2025.09.09
#ピックアップ #マイパーパス #Serendie 「イノベーティブカンパニー」として技術で社会課題に挑む
人工知能(AI)など最新テクノロジーがもたらす新しい社会構築の可能性を議論する「GDS2025世界デジタルサミット」(日本経済新聞社主催)が7月、都内で開催された。三菱電機の漆間社長が登壇し、「イノベーティブカンパニーへの変革による社会課題の解決」と題して、三菱電機の取り組みを紹介。既存事業の拡大に経営資源を集中する「オペレーショナルカンパニー」から、リスクを恐れず新たな価値を創出し続ける「イノベーティブカンパニー」への変革に対する強い決意を示した。
講演ではまず、三菱電機グループの「志」であるパーパスを表現した動画を紹介。この動画は「当たり前の毎日をもっとポジティブにしていく」という想いが込められており、動画の中では赤いガーベラの花が象徴的に使われている。ガーベラの花の花言葉は「情熱、限りない挑戦」。事業を通じて、地球温暖化や人口減少などの社会課題解決に挑み続ける三菱電機のパーパスに通じると紹介した。
講演のテーマである「イノベーティブカンパニー」への変革。この変革を実現するために重要な3つのテーマとして掲げたのが、「ビジネスモデルの変革」「デジタル基盤の強化」「マインドセットの変革」だ。
「ビジネスモデルの変革」の中核として紹介したのは、三菱電機の新たなデジタル基盤「Serendie®(セレンディ)」。漆間社長は「創業から多岐にわたる事業領域で制御機器などの開発に取り組んできたが、事業間でデータを共有する取り組みは進んでいなかった。セレンディでは各種コンポーネントやサービスから得られる豊富なデータを統合して分析し、顧客が抱える潜在的なニーズを把握して課題解決に向けた新しい価値を創出する取り組みだ。セレンディの活動で『新たなサービスの創出』『顧客の拡大』『コンポーネントの付加価値向上』の3つの変化が生まれている。2030年度までに関連事業の売上高を1.1兆円規模にする」と語った。
ビジネスモデルの変革・Serendie活用事例について紹介した動画はこちら
「ビジネスモデルの変革」を推進する上で重要なのがハードの強化である「デジタル基盤の強化」だ。漆間社長は目まぐるしく進化するデジタル技術の現状を踏まえ「全て自前で開発するのではなく、グローバルで社外のパートナーと連携する取り組みが不可欠」と説いた。2025年1月にセレンディの中核拠点としてオープンした「Serendie Street Yokohama(セレンディストリート横浜)」は、まさに社内外の人財が共創する舞台。顧客や協力企業のエンジニアと当社のデータサイエンティストなどがデータを共有し、今まさに自由な発想で探索や実験に取り組んでいるところだ。
さらに、人工知能(AI)の急速な進化に触れ、「当社が目指すのは自ら判断・学習し、現場の課題を解決する独自のフィジカルAI、『ニューロフィジカルAI』の実現。多様な機器から得られる膨大なデータと技術者の『暗黙知』を活用し、例えば部品の搬入から出荷まで完全自動化した工場も実現できる」と今後の構想を紹介した。
デジタル基盤の強化について紹介した動画はこちら
イノベーションを起こすハードの環境整備だけでなく、ソフト面の「マインドセットの変革」も重要だ。三菱電機は「DX人財の拡充」と「新たな企業カルチャーの醸成」の両面からマインドセットの変革を推進する。
三菱電機は、社内のDX人財を育成するための機関「DXイノベーションアカデミー」を設け、7つのスキル設定に応じた教育プログラムを提供しているほか、早稲田大学との産学連携で最新の理論等を学べる環境も整えている。「大切なのは課題を迅速に解決するアジャイル開発に対応できる、技術とマインドセットを兼ね備えた人財の拡充だ。今後、DX人財の採用もさらに強化し、M&Aを活用した海外での体制整備も進め、現状1万人規模のDX人財を2030年には倍増させたい」と話した。
マインドセット変革について紹介した動画はこちら
三菱電機は、2023年から漆間社長を始めとした経営陣を含むグループ15万人がそれぞれの志を立て、表明するマイパーパスプロジェクトを進めている。自身の志と会社のパーパスとが共鳴する点を醸成していく取り組みであり、「個の志に従うことが会社のパーパスにつながるならば、一人ひとりが業務に対し、より主体的かつ前向きに取り組み、常に担当事業の価値を高めるための工夫や新しいアイデアを考え、リスクを恐れず新しい価値に挑むことができるようになるのではないかと期待している」と漆間社長は語る。
三菱電機はグループ15万人の力を集結し、3つの変革を通したイノベーティブカンパニーへの変革に向けた取り組みが今まさに着実に進んでいる。
「GDS2025世界デジタルサミット」(日本経済新聞社主催)では、パネルディスカッション「産業データを考える~データ連携で産業競争力を高めるには」も企画され、三菱電機からは専務執行役CDO兼CIOの武田CDOが登壇した。
武田CDOは三菱電機が重視する「循環型デジタルエンジニアリング」の取り組みを紹介し、AI社会での三菱電機の進む道筋を示した。
三菱電機は電力、防衛宇宙、FAなど12の事業領域でハードウェアとソフトウェアを提供している。それぞれの製品群からは日々、膨大なデータが得られ、そのデータをお客様の付加価値向上に活かすのが三菱電機のデジタルを活用した循環型ビジネスの形だ。「現在は事業領域別にとどまらず、異なる事業から得たデータを掛け合わせて、さらに高い付加価値を生み出す取り組みを進めている」と説明。「全社統一のプラットフォームとして事業横断のデジタル共創基盤『Serendie®(セレンディ)』を構築し、すでに『電力×工場』『電力×交通』のような掛け合わせから、エネルギーのトータルソリューションなどの新たな価値が生まれている」と具体例を示した。
日本の製造業は事業部門の独立性が強く、横断的な取り組みが進みにくいとされる。運用の難しさを問われた武田CDOはまず、「セレンディは事業ごとの『サイロ』を壊すことを目的とした取り組みではなく、カーボンニュートラルなどを背景にお客様のニーズが大きく変わり、それに対応するためには事業横断の取り組みが必要だった」と説明。そのうえで「まだデータを全社横断で共有する意識が、社内に深く浸透しているとは言えない。『データ活用宣言』などのスローガンを掲げ、社長自ら『お客さまのために必要な取り組み』と訴え続け、マインドセットの変革に努めている」と話した。また世界情勢がグローバリゼーションから「分断」へと変化していることに触れ、「データの活用でも地域をブロック化して対応する必要が出ている」と指摘した。
また「データそのものに価値があるのではなく、データでお客様の課題を見つけ出すことに価値がある」と強調。議論が工場などのリアルな空間から得たデータをAIで分析しロボットなどを精緻に駆動させる「フィジカルAI」の可能性に及ぶと、「AIに現場の『暗黙知』も学習させ、自律分散的に人と協調できるようになれば、人口減少社会に貢献できる。日本のモノづくりの強みは自律分散的なエッジAIの分野で生かせる」とした。それに対し、他のパネリストからは「世界に冠たるエッジAIを開発してほしい」とのエールが送られる場面もあった。
- 掲載されている情報は、2025年7月時点のものです。
制作: Our Stories編集チーム