技術の種を価値あるビジネスモデルへ。新規事業を動かすリーダーシップの在り方とは

2026.03.04

技術の種を価値あるビジネスモデルへ。新規事業を動かすリーダーシップの在り方とは

新事業の成功確率は「千三つ(1000分の3の確率)」とも言われるように、立ち上げも継続も容易ではない。技術があり、課題が明確でも、それを事業として成立させるには推進力が欠かせない。三菱電機のビジネスイノベーション本部と開発本部が連携して進める「防カビプロジェクト」において、事業化を牽引してきたのが、プロジェクトリーダーの在間裕城さんだ。本記事では、事業化に至るまでのプロセスや、困難を乗り越えながら歩みを止めずに進み続けるための考え方について、在間さんに話を聞いた。

目次

技術と課題をつなぎ事業化へ。「防カビプロジェクト」始動の背景

―在間さんがこれまでに携わった新規事業について教えてください。

在間:2023年11月に三菱電機に入社する以前は、ドローンや5G、メタバースなど、新技術の事業化を主に手がけてきました。入社後は、新規事業におけるアイデア創出から事業化までを一貫して担当しています。

―在間さんが「防カビプロジェクト」に合流された経緯についてお聞かせください。

在間:私が所属するビジネスイノベーション本部(以下、BI本)は、社内の事業部や研究所が保有する技術やアイデアを、事業として育てていく組織です。防カビプロジェクトも、開発本部の先端総研から「カビの発生箇所を予測できる技術がある」と相談を受けたところからスタートしました。BI本で新規事業の立ち上げを支援する中で、2024年11月に私に打診があり、まずは数カ月間、事業性を見極める検討期間が設けられました。最終的に、事業化の可能性があると判断し、そのままプロジェクトリーダーを務めることになりました。

―「防カビプロジェクト」の概要についても教えてください。

在間:先端総研では、独自の防汚コーティング技術を長年研究してきました。この技術は、2008年ごろから、エアコンを始めとする様々な当社製品に活用されています。防汚コーティング技術を活用した社外との協創活動を進める中で、カビの発生を抑制する機能にニーズがあることを見出し、開発を加速させてきました。さらに2023年からは、防カビに関するAI予測やアプリケーションの開発も進められ、スーパー大手管理会社との実証実験を実施してきました。これは、コーティング剤を施した箇所に将来カビが発生するかどうかを、温度や湿度などのデータから予測する技術です。研究所メンバーでだけではなかなか技術検証からビジネスへ進めることができない中、BI本がプロジェクトリーダーとして入ることでマイルストーンやタスクの管理を行い、事業化まで推進することを目的にプロジェクトが立ち上がりました。

スーパー大手の店舗で行った防カビ処理実証実験の様子 スーパー大手の店舗で行った防カビ処理実証実験の様子

―合流当初、防カビプロジェクトに対してどんな印象を抱いていましたか?

在間:新規事業は、課題や技術の探索から始まるケースが多いのですが、今回は課題と技術の両方が比較的明確でした。そのため、事業化に向けた検討はスムーズに進められると感じていました。一方で、コーティング剤は有効な技術であるものの、単価が低く、従来のライセンスモデルでは大きな収益につながりにくいという、新たな課題も見えてきました。カビ発生を予測するAIをどのように組み合わせ、価値あるソリューションとして成立させるか。その設計こそが、このプロジェクトの中核だと捉えていました。

「何を売るか」ではなく「何を解決するか」。プロジェクトを導いた視点

―今回のプロジェクトにおいて、単なる技術活用から「新事業開発」へと飛躍させるために、取り組んだことを教えてください。

在間:重視したのは「お客さまは何に困っているのか」を正確に捉えることでした。求められているのはコーティング剤そのものではなく、カビが再発するたびにかかる手間やコストの削減です。そこで、単に製品を提供するのではなく、カビの発生箇所を予測・可視化し、必要に応じて空調や他製品も含めた改善提案を行うソリューションへと組み替えました。その結果、根本的な課題解決につながり、収益構造も大きく変えることができました。また、防カビを目的にしたソリューションにとどまらず、将来的には省エネなどを含めた施設管理ソリューションになることを目指し、取り組んでいます。

―プロジェクトを進める中で最も苦労したポイントは?

