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課題解決のために大切なことは「誠実さ」と「共感」

三菱電機株式会社 デザイン研究所
デザイナー
儘田 大地
三菱電機デザイン研究所のデザイン思考プロセス​

普通すぎて見えない問題にフォーカスする

私が所属するソリューションデザイン部は、その名の通り「ソリューション」、つまり「解決策」をデザインすることが仕事です。特定の領域のビジネスではなく、全社的に幅広い部門との業務を行うことを特徴にしています。リサーチやファシリテーション、マーケティングなどを「デザイン思考」と組み合わせながら、新たなビジネスのアイデアを生み出しています。

デザイン思考とは、ユーザーに徹底的に共感することで、表面に現れづらい本当の困りごとやニーズを捉えていく考え方です。そのプロセスでは、解決のための仮説と検証を繰り返し積み重ねていきます。これまでの開発では、マーケティング調査から得られた数字に基づいて事業機会を特定し、開発テーマを創出するのが一般的でした。しかしこの方法では加工された数字が拠り所となるため、ユーザーが本当のところどんなニーズや課題を感じているのか、リアルな状況は見えてきません。一方、デザイン思考はリアルなユーザーのニーズや困りごとに基づいています。大事なのは本当にユーザーが解決したい悩みを見つけ出し、その解決方法を見つけ出すこと。それを現場から学んだ事実を根拠に検証し、探り続けていきます。ある意味で、マーケティングよりも科学的な手法と言うことができるかもしれません。

リサーチをしていてよく感じるのは「普通のことは、普通すぎて見えなくなる」ということ。その人にとって当たり前なことであればあるほど、本人には問題そのものが見えなくなってくるものです。マーケティングの定説で「ユーザーはウソをつく」という話がありますが、別に「ウソ」ではないんですよね。人がそもそも機械のように一つの固定されたものの見方をしているという考えが間違いで、もっと人は有機的にふわふわしているものですよね。このように当事者さえも気づいていない問題を可視化し、解決すべき課題として捉え直していくことが我々の役割であると考えています。

デザイン思考を用いた三菱電機デザイン研究所のビジネスデザインプロセス

環境という切り口から、未来のしあわせを提示する

ビジネスデザインとともに取り組んでいるのが、ビジョンデザインです。将来への指針を言語化する仕事で、これまでに研究所内の開発テーマ策定などに携わってきました。なかでも力を注いだのが、三菱電機グループが掲げる「環境ビジョン2050」の策定です。2017年から環境推進本部とともにプロジェクトをスタートし、私はワークショップの設計やファシリテーターをメインに務めました。

ひとつ前の「環境ビジョン2021」では、「低炭素社会の実現」「循環型社会の形成」「自然共生社会の実現」といった環境目標に留まっていましたが、2050年版は、もう一歩踏み込んだビジョンに進化させたい。そこでこれまで当社の中にあった環境領域だけにフォーカスするのではなく、「サステナビリティ」というより広いテーマにおける環境について考えることにしました。また、2050年がどんな未来になっているのかを洞察するために、「SDGs」、「ESG」、「CSV (Creating Shared Value)」などというキーワードはもちろん、「経済」、「民主主義」、「価値観」、「世代間のギャップ」など、より幅広いテーマに着目し、三菱電機が継続して未来に貢献できる取り組みは何なのかを検討していきました。

おもしろい取り組みとしては、約100名の新入社員とともに30年後の未来について話し合うワークショップを開催したことです。ビジョンの検討メンバーが30年後誰も社内に残っていないというところから、本当に今後を担う社員のためのビジョンにしなければならない、という思いをもって実施しました。気候や経済、AIなど様々なテーマについて考察した結果、「家族や友人との時間を大切にしたい」「自然との触れ合いを大事にしたい」といった意見が寄せられました。こうした検討を通して「これまでもこれからも変わらない、普遍的な価値」という視点を獲得することができました。

