挑戦の先に学生たちが得た“気づき”と成長—FA競技大会「MECA Cup Japan 2026」日本初開催

2026.05.21

挑戦の先に学生たちが得た“気づき”と成長—FA競技大会「MECA Cup Japan 2026」日本初開催

「最初は、正直難しそうだと思っていました」

そう語るのは、最優秀賞を受賞した熊本高等専門学校(以下、熊本高専)のチーム「とまとめーしょん」の学生たちだ。

2026年3月、名古屋製作所で開催されたFAシステム構築の技能やアイデアを競う競技大会「MECA Cup Japan 2026」。初の日本開催となるこの大会で、全国から集まった高専生たちは、FA(ファクトリーオートメーション)という未知の領域に挑んだ。

最先端の3Dシミュレータを使い、自分たちで課題を見つけ、解決策を導き出す。その試行錯誤の先に、彼らが手にしたものは何だったのか。最優秀賞に輝いた熊本高専の学生たち、彼らを指導した湯治準一郎教授、そして「MECA Cup Japan 2026」の運営を担当した三菱電機の林日向子さん、それぞれの視点から大会を振り返った。

目次

なぜ、学生にここまで向き合うのか―FA教育支援活動「MECA」に込めた想い

三菱電機は、エンジニアを目指す学生の情熱を育み、優れた人材を育成することを目的に、FAの総合的な教育支援活動「MECA」に取り組んでいる。学生や教育機関に対して、教育プログラムや機材の提供などを行っており、FA競技大会である「MECA Cup」の開催もその一環だ。これまで海外7地域で開催されてきたが、「MECA Cup Japan 2026」は初の日本開催となる。

2026年3月16日、三菱電機名古屋製作所に、函館・北九州・鹿児島・熊本・大分の5つの高専より6チームが参加。「3DシミュレータMELSOFT Geminiまたは三菱電機FA機器を用いた身近な課題解決アイデアの提案」というテーマのもと、各チームは10分のプレゼンテーションと3分の質疑応答に臨み、成果を披露した。

発表終了後は、製作所内の見学、他校生やOBとの交流会、三菱電機社員によるトークセッションなども実施。学生たちはレベルの高い技術を前に目を輝かせていた。

表彰式では各賞と最優秀賞を発表。最優秀賞に選ばれたチームは、2026年9月に横浜で開催される世界大会「MECA Frontier Forum 2026」への出場権を手にした。

試行錯誤の日々の先に掴んだもの―熊本高専チームの3カ月

最優秀賞を受賞したのは、熊本高専3年生の井出海芯さん・大森学さん・佐々川諒太郎さん・盛髙雄寛さんのチーム「とまとめーしょん」。リーダーの佐々川さんが仲間に声をかけて結成。地元・熊本県八代市の名産品であるトマトに着目し、トマト農園におけるFA化をシミュレーションした。

左から、盛髙さん、大森さん、佐々川さん、井出さん 左から、盛髙さん、大森さん、佐々川さん、井出さん

「僕たち4人は機械知能システム工学科のクラスメイトで、普段は機械分野を中心に学んでいます。“トマト農園のFA化”をテーマにした決め手は、学校の近くのトマト農園と以前から交流があったことです。このテーマなら地域の課題解決に貢献できると思い提案しました。

取り組む上で最も重視したのは、“ロボットと人間の共生”という観点。全ての工程を自動化するのではなく、“最終的には人間の手が必要”という発想を大切にしました。また、プレゼンテーションではアニメーションを多用し、流れの分かりやすさにこだわりました」(佐々川さん)

盛髙さんと大森さん 盛髙さんと大森さん

発表資料を作成した盛髙さんは、「これほど多くのアニメーションを作ったのは初めてで、この経験によって自分自身がスキルアップできたことに喜びを感じています。この経験は将来、仕事に就いたときにも生かせるのではないかと思っています」と語る。

課題に取り組む中で、つまずきもあった。シミュレーションを中心となって進めた大森さんはこう語る。

「今回のシミュレーションは、三菱電機から提供されたMELSOFT Geminiを使用しましたが、初めて触るソフトウェアだったのでかなり苦戦しました。特にアセンブリ機能(製品を部品単位で構成し、組立・分解をシミュレーションできる機能)の設定では考慮すべき変数が多く非常に難解で、『使いこなせたら面白いんだろうな』と思いながらも、一度は挫折しかけました。それでも別の手法を代用することで、自分たちが求める動きを実現させることができました」(大森さん)