在間:事業の上流から下流まで、ほぼ全てを一人で担う必要があった点です。事業戦略を描きながら、顧客のもとに足を運び、課題の把握や条件交渉まで行う。さらに、社内での評価や意思決定のプロセスも同時に意識しなければなりませんでした。現場には「体験価値」を、経営層には「コスト削減や効率化」といった数字を、研究所や他部署には「参画意義」を伝える。相手の関心を捉えながら対話を重ねたことが、結果的にプロジェクトを前進させたと感じています。

―プロジェクトを前に進める上で、特に大切にしている姿勢や考え方を教えてください。

在間:チーム内で具体的な目標を共有することを大事にしています。単に「事業化」という抽象的な言葉を掲げるのではなく、長期のゴールから逆算して「来年4月までに何を達成すべきか」など具体的な指標を明確に設定します。それを週単位のタスクにまで落とし込むことで、メンバー全員が納得感を持って自分の役割に取り組めるようになります。

こうした「最終的にどんなアウトプットになるか」を描くことは、お客さまに対しても大切にしています。お客さまが関心を持つのは、5年後、10年後にどのような事業につながるのかという点です。今回も、目の前のPoC(ビジネス実証)だけでなく、この先どんな部署を巻き込み、どのように展開していくのかを、一枚のストーリーとして示すことを意識しました。

経営者思考を持った個の挑戦が企業全体のイノベーションにつながる

―三菱電機で「自分のやりたい」を形にするためには、どのように動くとよいでしょうか。

在間:三菱電機の強みは、技術や人材、人脈といった経営資産の厚みにあります。ただ、それらを生かしきるためには、経営の視点を持つことが欠かせません。経営の考え方を理解すると、事業全体の構造が見え、自分の役割やタスクの意味も整理されていきます。視座を一段引き上げ、「経営者の目線で考える」ことが、やりたいことを実現する近道だと思います。まずは自分の仕事が所属している部の目標にどのように貢献するのか、そして部の目標は会社の掲げるどの目標に貢献するのかを理解することが大事だと思います。

―在間さんのような挑戦は、三菱電機の「イノベーティブカンパニー」への変革にどうつながると考えますか。

在間:自分の仕事が、その先でどんな価値を生み、経営目標のどこに結びつくのかを考え続けること。その積み重ねが、変革につながるのだと思います。研究所メンバーとは当初から事業化への意識を共有していましたが、連携を深める中で技術的な議論にとどまらず、「この事業をどう育てるのか」「どう収益につなげるのか」といった具体的な手立てを共に描けるようになりました。お互いの強みを生かして補い合い、一人ひとりの視野が広がることで、結果的に組織全体の力も底上げされていくと感じています。

―在間さん個人として、これから成し遂げたいことや展望についてお聞かせください。

在間:新しい事業や価値を生み出す挑戦の積み重ねが、やがて文化を創っていくと考えています。小さな価値が連なり、社会や人々の暮らしが少しずつ変わっていく。そのプロセスに関われることが、何より面白い。そのためにも今後は、プロジェクトリーダーとしての役割に加え、会計や法務など、経営全体を支える知識も深めていきたいと思っています。事業が大きくなるほど、求められる知見も増えていく。その学びの過程も含めて、三菱電機で挑戦を続けていきたいですね。

INTERVIEWEE

三菱電機 ビジネスイノベーション本部

在間(有満)裕城

2023年に経験者として入社。前職のITメガベンチャーやITスタートアップにて、新規事業の立ち上げと組織構築に従事。経営直下での意思決定支援や大手企業とのJV設立、0→1からの事業化を複数完遂した実績を持つ。三菱電機に入社後は、戦略立案から実務の完遂までをハンズオンで支援している。

在間(有満)裕城

制作: Our Stories編集チーム

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