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大企業のクラウド活用推進は地道な活動の積み重ね

2022年9月 | Expert interview

長年にわたって定着したオンプレミスのシステムをクラウドに置き換え、さらにクラウドネイティブなものにするのは容易なことではありません。こうした役割を担うクラウド推進組織CCoEはどのような活動をしているのでしょうか。KDDIは日本企業の中でも早くからクラウド活用を推進してきた存在として知られています。ここではKDDIのCCoEでリード役を務める大橋衛氏に、これまでのCCoEの活動やクラウド推進を成功に導くためのポイントなどを伺いました。

KDDI株式会社
DX推進本部 ソフトウェア技術部 エキスパート
⼤橋 衛 氏

大学卒業後12年間にわたり金融・通信・コンシューマーといった様々なエンプラ系Webシステム開発でプログラミングを経験。
その後軸足をインフラ側に移し、2013年にクラウドと運命的な出会いを果たしたことでクラウドアーキテクトの道へ。
KDDI入社後は社内のパブリッククラウド活用推進に従事。現在CCoEリードとしてセキュリティーガバナンス検討、アーキテクチャ提案、コンサル支援などを行う。CCoEやコミュニティに関する情報発信も積極的に実施。書籍「DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド」(日経BP社)に寄稿。

クラウド活用の障壁を取り除いていくのがCCoEの役割

大橋氏は2013年からKDDI 社内のクラウド導入支援活動に携わってきました。現在は2020年に設立したCCoEのリード役を務めています。同社のCCoEは複数の部署にまたがるバーチャルチームとなっています。大橋氏を含む5人のメンバーがプロデューサー役を務め、他のメンバーは活動内容によって柔軟に入れ替わります。現在10以上の部署から20人以上が参加しています。

大橋氏はCCoEの役割を次のように説明します。

「CCoEは企業がクラウド利用を進める時に、社内にある障壁を取り除いていく組織だと考えています。KDDI のCCoEでは、クラウド活用に取り組んでいる部署が様々な障壁に当たったときに、技術的な支援を提供したり、関連する部署を横つなぎするなどして問題の解決を手助けしています」

セキュリティーに関するルールをクラウドに対応させることから開始

クラウド推進活動を始めた時に、最初に取り除いた壁がセキュリティーに関するルールだったと大橋氏は振り返ります。

「KDDIにはお客様の情報を預かるうえで担保しなければならないセキュリティー上のルールがあります。オンプレミスシステムを前提としていたこのルールをクラウドに対応させることが、CCoEの前身となったチームで最初に行った業務でした。ルールを改定するだけでなく、ルールを運用しやすくするツールを提供するなど、利用者目線に立った活動を行いました」

本来、CCoEはアドバイザー的な役割に徹するのが基本ですが、クラウド推進の初期段階には各案件に手厚い支援を行ったといいます。

「初期の案件で大きなセキュリティー事故を起こしてしまうと、クラウド利用が禁止になる恐れがありました。これからクラウドを広めようというタイミングでは、絶対に事故を起こさないという気構えが必要です」(大橋氏)

クラウド活用を全社に拡げるために有効な「3+1」

CCoEが正しく機能するためにはメンバーの構成が重要だと大橋氏は話します。

「私はCCoEに必要な人材構成を『3+1』と呼んでいます。まずクラウド活用推進を絶対に進めていくという情熱を持った人。次に技術に強く実際に手を動かせる人。そして社内の調整役となる人です。この最後の調整役が非常に重要で、社内で何か新しいことを始める時に、どこの部門に相談すればよいか、どんな情報の出し方をするべきかや、事前の根回しの手順や社内の暗黙のタブーといったことを熟知している人が居ることで活動がスムーズになります。調整役をおかずに情熱と技術だけで始めても、肝心の新しいこと、ここでいえばクラウドのことを良く知らない他の組織にとっては異質なモノの押し付けでしかなく、なかなか受け入れてもらえません。最後の+1はCCoEのような異端児的な活動を進めるにあたってはその突破力の維持に稼働のほとんどを集中すべきであり、その他の様々な業務を処理してくれるサポート役が必要です。このプラス1はメインロールではないため、ないがしろにされがちですが、クラウド活用推進のスピードを決める重要な要素になりえます」

クラウド活用の普及でビジネスのスピードが大きく向上

クラウド推進チームの活動によって、KDDIでは2016年からクラウド活用が大きく進みました。同社のビジネスに与えた効果を大橋氏は次のように評価します。

「クラウド導入以前に比べて、新規サービスがゴールに到達するまでの期間が圧倒的に短くなりました。お客様のニーズに合わせてサービスを改善していくスピードも向上しました。さらに、期待した結果が得られなかった場合にプロジェクトを終了させる判断も速くなっていると思います」

また、副次的な効果として、自社でクラウドを活用しているという事実が、クラウドリセラーとしての技術プレゼンスの向上に役立っているといいます。

DXの分野でも日本のITの発展に寄与できるようになりたい

こうした成果は一朝一夕に得られたものではありません。KDDIでは2013年からクラウド推進をスタートさせましたが、クラウド活用が社内に広がり始めるまでに3年以上の時間を要しました。クラウド推進は地道な活動で、すぐに成果がでることを期待すべきではないと大橋氏は指摘します。

「今年、CCoEを設立したからといって1年後に全社でクラウド活用に成功ということは考えにくいです。特に規模の大きな企業では、長い時間がかかることを覚悟して取り組む必要があります」

初期の段階では、社内のステークホルダーと個別に対話を繰り返して少しずつクラウドに対する理解を得ていったといいます。2020年に独立型組織から組織横断型CCoEへと発展したことで知名度と注目度が上がり、以前よりも他部署との協力や人材の確保が容易になったといいます。

KDDIにおけるクラウド推進の今後について、大橋氏は次のように語ります。

「当社の取り組みはエンタープライズでのクラウド活用という領域においては日本のIT業界へそれなりのインパクトを与えられたのではないかと考えています。今後は、DXにおいても日本のITの発展に貢献できるような活動を行っていきたいです」(大橋氏)

キャズム超えまでにかかった期間

キャズム超えまでにかかった期間

KDDI ではクラウド推進を始めてからキャズム(多数派が使い始めるまでの壁)を超えるのに約3 年強を要した。最初は独立型のクラウド推進組織として活動し、活動スケールの拡大に合わせてCCoEを設立した。

  • 本記事は、KDDI株式会社の大橋 衛 氏への取材に基づいて構成しています。
  • 本記事は、情報誌「MELTOPIA(No.261)」に掲載した内容を転載したものです。