2026.02.16
中国市場と向き合い、中国で育てるものづくり–MEITCが実現する「スピード、深耕、共生」をテーマにした製品開発
2025年6月30日、蘇州に三菱電機知能製造科技(中国)有限公司(MEITC)の本社が正式に開業した。これは、三菱電機が中国におけるFA事業で進める「自律経営」および「生産・販売・研究の一体化」に向けた第一歩であり、「中国市場のニーズを起点に、現地で意思決定し、現地で価値を創出していく」体制を本格化させる拠点でもある。
新本社の立ち上げを背景に、製品開発の最前線では、現地主導によるものづくりのあり方が大きく進化している。今回は、MEITCで製品開発の最前線を担う二人のキーマン、製品開発部 製品企画課 副課長の王天一と、同部品質保証課 課長の東里夏に、中国市場に根差した製品開発の実践について話を聞いた。
- 王天一|製品開発部 製品企画課 副課長(入社12年)
- 東里夏|製品開発部 品質保証課 課長(品質の現地化構築に専念)
彼らは日々、営業担当者とともに顧客先を訪ね、エンジニアと設計図を修正し、サプライヤーと生産ラインに立ち会いながら課題を洗い出している。中国市場ならではのスピードと現実に向き合う製品開発の裏側にある、“リアルなストーリー”を紐解いていく。
目次
提案書を書くことではなく、橋を架けること。規格を定めるのではなく、信頼を築くこと
Q1|あなたたちは、毎日どのような仕事をしているのですか?
王天一:
「営業のサポートから牽引」へ。これが最も実感している変化です。以前は、営業からの要望を受け取り、それを技術的に実装することが主な業務でした。しかし今では、率先して顧客の生産ラインや工場の現場を訪れ、営業担当者とともに直接課題を確認し、その背景や具体的な状況まで掘り下げています。そこで見えてきた実際の課題を、製品仕様へ落とし込んでいく。市場、研究開発、サプライチェーン、それぞれが異なる視点や言語を持っています。私の役割は、組織の間に立ち、顧客の課題を製品仕様へと変換する「通訳者」であり「つなぎ役」なのです。
東里夏:
私たちは「規格の運び屋」ではなく、「品質の共創者」でありたいと考えています。日本基準をベースにしながらも、中国の顧客の実際の使用シーンや、現地サプライチェーンの能力・特性を踏まえ、現地で本当に機能し、実行可能で、顧客に受け入れられ、工場にも信頼される品質基準と評価手法を主導して策定しています。
重要なのは、設計の初期段階からサプライヤーを巻き込むことです。早期に参画し、共に定義し、一緒に検証する。最高の品質は、最終検査で「見つける」ものではなく、開発の初期段階から「育てる」ものだからです。
真の現地化とは「パッケージを変える」ことではなく、「オペレーティングシステムを変える」こと
Q2|なぜ中国に「FA統括会社」を設立したのでしょうか?
