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戦略が変われば組織も変わるDXの推進にはトップの強力なコミットが不可欠

2020年3月 | Expert interview

デジタルトランスフォーメーション(DX)では、企業活動のあらゆる面で改革が求められます。改革は、過去の資産が大きい歴史のある企業ほど困難が伴います。既存の企業はDXにどのように取り組むべきか、DX時代のシステムや組織はどのようにあるべきかなどについて、DXのコンサルティングを行っているエミネンス合同会社代表パートナー 今枝 昌宏氏に伺いました。

エミネンス合同会社 / 代表パートナー今枝 昌宏 氏

エミネンス合同会社代表パートナー、ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科 経営管理専攻長・教授。京都大学大学院法学研究科、エモリー大学ビジネススクールMBA課程修了。PwCコンサルティング、日本アイ・ビー・エム、RHJインターナショナル(旧リップルウッドHD)などを経て現職。主な著作に『実務で使える 戦略の教科書』(単著)日本経済新聞出版社(2018)、『ビジネスモデルの教科書:経営戦略を見る目と考える力を養う』(単著)東洋経済新報社(2014)、『ビジネスモデルの教科書【上級編】』東洋経済新報社(2016)などがある。

既存企業のDXを阻む様々な壁

今枝氏は、エミネンスの代表としてコンサルティングや企業研修に携わるほか、ビジネス・ブレークスルー大学でDXに関する講義なども行っています。

コンサルティング活動では、インフラなど重厚長大産業のデジタル化をサポートすることも多いという今枝氏。既存企業のDXについて、次のように語ります。

「やはり、歴史のある企業がDXに取り組むには難しさがあります。デジタル化を阻害するものは沢山あります。そのひとつが、社内のレガシーシステムです。単に古いだけでなく、長年、拡張や改変を繰り返してきたことでシステムが複雑に入り組んでいます。多くの企業では、この部分の維持管理にコストがかかっており、新しい取り組みができない状態にあります」

経済産業省は、既存システムの問題が解決できない場合、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があると予測しています。(「DXレポート」平成30年)

ただし、基幹システムを刷新することがDXではなく、あくまでDXに取り組むための基盤であると今枝氏は語ります。

DXに向けた基幹システムの条件とはどのようなものか。今枝氏は、それを象徴する条件として「製品や設備の制御まで含めた各種システムのシームレスな結合」を挙げます。「DXの時代には、顧客やエコシステムなど外部とのシステムによる連携が増え、活用できるデータが増加しますが、社内のシステムとシームレスに連携できないと、せっかく獲得したデータを活用できないことになります」

今枝氏は、DXへの取り組みが表面的なデジタル化に留まらないように注意すべきだとも指摘します。

「例えば今、日本ではRPA(Robotic Process Automation)の導入が流行っています。RPAは確かにコスト削減などの効果が得られますが、あくまで既存のプロセスを自動化するだけです。ビジネスモデルや業務プロセスからしっかり見直しを図るべきです」

DX時代に求められるビジネス担当とIT担当が一緒に働ける組織

DXの実現には、組織改革も必要になります。今枝氏は、DXの時代に求められる組織の例として、アジャイル組織を挙げました。”アジャイル”とは、ソフトウエア開発体制の一種で、顧客満足度を最優先、コンパクトなソフトウエアを短期間でリリースし続ける、ビジネス担当と開発者が一緒に働くなどの特徴があります。スピードと柔軟性を求められる今の時代にマッチした体制です。

「海外では、様々な企業でアジャイル組織化が進んでいます。製品・サービスの機能ごとに小さなグループを作り、そこにすべての要素が入っています。マーケティング担当、企画担当、統計担当、そしてIT担当などが、一つのチームとして働く構造です」(今枝氏)

DXの時代には、企業が何らかのアクションを起こすときには、必ずITが必要になります。また、製品やサービス、システムは、市場や社内から得られたデータを基に頻繁にアップデートを繰り返します。これを可能にするためには、ビジネスの専門家とITの専門家が一体となった組織が必要です。海外ではハイテク企業だけでなく、銀行などでもこうした組織を採用するところが増えているそうです。

「ITの利用が日常化するので、ビジネスチームの中にITの専門家が不可欠です。こうした組織構成は、高度な技術を持ったIT人材が社内にいて初めてできることです。DXの時代にはITに限らず、社内に専門知識や技術を持った人材を増やす必要があります」(今枝氏)

もちろん、このような組織改革は容易なことではないため、経営者の姿勢が問われることになります。

「DXがうまくいっている会社はトップが非常に強くコミットしています。企業トップによるITへの理解と、DX推進におけるリーダーシップは不可欠です」(今枝氏)

エネルギー対策などの社会問題の解決にもつながるDX活用

今後、DXはエネルギーなどの社会問題を解決するうえでも必要になっていくと今枝氏は予想します。

「DXの時代には、マネジメントがすべてデジタル化されます。情報系と制御系が融合し、制御系から得られる大量のデータを使ってモデルを生成し、シミュレーションを繰り返してプランを最適化します。こうしたフィードバックが非常に高速に回るようになり、計画の精度が飛躍的に向上します」

フィジカル空間で収集した情報をサイバー空間で蓄積・分析し、フィジカル空間に適用して費用を最小化・効用を最大化することをサイバーフィジカルシステム(CPS)といいます。例えば、自動車の経路案内の最適化による渋滞解消や、自然エネルギーの有効活用に役立てることが可能だと今枝氏は語ります。

「特にインフラ系にはこの方法が効果的だと思います。おそらく、今の様々な社会問題を解決するためには、社会全体をもっと最適化して無駄なコストやエネルギーを減らしていくことが必要になるでしょう。例えば、風力発電や太陽光発電のような自然エネルギーは、発電量を自由に変えることはできませんが、こうした最適制御を使うことでより有効に活用できるはずです」

情報系と制御系がもたらすマネジメントのデジタル化
計画や実績の精度が飛躍的に向上することでエネルギーなど社会問題の解決に繋がる可能性がある

出典:エミネンス合同会社