実は、環境ビジョンの宣言文は当初、「大気、大地、水を守り、先進技術で未来を拓く」という言葉でした。その段階で社長に提示したところ、「本当に『先進技術』だけで未来は拓けるものなのか?30年後という未来の話では、もっとゆったり構え、人間らしさを提示したほうがいいのでは」という言葉がありました。先進技術のようなビジネスの側面よりも、人間らしく普遍的な視座が大切になるということを、トップ自らが示したのです。このおかげでチームの士気も高まり、ブラッシュアップにも弾みがつきました。こうして「大気、大地、水を守り、心と技術で未来へつなぐ」という環境宣言が完成します。もちろん私たちの作業は、宣言文だけでなく、宣言に付属するすべてのストーリー作成でした。社長や社員の思いを反映した、壮大なビジョンに着地させることができたと自負しています。

環境ビジョン2050

共創こそが、ビジネスデザインの醍醐味

様々な立場の方々の協力を仰ぎながら「環境ビジョン2050」を策定したように、多くの関係者とともに同じゴールへ向かう「共創」は、ビジネスデザインの醍醐味の一つだと感じています。これまでのビジネスの流れの多くは企業が価値をつくって提案し、顧客はその採用を判断し購入する、というものでした。一方で「共創」とは、関係者皆で価値を作り出す、という考え方です。新規事業のように私たちはこれまでにないフィールドに出ていかなければならないので、様々な方々から学びを得ながらビジネスアイデアの探究を進めていきます。今後も、共創の機会は増えていくでしょう。そのとき、我々デザイナーの活躍の場はもっと増えるはずです。

共創で大切なのは、誠実な姿勢です。どれだけユーザーの本当の想いに共感し、ブラさないか。どうしても様々な人が介在するため、検討過程の中でアイデアが「ユーザーのリアル」から離れていってしまいがちです。でもアイデアは誰のためでもなく「ユーザーのため」のものでなければ決して市場に受け入れられないですよね。だからどれだけ誠実に現場から学び、それを活かせるか、が重要です。
また、ちょっと文脈が違いますが、私が最近大切にしていることは、自分の思いにも誠実であるということです。新規事業というのは、まだだれも踏み入れたことのない道なき道を探り出していくようなものです。当然、多くの人が不安になりますし、失敗も多く、様々な批判も受けやすいので、どんなに強い心の持ち主でもくじけそうになるものです。その時によりどころになりえるのは、自分自身に誠実であることだと感じています。自分の発言や行動に自分自身が共感できること。それが無いと物事は絶対に自分事化できませんし、自分事化していない仕事であれば、きっとどこか無意識レベルで「適当」になってしまうものです。
先の話のように新規事業創出では、「現場からの学びに誠実であること」が大切なのですが、そうあり続けるのは、実は結構大変なことなので、仕事が「自分事」になっていないと、いつか現場への誠実さを欠いた判断をしてしまうことになります。
さらには、多くのメンバーとの共創をしていくときに、メンバーに対しても誠実でオープンなコミュニケーションができないと、皆の力を借りながらプロジェクトを前に進めていくのは困難になります。

ありがたいことに、これまで一緒に業務をさせていただいた方々からは「楽しかった」「ぜひまた一緒にやりたい」といった好意的なフィードバックをいただいています。三菱電機が新たなデザインに取り組んでいることを多くの方に知っていただき、共創の機会を増やしていけたらと思います。
またこうした実績を積み重ねて、ビジネスデザインが当社事業に貢献する機会もっと増やしていきたいですね。

三菱電機株式会社 デザイン研究所
デザイナー

儘田 大地

2016年入社
前職では日本と中国の広告業界でプロモーションデザインに携わった後、社会インフラのコミュニケーションデザインを担当。
現在、ソリューションデザイン部にてデザイン思考をベースにした課題解決型のデザインを事業へ適用する研究に携わる。