王天一:
2025年4月、三菱電機は中国において、FA事業を統括する会社として三菱電機知能製造科技(中国)有限公司(MEITC)を設立しました。同年6月には、その本社が上海で正式に開業しています。これは単に新しい名前の会社を設けたということではなく、経営全体の転換、事業運営や意思決定の在り方そのものを転換する取り組みです。従来の「日本が計画を立て、中国が実行する」体制から「中国がニーズを定義し、中国が開発を主導し、中国で迅速に量産する」体制へと移行しました。また、「本社の承認を待つ」スタイルから、「現地チームが意思決定権を持ち、迅速に試行錯誤を重ねながらアジャイルに改善を進める」スタイルへとシフトしています。
この変化は、次の3つのキーワードで表すことができます。
第一に、Market-In(市場起点)。「私たちにはどんな技術があるか?」と問うのではなく、まず「お客様の課題は何か?」から考えることです。
第二に、China-Speed(中国スピード)。工程を無理に短縮することではなく、無駄を排除し、前工程から関係者が連携し、小さなステップを素早く進めていくことです。
第三に、Deep Local(現地深耕)。中国の政策や業界慣習を理解し、現地パートナーと「うまく意思疎通を図りながら、共に事業を進めていく」力を身につけることです。
東里夏:
以前は「日本基準に従って作る」と言っていた私たちですが、今は「中国の顧客が認める方法で作る」と言っています。まさに“中国スピード”で中国のスマート製造に貢献していると感じています。
この変革は、品質保証部門に3つの重要な任務をもたらしました。
第1に、「現実に機能する」現地品質基準の構築です。
日本基準をそのままコピーするのではなく、中国の顧客の実際の使用シーンや検収習慣、業界の要件を踏まえ、顧客に真に認められ、現場で運用でき、かつ検証可能な品質基準を策定することが求められています。
第2に、「全範囲をカバーする」品質管理ネットワークの構築です。
開発、調達、製造からアフターサービスまでの全プロセスを一貫してつなぎ、製品ライフサイクル全体にわたって品質管理を貫徹させる仕組みを整えています。設計の初期段階で問題を未然に防ぎ、納品後も継続的に改善を重ねることで、エンドツーエンドのクローズドループを形成しています。
第3に、「信頼できる」現地サプライヤーパートナーの育成です。
単に審査や監督にとどまるのではなく、深い協力関係を築くことが不可欠です。審査プロセスや基準の共同策定、能力向上の支援などをサプライヤーと一緒に進めることで、中核となるサプライヤーとともに成長し、品質を共有し、能力を共生させ、価値を共に創出することを目指しています。
最も難しかったのは、技術ではなく「信頼の再構築」
Q3|最も困難だったことは何ですか?どのようにそれを乗り越えたのでしょうか?
東里夏:
大きな課題の一つは、信頼性が高く、持続可能な現地サプライチェーンの構築でした。これまで日本側の仕組みに大きく依存していた中で、現地サプライヤーの技術力や管理体制、品質成熟度におけるギャップに直面しました。そこで、次の3つの取り組みを体系的に推進してきました。
(1)中国の実情に合った部品評価基準を確立し、科学的な現地化検証を行うこと
(2)サプライチェーン管理(SCM)と品質保証(QA)の合同レビューを通じて、品質要件を調達プロセス全体に組み込むこと
(3)中核サプライヤーと品質向上計画を共同で策定し、プロセス監査、欠陥予防、継続的改善を通じて、共に確固たる品質を築くこと
新会社が本格稼働するにつれ、業務の重圧やスピード、関係部署の多さなど、確かに多くの挑戦がありました。しかし、その中で強く実感したのは、「品質は検査で選別するものではなく、システム設計によって構築するものだ」ということです。必要なのは、場当たり的な対応ではなく、システム工学的思想に基づき、源流から工程全体をつなぎ、品質バリューチェーンを一貫して設計することなのです。
「私たちが求めるのは『合格サプライヤー』ではなく『ともに成長するパートナー』です。」
――東里夏は笑顔でそう語りました。
王天一:
中国のような高速で変化する市場では、製品開発と刻々と変わるニーズを正確に合わせ続けられるかが成功のカギとなります。そのために私たちは、「短い連鎖・アジャイル・共創」を特徴とする現地化した研究開発・運営体系の構築を進めています。
現場の積み重ねが、技術を進化させる
いわゆる「中国市場に根差したものづくり」とは、 本社の戦略を顧客に分かりやすい言葉に翻訳し、 エンジニアの厳密さを生産現場で活かせる改善へと転換すること。そして“グローバルな技術”を“中国の土壌の中で独自に育つ木”へと成長させることでもある。
新しいMEITC本社ビルのガラスカーテンウォールに映る雲と光のように、真の「知能製造」は、各現場への一つ一つの訪問や、何度も修正を重ねた仕様書の積み重ねの中から生まれていく。最高の技術は、常にニーズという土壌の中で育まれる。MEITCのこれからを担う王と東の言葉からは、そのことが確かに伝わってきた。
- 掲載されている情報は、2026年2月時点のものです。
制作: Our Stories編集チーム