2026.03.31
制度・市場・現場をつなぐオープンイノベーションの実践
グローバルに広がる衛星データ活用の可能性――Archedaとの共創が拓く自然資本ソリューション
2025年6月10日、三菱電機は株式会社ArchedaへのCVC出資を発表した。本取り組みは、森林や水田といった自然資本分野のカーボンクレジットにおけるMRV(測定・報告・検証)の高度化を三菱電機と共に目指すものだ。
自然由来クレジットの市場は拡大が期待される一方、「実際にどれだけ吸収・削減されたのか」を客観的に示せなければ、信用は積み上がらない。とりわけ農地は広域で農作業状況の把握は大変困難であり、継続的に現地の状況を確認し信頼を担保するには限界がある。そこで活用されるのが、雲や煙の影響を受けにくいLバンドSAR衛星だ。
LバンドSAR衛星とは、昼夜・天候に依存しない観測能力を持ち、高い植生透過性や、"干渉SAR解析によるミリメートル級の"地表変動を検出可能とする衛星。
防衛・宇宙システム事業本部の栗原さんは、本件を「人工衛星の技術を研究成果で終わらせず、制度と市場に接続する事業化ルート」と位置づける。重要なのは、解析精度そのものではなく、それを監査に耐える形で運用に落とし込むこと。衛星データを“成果物”としてではなく、“社会で機能する仕組み”として設計できるかどうかが問われている。
技術を「使われる価値」に変える共創
三菱電機がArchedaをパートナーに選んだ背景には、同社が衛星データを監査対応可能なエビデンスへ翻訳する設計力を持っている点がある。加えて、認証団体や政府機関、デベロッパーや現地パートナーを含む制度側との接点を持ち、実装を見据えた調整ができる点が選定理由となった。
三菱電機にとっての学びは、技術の優位性だけでは事業は成立しないという現実を、より具体的に捉え直せたことにある。誰が意思決定を行い、どの指標で納得し、どのような運用体制で継続されるのか。こうした視点を初期段階から織り込むことが、社会実装の前提条件となる。
CVCを運営するビジネスイノベーション本部の物部さんは、今回の取り組みを「衛星データの社会実装エンジンを具体化する一例」と語る。CVCは出資自体を目的とするのではなく、出資をスタートアップとの関係性の起点として、事業部の技術資産をスタートアップと連携して最短距離で市場に届けるための手段と考えている。スタートアップの機動力と、事業部が持つ技術基盤を結びつけることで、技術を“使われる価値”へと転換する速度を上げていく。
オープンイノベーションが機能する条件
物部さんは、スタートアップなどの外部と連携し新事業を創出するオープンイノベーションは仕組みや制度だけで動くものではない、と強調。機能させるためには、いくつかの前提がある。
第一に、目的とビジョンの共有である。何のために取り組むのか、どこを目指すのかが揃わなければ、議論は検討段階で止まってしまう。早期に到達点を明確にし、共通言語を持つことが出発点となる。
第二に、「決める人」と「動く人」を同じ構図に乗せること。意思決定者だけでは現場は動かず、現場だけでは前に進まない。事業部の挑戦が止まらないよう、関係者を整理し、段取りを整え、実行までつなぐ。その橋渡しを担うのがビジネスイノベーション本部の役割だ。
第三に、信頼関係の構築だ。前提条件や制約、期待値を早い段階で共有し、未完成の状態でも率直に議論する。良好な関係を保つこと以上に、ズレを小さいうちに修正できる環境をつくることが重要だという。
物部さんは、今回のCVC出資および協業を通じて得たいものを「成果そのものだけではなく、再現性ある進め方」と語る。誰を巻き込み、何を先に決めれば止まらないのか。どうすればサービスとして回るのか。その知見を蓄積し、他領域へも展開可能な型へと昇華させることが、全社としての新事業創出につながる。
グローバルに広がる価値創出へ
今回の共創パートナーであるArchedaの城戸さんは、三菱電機との連携がもたらす意義として、技術的信頼感とグローバルでの信用の高さを挙げる。自然由来クレジットの領域では、海外政府機関や国際企業との対話が不可欠であり、グローバルに事業を展開してきた企業との協業は、実装の確度を高める要素となる。
現在は森林バイオマス評価や水田の水管理評価などの実証を進めている段階だが、目指すのは国産衛星を活用したモデルケースの確立である。その先に、他国展開や、自然由来系のプロジェクトの信用確保、市場拡大を見据える。
衛星データを“信用のインフラ”へと進化させること。それは自然資本の価値を可視化し、金融や政策の意思決定を支える基盤を築くことでもある。
三菱電機は、多様な事業領域をグローバルに展開する企業として、技術を社会で機能させる道を模索し続けている。Archedaとの共創は、その挑戦の一断面である。オープンイノベーションを通じて技術を実装し、新たな価値につなげていく試みは、今後も様々な地域・領域で展開していく。
*掲載されている情報は、2026年3月時点のものです。