未来の“あたりまえ”をつくる 新技術への挑戦~光電融合技術。次世代データセンター、その先へ~

2026.09.28

未来の“あたりまえ”をつくる 新技術への挑戦~光電融合技術。次世代データセンター、その先へ~

AIの進化によって、私たちの仕事や暮らしは大きく変わり始めています。文章をつくる。画像を生み出す。膨大な情報から答えを探す。そんな便利さの裏側では、想像を超える量のデータが生まれ、処理され、世界中を行き交っているのです。一方で、データを扱うための電力消費は、見過ごせない課題になっています。AI時代の情報インフラを持続可能なものにしていくには、データをより速く、より少ない電力で処理・伝送する技術が欠かせません。
そこで注目されているのが、光と電気それぞれの強みを活かしながら、データをより効率的に処理・伝送する「光電融合技術」です。
まだ発展途上にあるこの技術に、なぜ挑むのか。その先に、どんな未来を描いているのか。研究開発の最前線に立つ二人の言葉から、未来の“あたりまえ”をつくる挑戦をひも解きます。

目次

AIの便利さの裏側で、いま起きていること

生成AIの普及により、データセンターが扱う情報量は急速に増えている。AIモデルは年々大規模化し、それに伴ってデータの処理や通信に必要な電力も増大している。データセンターの消費電力は、2030年には2024年の2倍以上に達する※ともいわれ、AI時代の大きな社会課題になりつつある。

(※出典:IEA(2025年)、エネルギーとAI、IEA、パリ https://www.iea.org/reports/energy-and-ai、ライセンス:CC BY 4.0)

「現在のデータセンターでは、AIの計算そのものだけでなく、データを移動させる通信にも多くの電力が使われています。通信にかかる電力を抑えられれば、その分を本来必要なAIの計算に使うことができ、AIの価値をさらに高めることにつながります」
そう話すのは、三菱電機 光電融合デバイスプロジェクトグループのプロジェクトグループマネージャーを務める大畠伸夫さんだ。

大畠 伸夫さん 大畠 伸夫さん

三菱電機は30年以上にわたり、光通信技術の研究開発に取り組んできた。通信の世界では、1980年代から光通信が使われてきたという。光には、大量の情報を遠くまで高速に届けられるという特長がある。
かつては長距離通信のための技術だった光通信は、いまでは家庭のインターネットにも広がり、さらにデータセンター内の機器同士をつなぐ領域にも活用されている。

AI時代に求められるのは、もっと速く、もっと大容量で、しかも省電力な通信。その実現に向けて、三菱電機はデータ伝送の高速化と低消費電力化を目指す開発を進めている。

データの通り道を短く、早く、省エネに

データセンターの中では、膨大なデータが機器の間を絶えず行き来している。そのデータは、ある場面では電気信号として扱われ、別の場面では光信号へと変換される。

光電融合技術とは、電気信号と光信号を変換する光デバイスや、その周辺回路を、データ処理を行う半導体チップの近くに配置することで、データ伝送の高速化と低消費電力をめざす技術である。ポイントは、光を扱う部品を、データ処理を行うIC(Integrated Circuit、集積回路)の近くに置くこと。距離が短くなれば、信号のロスを減らし、消費電力を抑えることができる。通信に使う電力を抑えられれば、データセンター全体の電力制約を緩和し、同じ電力でより多くのAI処理を行える可能性があります。その実現形態の一つが、CPO(Co-Packaged Optics)、つまり光電コパッケージである。CPOは、これまで基盤上で離れて配置されていた光部品と電気部品を、同一パッケージの内、あるいは極めて近い位置に実装する考え方だ。

「現行の構成では、電気信号を光信号に変換する光電変換部がプリント基板の端に配置されているため、ICとの間の電気配線が長くなります。距離が長いほど信号の減衰が大きくなるので、ICのすぐ近くに光電変換部を置くことが重要になります」(大畠さん)

大畠さんの言葉から見えてくるのは、光電融合技術が単なる性能向上のための技術ではないということだ。データの流れを変え、電力の使い方を変え、AIを支えるインフラの未来を変えていく。小さなデバイスの中に、大きな社会課題への挑戦が詰まっている。