チームを結成してから約3カ月。毎日のように放課後に集まっては作業に没頭した経験は、彼らをどのように成長させたのだろうか。

「自分たちに何が足りないかを把握し、自ら調べて勉強していく“課題解決型学習”に取り組んだのは初めての経験でした。このプロジェクトは、実際の仕事に近いかたちだったのではないかと思います。今回の取り組みによって、自律的に学ぶ姿勢が身に付きました」(井出さん)

佐々川さんと井出さん 佐々川さんと井出さん

今大会の感想を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「他校の“音楽とシステムを掛け合わせた発表”に強い衝撃を受けました。『工業って芸術などの異分野とも融合できるんだ!』という新たな気づきを得ましたね。また、OBとの対話では、『学生のうちに英語を学んでおいた方がいい』とのアドバイスをいただきました」(佐々川さん)

最優秀賞を受賞し、世界大会への切符を手にした4人。

「世界大会という大きな舞台で、日本が注目されるように全力を尽くしたいです」(佐々川さん)

「教えない」ことで育つ力―見守る指導が生んだ、学生たちの変化

「とまとめーしょん」を指導した湯治教授は、「このプロジェクトは学生たちが自主的に進めたもので、指導はほとんどしていません」と語る。湯治教授が行ったのは、学生たちが作業に没頭できる環境を整えること。研究室を開放し、彼らが試行錯誤する姿をひそかに見守っていたという。

「当初はFAという言葉すらよく知らなかった学生たちが、自分たちで調べて議論し、トライアンドエラーを繰り返すことで、課題解決力を身に付けました。通常の授業やロボットコンテストでは、自分たちで自由に材料を選ぶことが多いのですが、今大会では、実際に企業の現場で活用されているMELSOFT Geminiを提供されて使用しました。そうやってリアルなシステムに触れられ、実際の現場でも通用するような極めて実現性の高い課題に挑めたことは今大会の大きな意義であり、彼らの成長につながったはずです。

将来、製造業に進む学生には、“AIにはできない、その一歩先の部分を担う人材”になってほしいですね。今大会で磨いた課題解決力を活かして、さらに提案力や発想力、具現化する力を伸ばしてほしいです」(湯治教授)

世界大会へ挑む教え子たちへ、湯治教授は「世界各国の参加者とのアイデア戦に挑むにあたり、より高い意識を持って、自分たちが納得できる最高の発表をしてきてください。心から応援しています」と熱いエールを送った。

挑戦の場をつくるということ―三菱電機が担う次世代エンジニアを育む役割

「MECA Cup Japan 2026」の運営を担当した三菱電機の林さんは、「MECAを通じて提供したいのは、技術習得の場ではなく、学生が自ら課題を見つけて解決策を考える経験です」と語る。

「今大会では、自由な発想で課題に取り組んでもらいたいと考え、あえてテーマを細かく設定しませんでした。その方が、既成概念にとらわれない学生ならではの視点や、遊び心のあるアプローチを期待できると考えたからです。実際、学生の皆さんは、身近な困りごとやアルバイト経験を出発点に課題を見つけてきてくれました。生活に根差した課題設定だからこそ、FAの適用範囲の広さや、実際に動かしてみて初めて分かる面白さ、奥深さを実感できたのではないでしょうか。

また、一次提出から最終提出にかけて、各チームの資料は明らかにブラッシュアップされており、最後まで何度も試行錯誤を重ねた跡がうかがえました。当日のプレゼンテーションも練習の成果が感じられて、私自身もおおいに学ばせていただきました」(林さん)

そんな林さんは、世界大会に出場する熊本高専「とまとめーしょん」へ、運営・審査側として確かな信頼を口にした。

「世界大会に向けて不安もあるかと思いますが、日本大会の初代優勝チームとして自信を持って送り出します。どうか臆することなく、堂々と臨んでいただきたいです」(林さん)

自ら課題を見つけ、考え、形にする―。

熊本高専をはじめ、今大会に挑んだ学生たちが手にしたのは、技術だけではない。これからの社会で求められる“考える力”そのものだったはずだ。その挑戦を支える環境と人の存在が、次世代の可能性を少しずつ広げていく。その挑戦を信じて見守る教員と、可能性を広げる場を提供する企業の存在。こうした環境が、次世代のエンジニアたちの羽ばたきを支えていく。

「最初は、正直難しそうだと思っていました」と語っていた学生たちが踏み出した一歩は、やがて製造業の、そして社会の未来へとつながっていくだろう。

* 掲載されている情報は、2026年3月時点のものです。

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