助支援ツールの導入を検討
特別養護老人ホーム(特養)、ショートステイ、ケアハウス、一般型デイサービスなどの福祉事業を展開する奉優会。1999年の設立以来、「地域に開かれた福祉」の実現を目指し、高齢者の尊厳ある生活を守る自立支援サービスの提供や介護・福祉事業職の社会的地位向上に努めてきました。
施設は2025年5月時点で、東京を中心に159カ所展開し、2,988人の職員が在籍しています。2013年からはEPA(経済連携協定)に基づく外国人介護人材の受け入れを開始し、ベトナム・インドネシア・フィリピン・韓国などの外国籍の介護職員が、介護福祉士の資格取得を目指しながら現場で活躍しています。
そうした中、奉優会では施設利用者への服薬介助時における、薬の渡し間違いや飲み忘れが課題となっていました。同会が東京都渋谷区で運営する「つばめの里・本町東」も同様の課題を抱えていました。つばめの里・本町東は、特別養護老人ホーム(100床)、ショートステイ(30床)、デイサービス、グループホーム(18人)と都内でも有数の規模を誇る施設です。特別養護老人ホームは個室を基本とするユニット型で、10人の利用者を1ユニット(生活単位)で介護しています。
服薬介助は1ユニットあたり1人または2人の介護職員が担当し、10人分の利用者の個室を巡回しています。服薬時は介護職員が利用者の個室まで薬を持っていき、本人確認を行ったうえで薬を飲み終えるまで介助し、紙に記録していました。しかし、人に頼った服薬介助には限界がありました。副施設長の田村倭氏は次のように語ります。
「お昼の服薬時はパート職員が補助に付くため、2人体制の介助になりますが、朝と夕方は1人になります。1人でも顔写真の確認、利用者の点呼といったダブルチェックの仕組みは用意しているものの、服薬介助中に別の利用者からの頼みごとの対応などがあると、薬の渡し間違いや飲み忘れの懸念がありました」
AIーOCRと顔認証を組み合わせた服薬判定の仕組みを評価
誤薬リスクを軽減するため、服薬介助支援ツールの導入を検討した奉優会は、三菱電機デジタルイノベーションの「めでぃさぽ」を導入しました。「めでぃさぽ」は、顔認証を活用して誤薬を防止するシステムです。
カメラを内蔵したタブレット(iPad)で薬包を読み取るとともに、利用者を撮影して顔認証を行います。本人確認ができた場合はタブレット上に認証成功、できない場合は警告を発するため、薬を服用させる人の間違いを防止することができます。利用者が顔認証に抵抗がある場合は、タブレット上にあらかじめ登録済みの顔写真を表示させることもでき、目視での確認が可能です。
「めでぃさぽ」は、服薬介助時にどの職員が、誰の薬を、いつ渡して服用したのか服薬実績として記録するため、後からチェックすることもできます。
奉優会が「めでぃさぽ」を採用した大きな理由は、薬包に印刷された文字を認識できることにありました。一般的な服薬介助支援ツールは、薬包に印刷されたQRコードを読み取ることが多く、調剤薬局との調整が必要です。さらに職員のQR付きネームプレートの準備、利用者のQR付き食札の印刷と食札の配布といった手間がかかります。それに対して「めでぃさぽ」は、AIーOCRで薬包に印刷された文字を読み取るため、調剤薬局との調整は必要ありません。
奉優会では「めでぃさぽ」の採用決定後、2025年3月に約2週間かけて試使用で実際の動作を確認し、同年4月に同会の中でも規模が大きい「つばめの里・本町東」、中央区の「中央区立特別養護老人ホームマイホームはるみ」、杉並区の「特別養護老人ホーム沓掛ホーム」の3施設に導入しました。
つばめの里・本町東では、全13ユニットのうち、2ユニット・計20名の利用者を対象に、約10名の介護職員で試使用を実施しました。
「服薬介助のオペレーションが従来と変わることになるため、当初は戸惑いもあったようですが、職員は20代、30代のデジタルネイティブ世代が多く、作業自体も普段から業務で利用している介護記録用のタブレットで撮影するだけですので、問題なく利用できることが確認できました。本番導入として残り11ユニットに展開する際は、パート勤務、時短勤務など勤務体系が異なる職員も含め、全員に浸透させるための手間はあったものの、ユニット長に使い方を撮影した動画を見せてメンバーに教育してもらうようにお願いするなどして活用を促進しました」(田村氏)
めでぃさぽの利用イメージ:3ステップで薬の渡し間違いをチェック
利用者の安心・安全確保と介護職員の精神的な負担軽減を実現
「めでぃさぽ」は現在、つばめの里・本町東で100人、中央区立特別養護老人ホームマイホームはるみで約100人、特別養護老人ホーム沓掛ホームで約60人と、合計約240人の職員が利用しています。介護職員は薬と一緒にフロアに設置されているタブレットを持って利用者の居室に出向き、服薬介助を行います。
つばめの里・本町東の場合、服薬時間は利用者1人あたり約1分、1ユニット10人で10分程度です。薬と利用者の撮影作業が新たに加わりましたが、服薬介助にかかる時間は以前とほとんど変わっていません。
「習熟度が上がれば、作業時間が短縮すると思います。介護職員からは『顔認証で確実に利用者が確認できるので、1人で服薬介助をする時も安心して薬を服用させることができる』といった声が届いています。特に、漢字に不慣れな外国籍の介護職員を中心に顔認証が好評で、業務効率と安心感の向上に役立っています」(田村氏)
施設として課題だった誤薬については、めでぃさぽを導入後、一度も発生せず利用者の安心・安全の確保と介護職員の精神的な負担軽減を実現しました。
別施設への横展開とさらなる機能追加を検討
今後について、奉優会では今回導入した3施設以外への横展開も構想しており、本格導入に向けた準備を進めています。
つばめの里・本町東では、これまでユニット型特養での服薬介助に限定している「めでぃさぽ」の活用を、別施設への横展開およびさらなる機能追加を検討中です。また、薬の飲み忘れチェックなどの機能の拡張を図り、さらなる安心・安全の実現を目指しています。
「めでぃさぽのおかげで、服薬介助時の不安を解消することができました。今後、介護記録システムと連携できれば、さらに便利になると思いますので、引き続き検討を続けていきます」(田村氏)
社会福祉法人奉優会
所在地
東京都世田谷区駒沢1-4-15 真井ビル5階
設立
1999年