なぜ今、三菱電機が「意味中心」のイノベーションに取り組むのか。東京大学・NEW STANDARDと挑む、次世代のものづくり

2026.08.20

なぜ今、三菱電機が「意味中心」のイノベーションに取り組むのか。東京大学・NEW STANDARDと挑む、次世代のものづくり

高機能、高性能、高効率—。三菱電機はこれまで、真面目に愚直に、目に見える数字やスペックを追い求め、日本の社会インフラや人々の暮らしを支えてきました。しかし今、大きなパラダイムシフトの渦中にいます。
「現場デザイナーの活躍が、三菱電機の未来を変えていく」
モノが溢れ、価値がコモディティ化する現代社会において、生活者が求めているのは、製品のスペックの高さだけでなく、「それが自分や社会にとってどんな意味を持つのか」という意味的な豊かさに変わりつつあります。
2025年9月、三菱電機はこの課題に本気で向き合うため、東京大学と共に社会連携講座「SVDE*(意味的価値や社会的価値を生み出すデザインエンジニアリング)」を開設しました(未来デザイン会議内)。2026年4月には、ミーニング・デザインカンパニーを掲げる気鋭のスタートアップ「NEW STANDARD」も加わりました。
なぜ今、三菱電機が「意味中心」のイノベーションに取り組むのか。2026年5月に開催された「意味中心設計フォーラム 2026」の熱気と共に、プロジェクトが目指すビジョンと、変革の旗を振る現場の挑戦をレポートします。

  • SVDE:Design Engineering for Semantic Value

目次

「意味的価値」の時代へ

「これまでは数字で表しやすく、社内の合意も得やすい『機能価値』の追求に甘え、気づけばニーズを超えた機能過多に向かわせてしまっていたのではないか」
前述の「意味中心設計フォーラム」の冒頭、上席執行役員 ビジネスイノベーション本部長の松原公実さんは、自戒を込めてこのように切り出しました。この言葉こそが、今、三菱電機が全社を挙げて変革に挑む危機感の表れです。
高度経済成長期から近代にかけて、日本の製造業は「より速く、より小さく、より多機能に」というゴールに向かって走ることで、世界をリードしてきました。しかし、顕在化したニーズに応えるだけのものづくりは、やがて市場の飽和と機能のインフレを引き起こします。
今、生活者が求めているのは、物質的な充足を超えた「心の充足」や「社会的な価値」です。製品やサービスが、自分の生き方や社会に対してどのような新しい「意味」をもたらしてくれるのか。この「意味的価値」を創出することこそが、これからのイノベーションの主戦場となっています。

産学共創で挑む「意味のエンジニアリング」と「オープンイノベーション」

では、抽象的で人によって捉え方が異なる「意味的価値」を、どのようにしてものづくりに落とし込むのか。それこそが、社会連携講座「SVDE」でのアジェンダです。
この取り組みのポイントは、「意味」をデザイナーのセンスや経験値といった属人的な暗黙知に留めず、東京大学の柳澤秀吉教授が専門とする「感性設計学」や「ベイズ推論」「自由エネルギー原理」といった数理モデル・脳科学のアプローチを用いて、エンジニアリング(形式知)へと昇華させようとしている点にあります。また「ミーニング・デザイン」の専門家であるNEW STANDARDが参画したことで、東大の「理論」と三菱電機の「技術・インフラ」、そしてNEW STANDARDの「ブランドデザインやマーケティング」の観点が三位一体となり、研究を机上の空論で終わらせず、「社会実装」へ繋げるエコシステムが構築されました。
この産学共創プロジェクトについて、研究開発本部 シニアフェローの水落隆司さんは、次のように語ります。
「従来の『自前主義』やクローズドな開発スタイルから脱却し、外部の多様な知見と混ざり合うオープンイノベーションを加速させます。このSVDEを通じて、ものづくりのプロセスそのものを変革し、三菱電機を真にイノベーティブな組織へと生まれ変わらせていくことが、私たちの目指す姿です」

また「意味中心設計フォーラム2026」には、産学官から約150名ものキーパーソンが集まり、会場は熱気に包まれました。
フォーラムでは、三菱電機の対話翻訳ソリューション「MelBridge(メルブリッジ)」の実証実験エピソードが紹介されました。言葉の壁に悩む外国籍の従業員がこのシステムを使った際、単に「正確に翻訳された(機能)」ということ以上に、「会社から自分が大切にされていると感じた(意味)」ことに感動したといいます。「信頼感」という目に見えない意味的価値が、人を動かした事例です。

現場デザイナーの活躍が、三菱電機の未来を変えていく

「意味中心設計フォーラム」のパネルディスカッションでは、三菱電機のデザイナーが中心となり、SVDEの理論を実践したワークショップの成果が発表されました。その発表方法も面白く、スマホ投票を活用した、参加者とのリアルタイムセッション形式を採用しました。
この日のテーマは、会場への呼びかけで決まった「路線バスの新しい意味の設計」。「単なる移動手段」だったバスを、同じ目的地で違う系統のバスに乗っている乗客が到着の早さを競う『競バス』や、移動そのものがエンターテインメントになる『出会いの謎解きバス』など、次々と新しいアイデア(意味)へと昇華させ、会場を大いに沸かせました。ポジティブに理論を使いこなし、未来変革へのアイデアを生み出す姿に、力強さを感じました。
統合デザイン研究所 デザイン戦略部長の南雲孝太郎さんは、現場のメンバーたち、そしてこれからのデザインの役割について次のように期待を寄せます。
「デザイナーの役割は、スタイリングやUI/UXに留まりません。ビジネスや社会、そして人々の体験における『意味』そのものを定義し、デザインしていく領域へと拡張していきます。今回、楽しそうに変革の旗を振ってくれた現場のメンバーたちが、今後の三菱電機のものづくりを変えていくと確信しています」

「意味中心」の、新しい物語の始まり

三菱電機は、2026年4月に企業理念「Our Philosophy」を刷新し、「飽くなき探究心と驚きの技術で、未来の価値を創造する」という新たなパーパスを掲げました。
東京大学、NEW STANDARDとともに挑む「SVDE」の取り組みは、まさにこの新理念を現場レベルで体現する象徴的な挑戦です。「競争から共創へ」「クローズドからオープンへ」。
技術の三菱電機が「意味の創造」という新しい武器を手に入れたとき、私たちの暮らしや社会はどれほど豊かで、おもしろいものに変わっていくのか。新生・三菱電機が紡ぎ出す、未来への新しい物語は、まだ始まったばかりです。

*掲載されている情報は、2026年8月時点のものです。

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