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B2Bマーケティングで遅れをとる日本企業が
AI活用と戦略の推進で一気に挽回へ
そこで求められるのはナレッジへの投資

2025年9月|EXPERT INTERVIEW

AIの進化により、マーケティング先進国のアメリカではB2Bマーケティングに大きな変化が起きています。一方、アメリカから15年遅れているといわれる日本のB2B企業にとっては、AIやテクノロジーの活用で一気に追いつくチャンスともいえます。そこで、B2Bマーケティングに特化した事業を展開し、マーケティング・オーケストレーションの重要性を説くシンフォニーマーケティングの庭山一郎氏に、日本企業が取り組むべき課題を伺いました。

シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役
中央大学大学院 ビジネススクール客員教授
庭山 一郎(にわやま・いちろう)

1962年生まれ、中央大学卒。1990年にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。35年間で約600社の企業に対しB2Bマーケティングのコンサルティングを手掛ける。各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティング&セールスの戦略立案、組織再編、人材育成などのサービスを提供。海外のB2Bマーケティング関係者との交流も深く、世界最先端のマーケティングを日本に紹介している。中央大学大学院ビジネススクール客員教授、早稲田大学大学院WASEDANEO講師、IDN(Inter Direct Network)理事、「日経クロストレンドBtoBマーケティング大賞2024・2025」審査委員長。著書に、『法人営業は新規を追うな重要顧客と最高の関係を築くABM』(日経BP)、『儲けの科学 The B2B Marketing』(日経BP)、『BtoBマーケティング偏差値UP』(同)など多数。

シンフォニーマーケティング株式会社

生成AIの登場でマーケターが窮地に
AI時代のマーケティングに求められる「戦略」

ChatGPT、Geminiなどに代表される生成AIは、B2Bマーケティングの世界にも革命をもたらしました。メールマガジン、SEOコンテンツ、キャッチコピーなどの制作プロセスは劇的に効率化し、質の高いコンテンツを生み出せるようになっています。マーケティング先進国のアメリカでは、失職するマーケターが増えているといいます。

「マーケターの雇用は景気に左右されるもので、かつては業績が上向けば再雇用されるケースがほとんどでした。しかし、現在はAIに取って代わられ、戻るポジションがなくなっているのが現状です」(庭山氏)

AIが急激に進化した現在においても、特定の重要顧客をターゲットとするABMや、販売代理店との良好な関係構築を目指すPRMなど、マーケティング戦略の重要性は変わることはありません。こうした中でAI時代のマーケターに求められるのは「戦略」であると庭山氏は指摘します。

「イメージとして、ABM、PRMなどをAIが覆いかぶさっていると捉えるといいかもしれません。つまり、すべての基盤となっているのがAIです。AIは人間が担ってきたオペレーションやリサーチ、さらにはクリエイティブの領域を奪いつつあります。しかし、パラメーターが多く複雑な戦略に関しては、当面の間追いつくことは難しいでしょう」(庭山氏)

実際、欧米のB2Bマーケティングに関するカンファレンスでは、過去10年はテクノロジーの話が中心でしたが、ここ2年ほどは戦略に関するテーマが主流となり、レジス・マッケンナ、フィリップ・コトラー、デービッド・アーカー、ピーター・ドラッカーなどの言葉が引用される原点回帰の現象が起きています。こうした状況は、裏を返せばアメリカより15年は遅れているといわれる日本企業にとって、AIを活用することで一気に追いつくチャンスであると庭山氏は語ります。

「間違えてはいけないのは、AIやテクノロジーだけに頼ることではないという点です。そこを誤ると、30年遅れになる恐れがあります。本質を学ぶことができれば、世界と肩を並べる可能性も十分あります」

バイインググループにフォーカスすることで
日本のマーケティングは世界に追いつく

日本のB2B企業が世界に追いつくもうひとつのチャンスが、アメリカで起きているMQLの衰退です。MQLとはMarketing Qualified Leadの略で、マーケティング活動を通じて獲得した購買意欲が高い「見込客」を指します。世界中のB2Bマーケターはこれまで20年にわたってMQLの獲得に力を入れてきましたが、2023年に入ってモデルを提唱した当事者たちがGood bye to MQLsと言い、世界中を驚かせました。

「MQLが衰退した理由は、テクノロジーの進化でカスタマージャーニーが可視化できるようになったからです。結果、MQLからの顧客獲得が数%に過ぎないことが明らかになりました。“個人”がターゲットのMQLは、関係が切れてしまえば終わりです。そこで個人ではなく購買・決裁に関わるバイインググループにフォーカスした考え方に注目が集まりました。こうした場合、名刺交換の文化がない欧米と異なり基本的に名刺交換をする日本は圧倒的に有利になります」(庭山氏)

日本企業の課題はナレッジの蓄積積極投資で
偏差値を40台から60台へ

それでは、これから日本企業が取り組む課題は何でしょうか。庭山氏は「ナレッジ」だといいます。しかもマーケティング部門だけでなく、全社でナレッジを蓄積することが重要だと強調します。

「業績が上向きの企業の多くは、当社のマーケティング研修に営業部門や技術部門が参加し、マーケティング部門からの参加比率は40%を下回っています。特に基礎研修の場合、有用性を感じた参加者が営業部門に受講を呼びかけています。営業部門は売り上げのメカニズムが分かるわけですから面白くないわけがありません。すると今度はものづくりの部門が噂を聞きつけ、ヒット商品やサービスを作るためにお客様を理解してみたいとなります。全社で理解が進むと横文字が多いマーケティング用語へのアレルギーもなくなり、社内で共通言語ができていく。結果的に全体にナレッジが蓄積されて生産性が上がっていくわけです」(庭山氏)

もともと日本企業は技術力、安定供給力、サポート力など、どれを取っても世界でトップレベルにあり、一目置かれています。唯一課題があるのがマーケティングで、これさえクリアできれば世界で輝くことができると庭山氏は断言します。

「受験ではほとんどの科目が偏差値70でも、40台が1科目でもあるとそれが足を引っ張り第一志望の合格が怪しくなります。同様に、日本企業はほとんどの分野で偏差値70をクリアしているものの、マーケティングだけが弱い状況です。受験では、苦手科目の偏差値を40から60まで引き上げることができれば、合格率は大きく高まります。マーケティングが苦手でも頑張れば3年で偏差値60をクリアすることは可能です。そのためにも日本企業にはナレッジの獲得に投資を集中するべきなのです」

シンフォニーマーケティングが主催するカンファレンス「IGC Harmonics 2025」に、B2BマーケティングのエバンジェリストであるSteveGershik氏(写真右)と6sense社のKerry Cunningham氏(写真中央)が登壇。国内トップマーケターも集結し、「国内に居ながら海外カンファレンスを体験できた」等の評価を得た。