この実現に向けて2026年4月に発足したのが、光電融合デバイスプロジェクトグループだ。パッケージ技術開発グループのグループマネージャーを務める白尾瑞基さんは、三菱電機の強みをこう語る。
「当社は、レーザと光変調器を一体化したEMLという光デバイスをデータセンター向けに提供してきた実績があります。さらに、インジウムリンに代表される化合物半導体の技術を持っていることも大きな強みです」

白尾 瑞基さん 白尾 瑞基さん

一般的に半導体といえばシリコンがよく知られている。一方、三菱電機が得意とする化合物半導体は、電気信号を光信号に変換する効率の高さに特長がある。これまで積み重ねてきた技術を、AI時代の新しい課題解決へどう活かすか。それがプロジェクトの重要なテーマになっている。

正解のない領域だからこそ、自分たちで道をつくる

もちろん、ICの近くに光デバイスを置けばすぐに完成、という単純な話ではない。小さなスペースに多くの機能を詰め込みながら、高速性を保ち、熱の影響も抑える必要がある。光と電気の配線、部品の実装、評価の方法など、越えるべき壁は多い。

白尾さんは、その難しさをこう話す。
「例えば、光の領域と電気の領域ではパッケージ技術の考え方も異なります。光電融合の技術開発以前に、半導体装置メーカーや材料メーカーなど、文化もバックグラウンドも違うパートナーと連携しながら進めていくこと自体がチャレンジですし、光と電気の境界では想定していないことが起きるのも、面白くもあり大変なところです」(白尾さん)

まだ誰も正解を持っていない。だからこそ、試作し、評価し、改善を重ねながら、自分たちで道をつくっていく必要がある。そこには、研究開発ならではの難しさがある。同時に、未来のスタンダードを自らの手でつくっていく面白さもある。光電融合技術は、三菱電機だけで完結するものではない。異なる技術や知見を持つパートナーとの共創によって、社会実装を目指す技術だ。すでにグローバルでは、台湾や米国を中心としたエコシステムも動き始めている。三菱電機は、そうした流れとも連携しながら、自社が強みを持つ化合物半導体や光デバイス技術に磨きをかけ、社会実装に近づけていく考えだ。

「将来のスタンダードになるかもしれない技術に挑戦できることは、大きな刺激です。単に性能の高いデバイスをつくるのではなく、社会で実際に使われる“未来のあたりまえ”をつくっていく。それが私たちのミッションだと思っています」(白尾さん)

白尾さんの言葉には、技術を技術だけで終わらせないという意志がにじむ。社会で使われ、人々の暮らしや産業を支えるものにしていく。そのための挑戦が、いま研究開発の現場で進んでいる。

データセンターの先に広がる、光通信の未来へ

三菱電機がまず見据えるのは、次世代AIデータセンターへの貢献だ。ロードマップでは、2028年から2030年にかけて、光電コパッケージの実用化に向けた技術確立を目指している。しかし、その可能性はデータセンターだけにとどまらない。大畠さんは、将来的にはデータセンター内の通信の多くが光技術へと置き換わり、さらにさまざまなシステムへと広がっていく可能性を見据えている。さらに、三菱電機が手掛ける衛星事業など、さまざまな分野への展開も視野に入る。

「いま取り組んでいるのは基盤技術です。だからこそ、将来どこまで広がっていくのかを考えると、未来社会のインフラづくりに挑んでいる実感があります。三菱電機として、その一翼を担えることに大きなやりがいを感じています」(大畠さん)

便利さの裏側にある課題に向き合い、通信に使う電力を減らしながらAIの可能性をより持続可能な形で広げていく。通信の高速化と低消費電力化を目指す光電融合技術、その小さな実装技術への挑戦が、やがて社会の大きな変化につながっていくかもしれない。

未来の“あたりまえ”は、まだどこにもない。だからこそ、三菱電機はその一歩先へ挑み続けている。

* 掲載されている情報は、2026年9月時点のものです。

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